【プレビュー】「デイヴィッド・ホックニー展」 27年ぶりの大規模個展 全長90メートルの新作など圧倒のスケール iPadも自在に操る 東京都現代美術館で7月15日開幕

《No.118、2020年3月16日 「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》 2020年 作家蔵 © David Hockney

デイヴィッド・ホックニー展
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F(東京都江東区三好4-1-1)
会期:2023年7月15日(土)~ 11月5日(日)
休館日:月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般 2,300円/大学生・専門学校生・65歳以上 1,600円/中高生 1,000円/小学生以下無料
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、読売新聞社
特別協賛:キヤノン
協賛:DNP大日本印刷、SOMPOホールディングス
協力:日本航空、ヤマト運輸、J-WAVE
助成:ブリティッシュ・カウンシル
展覧会ウェブサイト:https://mot-art-museum.jp/hockney/
展覧会公式ツイッター:@hockney2023
チケット情報:販売開始日など詳細は後日公式サイトで発表

60年余、「いかに世界を2次元で表現するか」を追求

現代で最も革新的な画家のひとり、デイヴィッド・ホックニー(1937年、イギリス生まれ)の日本では27年ぶりとなる大規模個展です。ホックニーは60年以上にわたり、絵画、ドローイング、版画、写真、舞台芸術など幅広い分野で多彩な作品を発表し続けてきました。その人生は「この世界をいかに二次元で表現するか」を真摯に追求してきた歩みです。今回はイギリス各地とロサンゼルスで制作された多数の代表作に加えて、近年の風景画の傑作〈春の到来〉シリーズやiPadで描かれた全長90メートルの新作など120点余の作品を紹介します。

デイヴィッド・ホックニー ノルマンディーにて 2021年4月1日 Ⓒ David Hockney Photo: Jean-Pierre Gonçalves de Lima

90メートルの巨大作品、展示方法も注目

今回の目玉は新型コロナウイルスのロックダウン中にフランス北部のノルマンディーで描いた全長90メートルにも及ぶ新作《ノルマンディーの12か月 2020-2021年》です。iPadを駆使し、日本の絵巻物のように四季の移り変わりを連続的に描きました。東京都現代美術館の大きな空間を使って、どのように展示されるかも楽しみです。

《ノルマンディーの12か月 2020-2021年》 (部分)2020-21年 作家蔵 Ⓒ David Hockney

近年の代表作〈春の到来〉シリーズ、日本初公開

ホックニーの故郷、イギリスのヨークシャー東部で2011年に制作され、この度日本初公開となる幅10メートル、高さ3.5メートルの油彩画《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》(2011年)も注目です。本展では、同じく日本初公開となる大判サイズのiPad作品12点とともに、本作を展示します。豊かな色彩感覚で芽吹きの季節をダイナミックにとらえた会心作は必見です。世界初公開の自画像も出展されます。

《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》2011年 ポンピドゥー・センター Ⓒ David Hockney Photo: Richard Schmidt
《自画像、2021年12月10日》2021年 作家蔵 Ⓒ David Hockney Photo: Jonathan Wilkinson

初期作からその歩みを俯瞰する構成

本展は全8章で構成されます。1959年、デイヴィッド・ホックニーはロンドンの王立美術学校に入学。抽象表現主義やポップ・アートが欧米の美術を席巻していた当時、さまざまな様式や作家たちに学び、その影響を作品に反映させる一方で、特定の動向に与することなく自らの表現を切り拓こうとした若き画学生は、時代の寵児として一躍注目を集めました。

《イリュージョニズム風のティー・ペインティング》1961年 テート Ⓒ David Hockney Photo: Richard Schmidt

1964年、ロサンゼルスに移住したホックニーは、南カリフォルニアの開放的な空気の下、明るい日差しが降り注ぐプールの水面やスプリンクラーの水しぶきを描きました。こうした刻々と変化する光の反射や水の動きをいかにとらえるかという造形上の試みは、長年ホックニーの関心をかき立て、新たな画材や描写の探究につながりました。

《スプリンクラー》1967年 東京都現代美術館 Ⓒ David Hockney
《午後のスイミング》1979年 東京都現代美術館 Ⓒ David Hockney / Tyler Graphics Ltd. Photo: Richard Schmidt

ホックニーはまた、実に多くの肖像画を手がけています。代表作《クラーク夫妻とパーシー》(1970-71年)のように、 「ダブル・ポートレート」と呼ばれるふたりの人物が描かれた構図は、その代名詞のひとつといえるでしょう。ホックニーが目を向けるのは、家族や恋人、友人たちといった近しい関係の人です。こうした肖像画からは、目の前にいる相手をじっと見つめ、その人の内面までとらえようとする画家の静謐な眼差しがうかがえます。

《クラーク夫妻とパーシー》1970-71年 テート Ⓒ David Hockney

停滞を許さない 常に変貌する作風

「同じことを反復するのではなく新しいなにかを発見したい」と語るホックニーにとって、自らの芸術を次々と変貌させた20世紀の巨匠ピカソは最も敬愛すべき画家でした。1980年代、ピカソのキュビスムや中国の画巻を参照しながら生み出された「フォト・コラージュ」や〈ムーヴィング・フォーカス〉シリーズは、「見る」という現実の経験をそのまま平面上に再現した画期的な試みでした。日本の古寺からモチーフを得た《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》などがその例です。

《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》1983年 東京都現代美術館 Ⓒ David Hockney Photo: Richard Schmidt

こうした複数の視点の統合というアプローチは、近年の「フォト・ドローイング」やマルチチャンネルの映像作品にも引き継がれています。

《2022年6月25日、(額に入った)花を見る》2022年 作家蔵 Ⓒ David Hockney assisted by Jonathan Wilkinson

日本初公開続々、近年はiPadを自在に操る

そして、本展の後半部分で展示される作品は、すべて日本初公開となります。1997年からおよそ15年間、ホックニーは幼少期に慣れ親しんだヨークシャー東部の自然や風物を抒情豊かに描きました。破格の大きさを誇る油彩画《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》(2007年)は、タイトルが示すように複数のカンヴァスを戸外に持ち出し、自然光の下でモチーフとなる木々を前にして制作された風景画です。

《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》2007年 テート Ⓒ David Hockney Photo: Prudence Cuming Associates

また、2010年4月の発売と同時に入手したタブレット型端末iPadは、その創作に新境地を開きました。大型の油彩画とiPadドローイングで構成される〈春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年〉シリーズは、日ごとに劇的な変化を遂げる世界と向き合い、克明に描き切ったホックニーの卓越した力量を物語っています。

《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォル ドