「新選組展2022」を振り返る講座 担当学芸員が語る展覧会の舞台裏、新時代の新選組研究

昨年、福島県立博物館と京都文化博物館で開催され、約10万人が来場するなど注目を集めた「新選組展2022」を振り返る講座が5月27日、東京・大手町の読売新聞ビルで行われました。土方歳三資料館(東京都日野市)の土方愛館長が「この人の話を聞いてほしい」という方をゲストに招く有料講座『土方歳三子孫の「あの人に会いたい」シーズン1』の一環で、京都文化博物館の西山剛学芸員が同展の舞台裏を話してくれました。

2004年の大河ドラマ「新選組!」で濃厚な群像劇としての新選組に興味を持ったという西山さん。江戸時代の職能論や身分制研究を専攻し、2010年から京都文化博物館で働き始めました。その後、福島県立博物館と関係が深まり、2018年末から本格的に展覧会の準備に入りましたが、そこにコロナ禍が直撃。「果たして本当にできるのだろうか、と不安が募った」そうですが、この2020~2021年の間に調査を深めたことが「展覧会の質を上げた」と振り返ります。

壬生寺、泉涌寺、下鴨神社など様々な寺社にある新選組関連資料について調査を進めるなどしました。あるいは土方歳三資料館に所蔵されている歳三の籠手に針が入っていたことに注目。「禍々しいものを避けるために、針の魔力を活用するという習俗が各地にあります。歳三さんもそういうおまじないに頼ったのかも、と想像すると、歳三さんが体温を伴った人間として立ち上がってきた気がしました」と言います。

展覧会の性質上、展示品は手紙などの文献が多くなるため、「できるだけ全部を広げてみてもらう」など展示方法には様々に工夫。実際、とても熱心に文書類に見入る来場者が多く、「新選組に惹かれている方々は、新選組の人々の生の声、肉声を求めているので、それが伝わってくる文献資料は非常に重要なもの。実物の手紙などが持つ力に圧倒されました」と西山学芸員は言います。今後の課題として、「長州や薩摩など、対抗勢力からどのように新選組が見えていたのか、などの研究が重要になってくると思います。近年、新選組研究は充実してきていますが、今後もどんどん更新されていくと思います」と予測。「10年後ぐらいにまた新選組の展覧会を開けたらいいな、と。次は全国から資料を集めて、各地を巡回するような、列島を挙げた新選組展になったらいいですね」と話し、受講者を喜ばせました。
一方、福島、京都とそれぞれ5、6回ずつは展覧会に足を運んだという土方愛館長は「行くたびにキャプションが増えるなど、少しでも良いものを作ろうとブラッシュアップを怠らない学芸員さんたちの姿に感銘しました。図録も素晴らしく、今後の新選組研究の基礎資料になったと思います」と展覧会の完成度の高さを賞賛していました。
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)
「新選組展2022」の公式図録の紹介記事はこちら↓「美術展ナビオンラインストア」からの購入方法についても紹介してあります。