【プレビュー】「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」 日本を代表する建築家の設計と思考の軌跡をたどる 島根県立石見美術館で9月16日開幕

自身の代表作、島根県芸術文化センター「グラントワ」について、「来るたびに幸せな気持ちになれる場所になりました」と語る内藤さん(5月15日、島根県益田市で)

企画展 建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い
会期:2023年9月16日(土)~12月4日(月)
会場:島根県立石見美術館(島根県芸術文化センター「グラントワ」内、島根県益田市有明町5—15)
開館時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
観覧料:[企画展]一般:1,200円、大学生:600円、小中高生:300円
[企画・コレクション展セット]一般:1,350円、大学生:700円、小中高生:300円
[前売券]一般1,000円(企画・コレクション展セット)
休館日:毎週火曜日
主催:島根県立石見美術館、しまね文化振興財団、日本海テレビ、中国新聞社
後援:芸術文化とふれあう協議会
特別協力:内藤廣建築設計事務所
アクセス:石見交通バス「グラントワ」前下車徒歩1分、JR益田駅から徒歩15分、萩・石見空港からJR益田駅まで連絡バス約15分
美術館ホームページ:https://www.grandtoit.jp/museum/hiroshi_naito_built_unbuilt

日本を代表する建築家である内藤廣さん(1950年生まれ)。長いキャリアの中で、市民に親しまれる作品を次々に発表しています。名建築で知られる富山県美術館などでアートファンにもおなじみです。

銀座線渋谷駅
富山県美術館
とらや赤坂店

とりわけ内藤さんの代表作として知られる島根県芸術文化センター「グラントワ」(2005年竣工)。このセンターを構成する島根県立石見美術館で、過去最大規模の個展が開催されます。「Built(ビルト=建設された建物)と Unbuit(アンビルト=実現しなかった建物)」をテーマとし、初公開資料を多数紹介します。リアルな建築としては世に現れていない部分も含めて、内藤建築の設計と思考の軌跡をたどる意欲的な内容です。

内藤廣氏

展示は4つの部分から構成される予定です。

(1)Built 内藤廣の建築

島根県芸術文化センター「グラントワ」(外観写真)2005年
島根県芸術文化センター「グラントワ」(模型)

内藤建築の代表作を模型や図面、写真などで紹介します。会場の「グラントワ」を中心として、それ以前の作品から海の博物館(1992年)や牧野富太郎記念館(1999年)など約10件。

海の博物館(模型) 1992年

またそれ以降の作品として静岡県草薙総合運動場体育館(2015年)、高田松原津波復興記念公園 国営 追悼・祈念施設(2019年)などから近作の紀尾井清堂(2021年)まで約15件を展示します。

静岡県草薙総合運動場体育館(模型) 2015年
紀尾井清堂(模型) 2021年

(2)BuiltとUnbuiltをつなぐもの

「海の博物館」の特徴的な架構をモチーフにした、本展のためのインスタレーションを披露します。

(3)Unbuilt  内藤廣の思考

様々な事情により実現しなかった建物や架空のプロジェクトを、図面や模型によって紹介。卒業設計から近年のコンペシートまでをひもとき、時代を追って内藤さんの思考と社会の動きの変遷をたどります。伝説的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチの音楽祭の拠点施設として建築される予定だった「アルゲリッチハウス」など、注目の構想を見ることができます。

アンビルトとしては50以上のプロジェクトが紹介されます。内藤さんは記者会見で「私はたくさんのコンペで負け続けました。でも実際は勝つ人はわずかで、負ける人が圧倒的に多い。負けた人間のほうが『どうして負けたんだろう』と色々考えるので情報量が多い。負けることも悪くない、ということを若い人に向けて伝えたい」と話していました。

Unbuilt/アルゲリッチハウス(模型)2012年

その時々の内藤さんの手帖もあわせて展示し、アイデアの源や設計のプロセスも公開。また進行中の最新プロジェクトの進捗も「未だ実現していないもの」として示し、未来への展望を示します。

Unbuilt/こまつドーム(模型) 1994年
Unbuilt/日立市庁舎(模型) 2012年

(4)内藤廣の言葉

内藤さんの著作から集めた言葉の数々と、石州瓦に覆われたグラントワの外壁の美しさを捉えた映像によるインスタレーション。

「赤鬼」と「青鬼」のせめぎあいを赤裸々に

ところで、展覧会のタイトルとなっている「赤鬼」と「青鬼」とは何でしょう。

記者会見で展覧会の内容を説明する内藤さん(右)と、島根県立石見美術館の川西由里・専門学芸員(5月15日、島根県芸術文化センター「グラントワ」で)

記者会見では内藤さんと、担当学芸員の川西由里さんが説明。内藤さん自身の中に潜む二つの側面を象徴的に表現したもので、青鬼とは「現実型、論理、整合性、枠組み、求道的」などを指し、赤鬼とは「夢想型、支離滅裂、狂気・情熱、逸脱、放蕩」といったイメージです。そして作品を創造するごとに、自身の中で青鬼と赤鬼が対話や、時には喧嘩を繰り返すということです。

「赤鬼」と「青鬼」のイメージ

キャプションも内藤さん本人が執筆

展示物を紹介するキャプションは通常、学芸員が考えるものですが、今回は内藤さん本人が執筆します。川西専門学芸員は「設計当時を振り返り、赤鬼と青鬼がそれぞれ語るような形で作品を解説してもらいます。前代未聞でとても楽しい内容になると思います。学芸員が楽をさせてもらって恐縮です」と語り、内藤さんは「設計時の心の中の矛盾を見てもらい、笑ってもらえるようなものにします。期待してください」と話していました。

島根まで足を運んで!

今展は島根県立石見美術館にあわせて構成されたもので、巡回の予定はありません。同美術館のある益田市は島根県の西端にあり、北は日本海、南は中国山地。人口は約4万4千人です。記者会見で「小さな地方都市で展覧会を開催する動機は?」と問われた内藤さんは「地方都市という言葉をなるべく使いたくない。東京が中心と思われがちだが、東京以外の場所がむしろ主体だということ。人口の少ない、こうした土地の良さを都会の人に知ってほしい。ぜひ島根県立石見美術館まで足を運んでほしいです」と訴えていました。

島根県芸術文化センター「グラントワ」の象徴である中庭で記念撮影に応じる的野克之・島根県芸術文化センター長(左)、内藤廣さん(中央)、川西由里・島根県立石見美術館専門学芸員

内藤廣 Naito Hiroshi
1950年生まれ。フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年内藤廣建築設計事務所を設立。2001~11年東京大学大学院において教授、同大学にて副学長を歴任。2023年4月から多摩美術大学学長。主な建築作品に、海の博物館、安曇野ちひろ美術館、茨城県天心五浦記念美術館、牧野富太郎記念館、島根県芸術文化センター、静岡県草薙総合運動場体育館、富山県美術館、とらや赤坂店、高田松原津波復興祈念公園 国営 追悼・祈念施設、東京メトロ銀座線渋谷駅、京都鳩居堂、紀尾井清堂などがある。

(美術展ナビ編集班 岡部匡志)