今秋の特別展「北宋書画精華」(根津美術館)にメトロポリタン美術館蔵の北宋名画2件が出品へ 李公麟の2大傑作「孝経図巻」「五馬図巻」が同じ空間に

特別展「北宋書画精華」 |
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会場:根津美術館(東京都港区南青山6丁目5番1号) |
会期:2023年11月3日(金・祝)~ 12月3日(日) |
休館日:月曜日 |
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
入館料:未定 |
詳しくは、美術館の公式サイト https://www.nezu-muse.or.Jp へ |
2018年に約80年ぶりに再発見された「五馬図巻」(李公麟筆、北宋時代、東京国立博物館蔵)をはじめ、日本に伝存する北宋時代の書画の優品が集まる特別展「北宋書画精華」が11月3日から12月3日まで根津美術館(東京・南青山)で開かれます。
この北宋の書画の神髄に迫る、日本で初めての展覧会に、アメリカのメトロポリタン美術館から「孝経図巻」(李公麟筆、北宋時代、元豊8年〈1085〉頃)と、「畢世長像(睢陽五老図巻断簡)」(北宋時代、11~12 世紀)の北宋絵画の重要作品2件が特別出品されることになりました。これにより、北宋を代表する李公麟(1049?~1106年) の2大傑作「孝経図巻」と「五馬図巻」が同じ空間に展示されることとなり、注目を集めそうです。

宋時代(910~1279年)は、中国書画史における頂点のひとつとされる時代。この時期の作品は後世、「古典」とされました。日本でも、南宋時代(1127~1279年)の作品を中心に、古くから憧れと収集の対象でした。
北宋時代(910~1127年)の書画についても、中国の清王朝の崩壊にともなって流出した作品をアジア内にとどめようと、近代日本の実業家が精力的に収集したため、重要な作品が数多く伝わっています。
その一つが、北宋を代表する画家・李公麟の幻の真作「五馬図巻」(重要美術品、中国・北宋時代、11世紀、東京国立博物館蔵)でした。「五馬図巻」は2018年に約80年ぶりに再び姿を現し、話題となりました。それまでモノクロ印刷のみで知られていた「五馬図巻」の表現が、繊細ながら色彩豊かで、「白描画の名手」という李公麟のイメージを超えるものだったからです。
この3件を含む全展示作品のリストは8月ごろに発表予定です。(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班 岡本公樹)
宋とは |
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宋は、中国・五代、後周の将軍であった趙匡胤が建てた王朝。金の侵入により江南に逃れる前を北宋(960~1127年) 、以降を南宋(1127~1279年)という。北宋は日本の平安後期とほぼ同時代であるが、中国史では両宋あわせ近世の始まりとされ、中国におけるルネサンスとも評される。羅針盤、火薬、活版技術など今日につながる科学技術が発明される一方、芸術面でも中国美術の最高峰が形成された。絵画では水墨山水画の古典が生まれ、書では行草書が個性を映す書体として進化を遂げ、工芸でも宮廷用に汝窯などで究極の青いやきものが作られた。歴代の中国皇帝たちにとって憧れの書画工芸が生み出されたのが北宋時代なのである。 |
李公麟とは |
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李公麟(1049? ~1106年) は、北宋時代を代表する画家の一人。舒城(現在の安徽省六安市)の富豪の家に生まれる。熙寧3年(1070年) に科挙に合格し、官僚として活躍した後、元符3年(1100年) 退隠。幼い頃から書や絵画の名品に親しみ、自らも収集に努めるとともに、それらの模写と研究を通じて書画のオ覚を磨いた。とくに唐の呉道玄や六朝の顧愷之に学んで伝統的な線描を身につける一方、書法や古文字にも精通して、線のみで対象を描く白描画に独自のスタイルを確立した。なかでも画馬に優れたと伝え、また蘇試や黄庭堅など同時代の文人に高く評価された。 |
孝経図巻とは |
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![]() 中国の儒学で聖典とされる十三経のうちの一つである「孝経」の内容を章ごとに絵に描き、本文を書したもの。謹直かつ洗練された描線により、気品あふれる画面を作り出す。線を主としながら、山水や樹石には墨の濃淡や点描風の描写も認められ、水墨山水画が大成された北宋時代にふさわしい清新な白描画風を示している。必ずしも具体的ではない本文を、群像表現や風俗描写を含め魅力的な画面に表す構想力にも目を見張らされる。李公麟の書画の研鑽とともに、学識の高さもうかがわせる作品である。 |
五馬図巻とは |
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![]() 西域諸国から北宋に献じられた5頭の名馬を描いた作品。歴代の中国皇帝が「神品」として高く評価してきたが、清朝末期、20世紀初めに紫禁城を離れ、日本にわたった。1928年(昭和3年)、昭和天皇御大典祝賀記念として東京府美術館(現・東京都美術館)で開催された展覧会に出品、1933年には重要美術品に指定されたが、以降、表舞台から消えた。戦災で失われたとも言われたが、2018年に存在が確認され、翌2019年に東京国立博物館で開催された特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」で展示、話題を呼んだ。細線を引き重ね、繊細な彩色を施したその表現は、「白描画の名手」李公麟のイメージを覆すものであり、北宋絵画史の書き換えを迫るほどのインパクトをもたらした。 |
◇根津美術館「救いのみほとけ お地蔵さまの美術」5月27日(土)〜7月2日(日)