新型アートの街・前橋市(群馬県)に「まえばしガレリア」誕生 住む人も来る人もアートにインスパイアされる場に!

2020年12月、群馬県前橋市に日本屈指のアートホテルがオープンし、大きな話題となりました。そのホテルとは、老舗旅館をルーツに持つ「白井屋ホテル」で、敷地内のいたるところに現代アーティストの作品が組み込まれています。建築家の藤本壮介さんや、アルゼンチン出身のアーティストのレアンドロ・エルリッヒさんといった、そうそうたるクリエイターによる作品と一体化したこのホテルは、地域の人々に開かれていました。アーティストや地域の人々が「白井屋ホテル」を拠点にまちづくりにも貢献していたのです。徒歩数分という近距離にある美術館・アーツ前橋との連動企画にも積極的で、「アートの求心力が前橋で高まっている」と感じていました。

白井屋ホテル ©Shinya Kigure

そんな前橋に、この5月、アートレジデンス「まえばしガレリア」なるスポットが誕生したというではありませんか。
現代アート、美食、そして創造的な暮らしが織りなす「アートレジデンス」とのこと。さっそく内覧会を取材しました。

「まえばしガレリア」

前橋駅から15分ほど歩き、小道に少し入ったところに現れたのが、白い丘のようにこんもりとした建物。ふもとの方は開かれた中庭のようになっていて、すでに人々が集い始めていました。「白井屋ホテル」からも徒歩5分くらいという好立地。

よく見ると屋根やバルコニーから草木がめぶき始めているこの建物は、夏になる頃にはひとつの樹冠のようになるとのこと。設計した建築家の平田晃久さんは、「輪をなす住居群を空中に浮かべ、その下に店舗と中庭が一体化した広場をつくった」と説明します。住人以外にも開かれていて、この場所をオープンした株式会社まちの開発舎代表取締役・橋本薫さんは「ゆったりと過ごしつつも、アートから刺激を受けていろいろな発想が湧いてくるような場所になれば」と語ります。

「まえばしガレリア」の構成は次の通りです。

  • 1階:グローバルに展開する日本のギャラリー5社が拠点を構え、前橋随一の一流フランス料理のレストランが入居
  • 2階~4階:アートのある暮らしを楽しめる大きなテラス付き分譲レジデンス26戸

街をつなぐアート

©Shinya Kigure

まずは、ギャラリーを見ていきましょう。

ギャラリースペースは2箇所。ギャラリー1はタカ・イシイギャラリー、ギャラリー2は小山登美夫ギャラリー、MAKI Gallery、rin art association、Art Office Shiobaraの4社による共同運営となっています。

東側のギャラリー2からアプローチすると、最初に目に飛び込んできたのが、⻤頭健吾さんのカラフルなフラフープを組み合わせたインスタレーションです。建物の2階分ほどの高さがあります。

rin art associationの⻤頭健吾さんの作品

高崎在住の⻤頭健吾さんの作品は、白井屋ホテルのパサージュや客室を飾ったり、アーツ前橋で鑑賞できたり、至るところで楽しめるので、街をつなぐアートのシンボルだと感じました。

⻤頭健吾さんと彼の作品

⻤頭さんの作品展示を企画したのは、rin art association代表の原田崇人さん。高崎にギャラリーを持つ群馬県ゆかりのギャラリストです。原田さんは「このガラス張りの吹き抜けスペースには、インスタレーションをメインに展示していきたいと考えています。次回は前橋在住の作家・村田峰紀さんが手がける、辞書を素材にした大きなインスタレーションを展示予定です」と話します。

人口30万人を超える群馬の2大都市である高崎と前橋をつなぎ、人の流れを作るギャラリーになりそうな勢いを感じました。

ギャラリー2の奥のスペースでは、ブラジル出身のアーティストであるヴィック・ムニーズさんの新作をArt Office Shiobaraで展開していました。代表の塩原将志さんが作品について解説してくれました。

Art Office Shiobaraのヴィック・ムニーズさんの作品

「これは、モネのルーアン大聖堂を題材にした作品です。近づくと、この絵柄が、無数の人や物のパーツを組み合わせて出来上がったことがわかるでしょう?この無数のパーツは、ヴィックがインターネット検索で、モネのルーアン大聖堂に関係するキーワードを入力して出てきたイメージです。19世紀にモネが油彩で描いたモチーフを、リキテンスタイン(※)は20世紀の技術であるシルクスクリーンでアプロプリエイト(引用)し、そしてヴィックは21世紀の現時点ならではのテクノロジーを活用してこの作品を生み出しました。22世紀にはまた誰かがさらに進化した技術でアプロプリエイトするかもしれないという風に大きな歴史の流れも感じられます」

