【開幕】「救いのみほとけ お地蔵さまの美術」根津美術館で7月2日まで 地蔵信仰の多様な広がり

重要文化財「地蔵菩薩立像」平安時代 久安3年(1147) 根津美術館蔵

企画展「救いのみほとけ ―お地蔵さまの美術―」
会場:根津美術館(東京都港区南青山6-5-1)
会期:2023年5月27日(土)~7月2日(日)
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日
アクセス:地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線 表参道駅より徒歩8分
入館料:一般1300円/学生1000円/中学生以下無料
※オンライン日時指定予約。当日券(一般1400円)も販売
詳しくは美術館ホームページ(https://www.nezu-muse.or.jp/)へ

開幕前日の内覧会を取材しました

身近な存在ほど意外と知らないことが多いのかもしれません。「救いのみほとけ お地蔵さまの美術」展が根津美術館(東京・南青山)で5月27日から7月2日まで開催されます。

いきなりですが、問題です。
【Q】もともと地蔵と対(パートナー)だった仏さまは?

答えは、虚空蔵こくうぞうです。

地蔵菩薩の地蔵とは「大を包」の意味で、対になるのは虚する、つまり虚空蔵菩薩でした。
答えを聞くと、なるほど!と思いますが、意外と知られていない両者の関係性です。飛鳥~奈良時代に日本に入ってきた頃の地蔵は、虚空蔵とセットでしたが、平安時代以降、地蔵が単独で信仰対象となっていくことに伴い、両者の関係性は薄くなっていったそうです。

右:初公開の「地蔵菩薩像」鎌倉時代 14世紀、左:「求聞持虚空蔵菩薩 并 明星天子像」南北朝時代 14世紀 いずれも根津美術館蔵

なぜ地蔵が単独で信仰されるようになったかというと、地獄で救ってくれる「ほとけ」だったから。特に中世の日本人は、死後に一度は必ず地獄に行くという死生観だったため、なおさらすがりたくなる仏さまが地蔵だったとのこと。

初公開の「地蔵十王図」室町時代 15世紀 根津美術館蔵 右が地蔵菩薩、左が初七日に行われる罪業の審判の様子

こうして、地蔵は、虚空蔵よりも、釈迦と弥勒と関連づけられるようになりました。釈迦と弥勒(釈迦の入滅後、何億年もたってから登場)の間の長い空白期間に、つまり現世に生きる当時の人たちにとって、”直接”救ってくれるのは地蔵であると考えられるようになったからです。

地蔵信仰の中には、決められた日にお寺に参詣して祈願すれば、地獄をスキップ(往生)できるという教えも。

重要美術品「矢田地蔵縁起絵巻」(部分) 室町時代 16世紀 根津美術館蔵

上の「矢田地蔵縁起絵巻」では12月24日に参詣すると「10万5000の罪が無くなり往生が決定する」と書いてあり、”カップル”がお地蔵さまに手を合わせています。クリスマスイブなのはもちろん偶然です。

「地蔵菩薩立像」鎌倉時代 13世紀 根津美術館蔵

根津美術館では初の地蔵展です。初公開の作品が多いのもそのためです。担当した学芸第二課長の本田諭さんによると、展覧会の準備をして初めて分かったことがたくさんあり、そして分からないことも多く見つかったそうです。本田さんによる解説動画も後日、公開しますのでお楽しみに。
「救いのみほとけ お地蔵さまの美術」展は5月27日から7月2日まで。誰もがその名を知る「地蔵菩薩」の多様で深い美と歴史を味わえます。
(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班 岡本公樹)

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