【プレビュー】「生誕100年 山下清展ー百年目の大回想」SOMPO美術館で6月24日から

《長岡の花火》 1950(昭和25)年 貼絵 山下清作品管理事務所蔵

放浪の天才画家として知られ、昭和の時代には「日本のゴッホ」とも呼ばれた山下清の展覧会「生誕100年 山下清展ー百年目の大回想」が、SOMPO美術館(東京・西新宿)で、6月24日から9月10日まで開催されます。生誕100年を記念して開催される本展では、代表的な貼絵にとどまらない多彩な作品190点と、旅に持参したリュックや浴衣、所蔵していた画集などの資料が展示されます。

生誕100年 山下清展ー百年目の大回想
会場:SOMPO美術館
会期:2023年6月24日(土)~9月10日(日)
休館日:月曜日(ただし7月17日は開館)
開館時間:午前10時から午後6時(最終入館は午後5時30分まで)
アクセス:JR新宿駅西口から徒歩5分
観覧料:一般1,400円、大学生1,100円、高校生以下無料
問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)
詳しくは(https://www.sompo-museum.org/)へ。

第1章 山下清の誕生ー昆虫そして絵との出合い

1922年(大正11年)に東京の浅草で生まれた清は、吃音と発達障害のために周囲になじむことが難しく、独りで昆虫を採り、絵を描くことを好む少年でした。

12歳の時に千葉県の養護施設「八幡学園」に入園。清はここでの生活の中で、「ちぎり絵」に出合い、画家としての才能を開花させることになります。

《ほたる》 1934(昭和9)年 貼絵  山下清作品管理事務所蔵
《蝶々》1934(昭和9)年 貼絵  山下清作品管理事務所蔵

第2章 学園生活と放浪への旅立ち

清はちぎった色紙の切り口を巧みに使って微妙な色の階調を出し、こより状の紙片で細部を表すなど、独自の「貼絵」の手法を確立しました。

1937年(昭和12年)、八幡学園の子どもたちの作品展が東京で開催されると、清の貼絵はとりわけ注目を集めました。当時、美術界の重鎮だった洋画家、安井曾太郎は「……実に美しい貼紙絵に驚き感心して、僕はすっかり貼紙絵信者になってしまった。(中略)今後はどうなるか楽しみでもあり、不安でもある。」と、清の貼絵を高く評価しました。

《ともだち》 1938(昭和13)年 貼絵 山下清作品管理事務所蔵
《高射砲》 1938(昭和13)年 貼絵 山下清作品管理事務所蔵

自身の貼絵が高く評価される一方で、学園での生活に飽きた清は、1940年(昭和15年)、突然出奔しゅっぽんし放浪を始めます。

何物にも縛られない自由を選んだ清。日本各地を巡り、ときおり自宅や学園に戻っては、驚異的な記憶力を頼りに旅先で見た風景を貼絵で表現。しばらくすると再び旅へ。清が18歳の時に始めたこの放浪生活は、15年間も続きました。

《桜島》 1954(昭和29)年 貼絵 山下清作品管理事務所蔵

第3章 画家・山下清のはじまり―多彩な芸術への試み

31歳の時、新聞記事に取り上げられて一躍有名人になった清。気ままな放浪が難しくなったことから画家として身を立てようと決心し、制作活動に専念するようになります。

1956年(昭和31年)に東京の大丸百貨店で清の展覧会が開催されると、26日間で約80万人が来場する盛況ぶりで、その後も全国各地で展覧会が開催されました。

《ソニコンロケット》 1959(昭和34)年頃 貼絵 株式会社増田屋コーポレーション蔵

周囲から勧めもあり、清はこの頃からペン画や油彩画、陶磁器の絵付けなどにも挑戦します。油彩を点描のように表現するなど、貼絵表現に見られる丁寧な細部描写と豊かな色調は、油彩やペン画、水彩画など他の作品にも生かされています。

《東京オリンピック》 1964(昭和39)年 ペン画  山下清作品管理事務所蔵
《ぼけ》 1951(昭和26)年 油彩 山下清作品管理事務所蔵

第4章 ヨーロッパにて―清がみた風景

1961年(昭和36年)、39歳の時にヨーロッパを中心とする12ヶ国を約40日間で巡る取材旅行に出かけました。その取材旅行は、かつての放浪とは異なり、各地の風景をスケッチに描きとめ、帰国後には本格的な制作に取り組みました。

この旅行を題材とする貼絵やペン画は、さらに緻密さを増し、街並みや建築をより写実的に捉えています。また、細かい紙片やこよりを用いた貼絵は、技術と表現の両面で大きな進展を見せており、清の画業の中でも際立った作品群とされています。

《パリのサクレクール寺院》 1962(昭和37)年 貼絵 山下清作品管理事務所蔵
《パリのエッフェル塔》 1961(昭和36)年 水彩画  山下清作品管理事務所蔵
《ロンドンのタワーブリッジ》 1965(昭和40)年 貼絵 山下清作品管理事務所蔵
《スイスの町》 1963(昭和38)年 貼絵 山下清作品管理事務所蔵

第5章 円熟期の創作活動

1971年(昭和46年)に脳溢血で49歳の若さで亡くなるまで、清は精力的に創作活動を続けました。

目の不調のために細かい作業を要する貼絵制作を控える中でも、ペン画や陶磁器の絵付けなど、他の表現方法に挑戦しました。繊細かつ丁寧な表現は、貼絵のみにとどまらず、他の作品にも生かされています。

《長岡の花火(有田焼)》 1957(昭和32)年 色絵大皿 株式会社増田蔵
《東海道五十三次・富士(吉原)》 制作年不詳 版画 山下清作品管理事務所蔵

個性的な創作活動を続けた山下清の世界をより深く知り、感じることができる展覧会です。

© Kiyoshi Yamashita / STEPeast 2023

(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班)