【プレビュー】特別展「木島櫻谷―山水夢中」泉屋博古館東京で6月3日から 新発見の京都・南陽院の襖絵が東京初公開

特別展「木島櫻谷―山水夢中」 |
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会場:泉屋博古館東京 |
会期:2023年6月3日(土)~7月23日(日) |
休館日:月曜日 *7月17日(月・祝)は開館、翌7月18日(火)休館 |
アクセス:東京メトロ南北線の六本木一丁目駅北改札正面 泉ガーデン1F出口から徒歩3分、日比谷線の神谷町駅4b出口から徒歩10分、銀座線・南北線の溜池山王駅13番出口から徒歩10分 |
入館料:一般1,200円、高大生800円、中学生以下無料 |
詳しくは(https://sen-oku.or.jp/tokyo/)へ。 |
「おうこく」さん 東京で
近代の京都画壇を代表する存在として近年再評価が進む日本画家、木島櫻谷(1877~1938年)の展覧会が泉屋博古館東京(六本木一丁目)で6月3日から7月23日まで開かれます。
動物画で名を馳せた櫻谷ですが、本展では生涯描き続けた多彩な山水画に注目。屏風などの大作から日々を彩るさりげない掛物まで、櫻谷の詩情豊かな世界を味わい尽くすことができるでしょう。また、新鮮な感動を伝える写生帖や、収集し手元に置いて愛でた古典絵画や盆石も紹介され、櫻谷の根底にあり続けた心の風景に迫ります。
1.写生に夢中―日本の海山川を描き尽くす
櫻谷は20代から30代にかけて頻繁に写生旅行に出かけました。櫻谷の写生帖には、山川海野の風景、木・岩・水から民家や民具、働く人々の営みまで、移動しながら心惹かれた対象が描かれています。

その高い写生技術は、年を追って劇的に向上し、西洋画の空間感覚も取り入れた近代的で明澄な山水画を切り拓くこととなりました。

2.写生から山水画へ―光と風の水墨
櫻谷にとって写生とは、徹底して向き合ってその本質をつかみ取るための行為。それを自身のなかで醸成させ、やがて立ち上ってくる姿を作品として描き出すのだといいます。
本展で展示される幅11m超の大山水《万壑烟霧》は各地の写生を醸成させた理想のパノラマ。卓越した筆裁きや西洋画的感覚をみることができます。

本展では、櫻谷が34歳の時に描いた京都・南陽院の本堂を飾る50面の襖絵。この一部が東京で初めて公開されます。
日本人にとって、どこかでみたような風景が要所にみえながら、全体的にはどこにも存在しない、櫻谷の想像上の風景。これら二つの大作や初公開の作品をはじめ、櫻谷の世界観が凝縮された懐かしくも新しい山水画の数々が紹介されます。

3.写生の深化――色彩の時代
写生を経て櫻谷のなかで醸成された景色は、やがて末節をそぎ落とし、本質を抽出したようなシンプルな表現に到達します。
代表作であり、冴えわたる雪月夜が鮮やかに描かれた《寒月》は、月夜の鞍馬で残雪にのこされた獣の足跡をみた経験から生まれました。そこから「飢えた孤独な狐」のイメージが立ち上り、その世界を具現するため、櫻谷は写生を重ね構想を深めたといいます。

雪には白の胡粉、虚空はシルバーグレーの絵具、竹には群青や緑青など、重厚に輝く顔料で描くなど、櫻谷は濃厚な色彩によって、写実的表現と抽象化されたフォルムが溶け合う不思議な世界を表現しました。
また本展では、大正元年(1912年)の第6回文展に出品された《寒月》、翌年の第7回文展出品作の《駅路之春》が並べて展示され、充実期における櫻谷芸術の高まりと広がりを感じることが出来るでしょう。

4.画三昧へ――理想郷を求めて
櫻谷は50歳前後から公職をひき、京都の衣笠の自邸で文人的な暮らしを実践するようになります。幼い頃より漢詩に親しみ、古画を愛した櫻谷が晩年にたどり着いたのは、中華文人の理想世界と日本の風景が一体となった親しみやすい新感覚の山水表現でした。
57歳の櫻谷が、なにものにもとらわれることない画三昧の境地で制作した最後の帝展出品作《峡中の秋》は、高さ2mを超える山水画の大作です。青年期の写生に由来する実在感を継承しつつも、全体の構想はより大きなスケールで描かれています。


「おうこくさん」と愛された画家の心の風景に没入する時間を過ごすことができるでしょう。
「木島櫻谷-山水夢中」の京都展の模様は以下の記事に。
(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班)