※ロイ・リキテンスタイン(1923~1997年):アメリカのポップ・アーティスト。アンディ・ウォーホルと並ぶポップアートの第一人者。

確かに近づいてみると、キリストやモナリザなどと関連していそうな画像が無数にコラージュされています。制作していたときのヴィックさんの脳内を見ているようで面白い。

Art Office Shiobaraのヴィック・ムニーズさんの作品(部分)

広場の延長のようにフラっと入ったギャラリースペースで、グローバルに活躍するアーティストの作品に出会えたのは嬉しい驚きです。

同じくギャラリー2では、小山登美夫ギャラリーが工藤麻紀子さんの作品を、MAKI Galleryがミヤ・アンドウさんの作品を展示していました。

工藤麻紀子さんの作品。小山登美夫ギャラリーにて
ミヤ・アンドウさんの作品 MAKI Galleryにて ©Shinya Kigure

海外の著名アーティストにも会えるかも?

ギャラリー1を単独運営するタカ・イシイギャラリーは、イギリスから大物アーティスト2名を招いて大作を展示。2階分の吹き抜けのガラス張りスペースを飾っていたのは、ケリス・ウィン・エヴァンスさんによる壮麗なシャンデリアのインスタレーションです。

Cerith Wyn Evans, “Mantra”, 2016 Courtesy of Taka Ishii Gallery / Photo : Kenji Takahashi

そして、その奥から姿を現したのは、ディノス・チャップマンさんではありませんか!兄弟ユニットとして制作活動をしていたロンドン出身の現代美術家で、ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(Young British Artists;YBAs)に参加したり、イギリスで最も権威あるアートの賞とされるターナー賞にノミネートされたこともある著名アーティストです。現在はソロ活動をしているとのことで、今回は絵画作品を展示していました。

ディノス・チャップマンさんと彼の作品

タカ・イシイギャラリー代表の石井孝之さんは、「路面店でこれだけの大きなスペースは都内ではまず確保できないので、この場所はチャンスととらえています。特にこの大きなガラス張りのスペースに作品を展示するというのは、ギャラリーにとっても作家にとってもチャレンジングです。こけら落としにイギリス人アーティスト2人を選んだのは、海外の人々も訪れてくれると良いなと考えたからです」と話していました。すでにグローバルマーケットを意識しているところに意気込みを感じました。

レジデンスやレストランは?

さて、上階のレジデンスは、三角のお部屋など、斜めの線や曲線が多くてユニーク。バルコニーや広場につながる階段もあり、部屋と共有エリアとの境界がゆるやかです。

レジデンスから広場につながる階段からは、賑やかに集う人々の姿が見えて楽しい。古代ギリシアのアゴラ(公園)が令和の前橋によみがえった?!

建築家の平田さんによると、建物の角度を街の角度に合わせていったところ斜めの線が多くなったそうです。建物が街に寄り添っている!だからこそ、現代的なのに、大正・昭和の面影が残る周囲の情景から浮くこともなく、フレンドリーなたたずまいなのだと実感しました。

また、6月1日(月)には、1階にフランス料理店「cépages(セパージュ)」は開店予定です。現在、ディナーコース(約3万円)の内容を考案中とのこと。楽しみです。

「みなで育てていく」場所

「まえばしガレリア」は、前橋の人々が有志で共同出資して実現しました。仕掛け人であるジンズホールディングス代表取締役兼CEOの田中仁さんも「ここはみなさんの善意でできた場所」と語ります。
これからも「みなで育てていく」ということで、新しいプロジェクトも次々にスタートするのだとか。国内外に開かれた、ニュータイプのクリエイティブスポットとして注目していきたいものです。

(ライター・菊池麻衣子)

【施設概要】
名称:まえばしガレリア
所在地:群馬県前橋市千代田町五丁目9-1
アクセス:JR両毛線 前橋駅から徒歩12分
敷地⾯積:1241.11㎡ 375.43坪(登記簿面積)
延床⾯積:2018.69㎡ 610.65坪(確認済証面積)個数:26戸
総専有面積:1637.91㎡ 495.46
階数:地上4階
事業主:株式会社まちの開発舎
設計・監理:株式会社平田晃久建築設計事務所

プロデュース:株式会社ジェイ・ティー・キュー
施⼯者:宮下工業株式会社
竣⼯:2023年5月
公式サイト:https://www.towndevelop.jp/