【亀蔵 meets】③「幕末土佐の天才絵師 絵金」展 その2-ホラー映画好きの亀蔵さん、「20世紀のホラーからは、制作者の創意と工夫が肌で感じられる。そういう所がすきなんですよ」

歌舞伎役者・片岡亀蔵さんが様々なアートの現場を訪れる「亀蔵 meets」シリーズ。3回目の今回は、大阪・天王寺のあべのハルカス美術館で開催中の「幕末土佐の天才絵師 絵金」展がテーマである。「血みどろ絵」と対峙した亀蔵さんはホラー映画好きで有名だが、ホラーのどういう所に惹かれるのか。絵金の作品とは少し離れるが、亀蔵さんのルーツについて聞いてみた。

(聞き手は事業局専門委員 田中聡)

「幕末土佐の天才絵師 絵金」展を展覧する亀蔵さん

――そもそも亀蔵さんがホラー映画を見始めたのはいつ頃のころからなんですか

亀蔵 小学校の時から見てましたね、お化けとかが出る映画は。『エクソシスト』とか。『妖怪大戦争』とか、『東海道お化け道中』とか。子どものころから普通に上映されていましたから、映画館で。当時はアダルト映画対象の「18禁」はありましたけど、残虐、恐怖を対象にした年齢制限はあまりなかったような気がします。でもまあ、B級やC級のいわゆる「ホラー映画」を意識して観るようになったのは、高校生になって以降です。VHSとかベータとかのビデオ機器が普及してきて、そういう作品が簡単に観られるようになった。それからですね。

――どんな作品が好きなんですか。「Jホラー」はあまり好みではない、と聞きましたが。

亀蔵 そうですね。海外の映画の方が好きです。「Jホラー」は、日本人であるボクの生活感覚をまともに刺激してくるから、本当に怖い。そういう「おナマな」怖さが好きなわけではないんです。海外、特に欧米のホラーはキリスト教を基盤にしたりしているから、ちょっとボクたち日本人の「怖い」という感覚とは違うところがあるじゃないですか。どんな怖がらせ方をするのか、どんな仕掛けがあるのか、そういうのを楽しんで観ているんです。

――ある種の「見世物」的な面白さなんですね

亀蔵 ホラー映画、特にB級、C級の作品は、予算が少ないこともあるのでしょうが、色々アタマを絞った工夫をしてくるわけですよ。だから、と言えばいいんでしょうか、面白い作品を撮った監督は、のちのちメジャーなフィールドで活躍することも多いんです。『死霊のはらわた』のサム・ライミは『スパイダーマン』シリーズを作った。『ロード・オブ・ザ・リング』3部作で有名なピーター・ジャクソンも昔は『ブレインデッド』というB級ホラーの傑作を撮っている。将来の巨匠を探す楽しみもあるわけですよ、ホラー映画を観ることには。……日本のホラー映画にあまり興味が持てないのは、そういう要素が薄いからかもしれませんね。「大物」といわれる監督で、昔B級、C級のホラーを手がけていたのは三池(崇史)さんぐらいかなぁ。

――黒沢清監督も、そんな感じはしますけどね。確かに欧米の映画界には、そういう「厚み」のようなものがありますよね。デビッド・クローネンバーグとかブライアン・デ・パルマとか、インディーズでホラーを撮っていた監督がハリウッドの、しかも一線級で映画を撮っているケースは結構あります。

亀蔵 ただ、21世紀に入って、CGとかの技術が発達して、そういう「低予算ならではの工夫」みたいなものが薄れてきたような気もするんです。「好きだ」と公言している以上、「観てないの」と言われるのもシャクなので、今でもB級、C級のホラーは見続けているんですが、魅力的な作品が少なくなっている。むしろ今はホラーでもないのにグロいシーンを平気で入れてくる韓国映画とか、「A24」系の映画とかの方が面白い。“変な映画”が多くて、向こうでブームになるのもよく分かります。

「赤い部屋」にはネコの絵がずらり。「イヌ派」の亀蔵さんもじっくり見入る

A24は、2012年に設立されたインディペンデント系のエンターテインメント企業。ニューヨークを拠点とし、映画やテレビドラマの製作、出資、配給などを行っている。若手監督を多数起用、ハリウッド映画にはない独創的、個性的な作品が多く、現在ではアカデミー賞の常連となっている。アカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』(2016)をはじめ、『スプリング・ブレイカーズ』(2013)、『Mr.タスク』(2014)、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017)、『ヘレディタリー/継承』(2018)、『LAMB/ラム』(2021)など、話題作は数多い。

――「いかに見せるか」という創意工夫、B級、C級の作品だからこそ見えてくる「才能のきらめき」に惹かれるわけですね。考えてみれば、亀蔵さん自身、そういう「いかに見せるか」にアタマをひねる役が多いような気もします。『野田版研辰の討たれ』のからくり人形とか、『らくだ』の死体とか。「ゾンビが好き」なのも、その延長線上ですか

亀蔵 ゾンビって「人間」でもなく「動物」でもなく、ましてや「単なるモノ」でもない。ある種、治外法権的な存在なんですよ。ゾンビを出しておけば、ある意味、何をしてもいい。彼らには「道徳」も「理屈」もないし、「人権」すらない。ストーリー上、とても自由な存在なんです。あの独特の造形も怖いようであり、ユーモラスなようでもあり――いろいろと飽きない存在なんです

--2010年には、宮藤官九郎さん作・演出の『大江戸りびんぐでっど』という新作を歌舞伎座で上演したりもしましたね

亀蔵 あの時は、(プロデューサー的な役割を担った十八世中村)勘三郎さんから「ゾンビは任せた」と言われて……隣で(共演した俳優の)井之上隆志さんが「任せたって何?」って笑っていましたね。まあ、時代も変わりましたから、同じ作品をまたやるわけにもいかない。今の時代、どうやったら、ゾンビを歌舞伎座に登場させることができるのか。時々考えることもあるんですよ

(つづく)

幕末土佐の天才絵師 絵金
会場:あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16F)
会期:2023年4月22日(土)~6月18日(日)
休館日:5月22日
アクセス:近鉄「大阪阿部野橋」駅 西改札、JR「天王寺」駅中央改札、地下鉄御堂筋線「天王寺」駅西改札、地下鉄谷町線「天王寺」駅南西/南東改札、阪堺上町線「天王寺駅前」駅からすぐ
観覧料:一般1600円、高校生・大学生1200円、小・中学生500円(その他割引あり)
※前期(~5月21日)、後期(5月23日~)で展示替えあり
※詳細情報は公式サイト(https://www.ktv.jp/event/ekin/)、美術館HP(https://www.aham.jp/exhibition/future/ekin/)で確認を