【探訪】「紙のジャポニスム」をテーマとする切り絵画家・久保修さんのミュージアムがリニューアル

久保修切り絵ミュージアム |
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住所:大阪府豊中市岡上の町1-4-20 ゆうみビル1~2階 |
休館日:火曜日(火曜日が祝日の場合は翌日)、年末年始 ※臨時休業あり |
開館時間:10:30~16:00(入館は15:30まで) |
入館料:一般500円、中・高生200円、小学生以下無料 ※当日入館者は、切り絵体験に無料参加できる(予約不要) |
詳しくは、ミュージアムオフィシャルサイト |

生八つ橋でつぶあんをくるんだ京都土産の「おたべ」のパッケージは、みなさんも見覚えがあるのではないでしょうか。このデザインを手がけているのが、切り絵画家の久保修さん(1951年ー)です。ほかにサントリーの緑茶「伊右衛門」や「ザ・プレミアム・モルツ」ビールのパッケージデザインなども手掛けており、知らないうちに一度は作品を目にしているかもしれません。

久保さんは山口県美祢市の生まれ。大学で建築を学んでいる時に切り絵を始めました。切り絵の個展を開き続けるなかで、画家の岡本太郎や須田剋太と出会い、「ただ紙を切るだけでは芸術にならない」と勧められ、1984年からスペインに1年間渡ります。デッサンを学びながら、プラド美術館やガウディの建築物などからも刺激を受けました。パステルやアクリル絵の具、布、砂などを使って表現するミクストメディア(混合技法)を取り入れるようになったのも、この時の体験がきっかけでした。


久保さんは「切ることはある程度やれば上達しますが、大事なのは、やはり構図など絵の基本。今も下絵のクオリティと色遣いは一番大切にしています」と話します。《しだれ櫻》の作品と下絵を比べてみると、下絵からしっかりと描きこまれているのが分かります。
転機となったのは1995年に西宮で阪神・淡路大震災に被災した体験でした。建物が一瞬で崩れ落ちるのを目の当たりにして、日本の風景のかけがえのなさに改めて目が向きました。「紙のジャポニスム」をテーマに掲げ、日本各地を訪ね歩き、移り変わる四季折々の風物詩や、生命力あふれる旬の食材を作品として残すようになりました。

また、素材も和紙にこだわるようになります。作品によっては、薄い和紙を幾重にも重ねて、奥行きや立体感を表現しています。渋柿を塗って10年寝かせたものを使ったこともあります。額も古民家を解体した木を加工したり、桜の絵の額には桜材を使ったりするなど、市販品でなく特注品を使っています。
日本の美しさを発信する作品は、2008年にニューヨークでで行われた展覧会で大きな反響を呼び、翌09年からは文化庁文化交流使に指名されました。これまで欧州のスペイン、ポルトガル、ロシアから、アジアのフィリピン、マレーシア、中国、シンガポールのほかキューバなど計17か国で展覧会やワークショップを開き、切り絵を通じて美しい日本を世界に広めてきました。


国内では2018年10月に、大阪府豊中市に「久保修切り絵ミュージアム」を開館。コロナ禍による行動制限もなくなり、23年5月には、1階で切り絵を実際に楽しめる体験型ミュージアムとしてリニューアルしました。

それでは2階の展示スペースを見てみましょう。まず目を引くのが、中央ケース内に並べられた幅90㌢、長さ10㍍の絵巻のような《切り絵で描く 七十二候》です。七十二候とは、1年を立春や啓蟄など24に分ける二十四節気を、さらに約5日ずつの3つに分けた72の期間のことです。

立夏の部分を見ると、「蛙始鳴」「蚯蚓出」「竹笋生」の3つの候がありますが、それぞれを表すカエルやタケノコが日本の美しい風景とうまく調和して1枚にまとめられていることが分かります。

このような細部を極めた作品が、1枚の紙でつながっているのにも改めて驚いてしまいます。

切り絵というとモノクロのイメージがありますが、色鮮やかな作品も目立ちます。

壁面にも懐かしさを覚える日本の美しさを表現した作品が並びます。《春夏秋冬図》は、1枚で日本の四季の移ろいが感じられます。左から順に桜が咲き、空には花火が上がり、名月が浮かび、最後は雪が舞います。
こちらの作品は、あえて切り絵を背面から浮かして、立体感や奥行きを感じさせています。海外では絵と思って観る人が多いので、このような手法も使うそうです。

《春爛漫》は瓦屋根だけで四季を表現できないかと挑んだ作品。桜の花吹雪だけで春が感じられます。現在、春と冬は完成していますが、夏と秋については、何枚もスケッチを描いて、構想中だそうです。四季を並べて観られる日が楽しみです。



壁に飾られている作品は季節に合わせて年4回展示替えがあるので、何度も楽しめそうです。切り絵で日本の良さを再発見した後、自分でもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ編集班・若水浩)