【レビュー】赤平史香展 ~第4回瀬戸・藤四郎トリエンナーレグランプリ受賞者として~ 土の素材で描く心象風景 瀬戸市美術館で5月28日まで

「やきもの」の産地として長い歴史を持つ愛知県瀬戸市では、4月15日(土)~5月28日(日)まで、瀬戸市美術館にて「第4回瀬戸・藤四郎トリエンナーレグランプリ受賞者展 赤平史香展」を開催しています。瀬戸の土の質感を生かしつつ、繊細で瑞々しい感性にあふれた数々の作品をご紹介します。

はじめに――瀬戸・藤四郎トリエンナーレとは
愛知県瀬戸市は陶都とも言われ、1000年にわたる「やきもの」の歴史があります。この土地ならではのユニークな公募展が「瀬戸・藤四郎トリエンナーレ」です。瀬戸市内の陶土採掘場で “自ら土を採集し” “自ら採集した土で粘土をつくり” “自らその粘土で制作する” ことが条件で、3年に一度開催されます。直近では2021年に第4回の募集があり、2022年4月に審査および受賞者発表がありました。この時にグランプリを受賞したのが、女性として初の受賞者となる赤平史香さんです。

そもそも「藤四郎」てだれ?
もともと瀬戸には、鎌倉時代に瀬戸窯を開いたとされる「陶祖」加藤四郎左衛門景正についての伝承があり、藤四郎という通称で親しまれています。毎年春には「陶祖まつり」が開催されますが、とくに平成24~26年度にかけては陶祖800年祭という大掛かりなイベントが催され、その時に関連事業として藤四郎トリエンナーレが始まりました。
作品を作る前に粘土を作る
藤四郎トリエンナーレの大きな特徴は、瀬戸の土を使って自分で作陶用の粘土を精製しなくてはならないという点です。土の採取は真夏の暑いさなかに、瀬戸市内の鉱山で行われます。応募者はその後数ヶ月かけて、原土から粘土を作り、その粘土で作品を作る作業に勤しむことになります。第4回の場合、237名が土を採取し、実際に作品を出品したのが132人といいますから、原土から作品を作ることの難しさをうかがい知ることができます。

グランプリ受賞者には個展開催のチャンスが!
無事に作品を審査会場まで運び込めたところで、ようやく審査の対象となります。そうして約6割が入選作として展示に至り、4点が審査員賞、1点がグランプリ受賞となります。さらにグランプリ受賞者は、受賞の1年後に瀬戸市美術館で個展の開催が約束されています。出品に至るまでが大変ですが、作家としてキャリアを積んでゆくにはうってつけの賞と言えます。
そして初個展へ
赤平さんの作品は「女性初のグランプリ受賞であり、原土という素材を、自己の心象風景を描き出すための 絵画的素材として用いた点など、歴代の受賞作とは 異なるアプローチで制作した点が評価された。」(炎芸術2022年秋号NO.151 P.135)という評価を受け、見事にグランプリに輝きました。規定通り、その1年後となる本年4月より個展が開催され、瀬戸市美術館の2階展示室には、受賞作品をはじめ、瑞々しい感性を土で表現した新しい感覚の作品が並びました。

「作りながら頭の中に浮かんできたことを文字に起こしてみたり、なりそこないの形と遊んだりすることを大切にしています。後は作る前から完成形を決めすぎないようにすること。」(赤平さん)
うまれかけているその姿

制作に悩んでいたとき、恩師から「うまれかけているその姿でいいんじゃないですか」と声をかけてもらったという赤平さん。その言葉が姿をとったかのような、形未満のオブジェが並びます。
赤平さんが今回の作品展の中で一番気に入っているといい、また、筆者が最も心惹かれたのが《巨きな胎、大きな殻》です。瀬戸の土で作られたキャンバスは浜辺のようで、同じく瀬戸の土から生まれた小さなものたちが、点々と並んでいます。それらは浜辺の粒子から生まれてこれから形を取るのでしょうか。遠い原初の風景に立ち会っているような不思議な感覚の作品です。

《日記》(共作:波多野祐希)では、作者がこれまでに拾い集めたものを並べているとのことですが、そのひとつひとつに、今の形状にいたるまでの時間の積み重ねが感じられます。ものの中に凝縮された小さな歴史が丁寧に台の上に乗せられ、その台もまた土から生まれた陶板と大地に根を張りつつ年輪を重ねた木材で作られているのです。

また、前掲の作品とは対象的な、なめらかな曲面を持つ立体作品もあり、思わず撫でてみたくなるような魅惑的な形をしています。

《ダーマトグラフの針の先》で描かれたものたち
ダーマトグラフはご存知でしょうか。ワックス分の多い芯を紙で巻いた色鉛筆で、外科手術に使われたり、校正の現場で活躍したりしています。受賞作につけられたこのタイトル、言葉のひびきが良い上に、微妙に謎めいた感じが印象的でした。タイトルについて赤平さんにお伺いしたところ、次のようなお返事を頂きました。
「採ってきた原土を、手遊びのように触り、出てきた形をみながら、紙に針のように尖らせた鉛筆で線を追いかけ、平面になったそれらをみて、また土に触れる。なんかいいなと思える形を眺めていると、散歩道などで思わず拾ってしまった石や木片などの今まで集めてきたものを思い出したり、意識していなかったイメージが浮かんできたり、また作ってみたり……。そうした様子をタイトルにしました。」

ご自身の心の深いところと対話しながら制作される様子が浮かび上がります。そのようにして形になった作品を見る時、鑑賞する私たちの心もまた、自分の心のさらに奥深く、何かが生まれる原初の浜辺へと引き込まれていくのではないかと思うのです。(ライター・岩田なおみ)

赤平史香プロフィール
2017年 秋田公立美術大学美術学部美術学科ものづくりデザイン専攻卒業
2019年 愛知県立瀬戸窯業高等学校セラミック陶芸専攻科修了
2018年 第71回瀬戸市美術展大賞
2019年 第33回四日市萬古陶磁器コンペ2019 入選
【第4回瀬戸・藤四郎トリエンナーレグランプリ受賞者展 赤平史香展】 |
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名称:赤平史香展 |
会期:2023年4月15日(土)~5月28日(日) ※5月9日(火)は休館 |
会場:瀬戸市美術館 |
開館時間:午前9時から午後5時(最終入館は午後4時30分まで) |
観覧料:一般:500円(400円)、高大生300円(240円) ※()内は20名以上の団体の場合 ※中学生以下、65歳以上、妊婦、障害者手帳(ミライロID可)をお持ちの方は無料 |
問合せ先:瀬戸市美術館(愛知県瀬戸市西茨町113-3 瀬戸市文化センター内) 電話:0561‐84‐1093 メールアドレス:art@city.seto.lg.jp |
HP:http://www.seto-cul.jp/seto-museum/ |