【プレビュー】「ガウディとサグラダ・ファミリア展」6月13日から、東京国立近代美術館で

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サグラダ・ファミリア聖堂、2023年1月撮影 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família

スペイン、カタルーニャ地方のレウスに生まれ、バルセロナ市内に点在するサグラダ・ファミリア聖堂、グエル公園、カサ・ミラなど世界遺産に登録されたユニークな建築群を手がけた建築家アントニ・ガウディ(1852-1926)。本展「ガウディとサグラダ・ファミリア展」は、長らく「未完の聖堂」と言われながら、いよいよ完成の時期が視野に収まってきたサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を絞り、ガウディの建築思想と造形原理を読み解きます。

《ガウディ肖像》 1878年、レウス市博物館

図面のみならず膨大な数の模型を作ることで構想を練り上げていったガウディ独自の制作方法に注目するとともに、「降誕の正面」を飾る彫像も自ら手掛けるなど建築・彫刻・工芸を融合する総合芸術志向にも光を当て、100 点を超える図面、模型、写真、資料に最新の映像をまじえながらガウディ建築の豊かな世界に迫ります。

①ガウディとその時代

ガウディが建築家を志してバルセロナ建築学校で学んだ19世紀の後半は、産業革命とそれに伴う都市人口の急増によって、ヨーロッパの都市がかつてない規模で変貌を遂げた時代でした。また、最新の科学技術や世界各地の文化、風俗、建築が一堂に会する万国博覧会が競うように開催された「万博の時代」でもありました。スペインでいち早く産業革命を達成したバルセロナでは、中世的な城壁を壊して都市の規模を拡張するなど近代化が推し進められ、芸術文化の領域でも前衛的なムーブメントが花開きます。この章では、時代が用意した視覚情報や、ガウディが1878年のパリ万博に出品した作品のスケッチなどを紹介しながら、若き日のガウディの活動と時代背景をたどります。

アントニ・ガウディ《クメーリャ革手袋店ショーケース、パリ万国博覧会のためのスケッチ》 1878年、名刺の裏、レウス市博物館

この名刺裏に描かれたデザイン案は、パトロンとなったアウゼビ・グエルと出会うきっかけとなった作品です。新進建築家として活動をはじめたガウディは、バルセロナで有名な革手袋店の経営者クメーリャから、1878年パリ万博に出品するショーケースのデザインを依頼されます。ガウディは、細身の枠でガラスを固定する軽やかで瀟洒なケースを設計し、クメーリャの期待に応えます。会場で評判となったショーケースは、バルセロナの資産家アウゼビ・グエルの目に留まり、その後ガウディのパトロンとなったグエルとの関係を築く端緒となりました。

②ガウディの創造の源泉

ガウディの独創的な建築はどこから生まれてくるのでしょうか。「人間は創造しない。人間は発見し、その発見から出発する」と、ガウディは残しています。その言葉通り、ガウディは古今東西の建築や自然を丹念に研究することから革新的な造形の契機をつかんでいくのです。学生時代のガウディは図書館に通い、当時普及しはじめた写真を通して建築の歴史を学びました。またカタルーニャの遺産を発掘して、地域に根差す自分たちのアイデンティティを再発見しようとする組織にも参加しています。さらに「自然は私の師だ」と言うガウディは、徹底した自然観察から造形の原理を引き出し、有機的なフォルムの建築や什器をデザインするほか、自然の中に潜む幾何学に注目し、それを建築造形へと応用する合理的精神の持ち主でもありました。本章では「歴史」「自然」「幾何学」の3つのポイントから、ガウディ独自の建築様式の源泉とその展開をたどります。

アントニ・ガウディ《植物スケッチ(サボテン、スイレン、ヤシの木)》 1878年頃、
レウス市博物館

生命のフォルムという「自然」の観点からの例をひとつ紹介しましょう。ガウディは、過去の建築装飾を参照するだけでなく、実際に目にした動植物をつぶさに観察し、しばしば自然を直接石膏でかたどることで装飾を造形しました。建築が生まれる場所の自然との具体的な関わりが重視されたといえるでしょう。このような自然をもとにした装飾の究極の形がサグラダ・ファミリア聖堂に結実しており、「降誕の正面」には植物や小動物をはじめとする生物の多様性が表現されています。

③サグラダ・ファミリア聖堂の軌跡

ガウディ以前

スペインでいち早く近代化を果たした都市バルセロナの光と影の両面に触れながら、サグラダ・ファミリア聖堂建設を発起したジュゼップ・マリア・ブカベーリャの願いと、初代建築家フランシスコ・デ・パウラ・ビリャールによるネオ・ゴシック様式の計画案や建設資金の調達方法を紹介します。

ガウディ時代
《サグラダ・ファミリア聖堂、全体模型》 2012-23年、制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室、サグラダ・ファミリア聖堂 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família
《サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型》 2001-2002年、制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室、西武文理大学 photo:後藤真樹

ガウディが二代目の建築家に就任したのは1883年のこと。そこから1926年に亡くなるまでガウディはサグラダ・ファミリア聖堂の設計と建設に心血を注ぎました。ガウディは図面のみならず、膨大な数の模型を作りそれに修正を加えながら、外観や内部構造を練り上げていきました。このようなガウディ独自の制作方法をアトリエの情景とともに紹介しつつ、残された写真と模型をもとに計画案の変遷を明らかにします。

サグラダ・ファミリア聖堂内観 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família
サグラダ・ファミリア聖堂受難の正面、鐘塔頂華 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família

とりわけ、樹木のように枝分かれした柱によって「森」を表現した内部空間、「降誕の正面」の建築造形の由来とガウディの彫像術、さらにユニークな形状と鮮やかな色彩が大空に映える「鐘塔頂華」(鐘塔の頂上につけられた装飾)にスポットを当てます。

アントニ・ガウディ《サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:女性の顔の塑像断片》 1898-1900年、サグラダ・ファミリア聖堂 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família

ガウディは、サグラダ・ファミリア聖堂の「降誕の正面」を、キリストの到来と幼・青少年時代を表現する「石のバイブル」として構想し、聖書の物語を表す浮彫と彫像で全面を装飾しました。ガウディは専門の彫刻家にその造形を託すことができず、自ら彫刻の制作に乗り出します。ガウディの彫刻術の特徴は、当時最新の技術であった写真を利用したことと、動物、人間など実物モデルからの石膏の型取りを活用したことにありますが、それを貫くのは自然に学ぶという態度です。本展では、スペイン内戦時の破壊を免れたガウディのオリジナル彫刻を紹介します。

ガウディ以後
外尾悦郎《歌う天使たち》 サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面に 1990‐2000 年の間仮設置、作家蔵 写真提供:株式会社ゼネラルアサヒ
《サグラダ・ファミリア聖堂、マルコの塔模型》 2020年、制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室、サグラダ・ファミリア聖堂 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família

ガウディの没後、スペインの内戦が勅発すると、聖堂の一部は破壊され、図面類は焼失、模型も粉砕されて建設は中断を余儀なくされましたが、ガウディによる備蓄基金をもとに、修復工事と模型の復元が行われて工事は再開。近年ではコンピュータの導入により設計と建設が連動して工事のスピードが早まりました。ガウディ以降の建設の推移を、「降誕の正面」を飾る外尾悦郎と「受難の正面」を飾るJ.M.スビラクスの彫刻を展示しながらたどるとともに、マリアの塔やマルコの塔といった最新の建設事情も紹介します。

④ガウディの遺伝子

ガウディの建築は、そのユニークな造形や設計原理だけでなく、社会の中で建築やモニュメントを成立させる思想的側面など、さまざまな形で後世に影響を及ぼしています。展覧会の締めくくりとなるこの章では、世界と日本におけるガウディの受容の歴史や、現代の建築家に与えた影響を紹介しながら、ガウディの遺伝子が21世紀の現在にいかなるアイディアをもたらしているのかを問いかけます。

サグラダ・ファミリアの現在と未来

サグラダ・ファミリア聖堂、2023年1月撮影 ©Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família

サグラダ・ファミリア聖堂の建設は、新型コロナウイルスの影響で一時中断しましたが、2020年の秋に再開。翌年の12月には、聖堂の中央に位置する6つの塔のうち、頂点に星を頂くマリアの塔が完成、続く2022年12月には4つの福音書作家の塔のうち、ルカとマルコの塔が完成しました。建設作業は現在も進んでおり、残るマタイとヨハネの塔は2023年11月に、聖堂中央の最も高い塔となるイエスの塔は2026年までの完成を予定しています。

ガウディとサグラダ・ファミリア展
会場:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
会期:2023年6月13日(火)〜9月10日()
休館日:月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般2,200円、大学生1,200円、高校生700円、中学生以下無料
詳しくは、展覧会公式サイト

巡回情報
・2023年9月30日(土)~12月3日(日) 佐川美術館(滋賀県)
・2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日) 名古屋市美術館(愛知県)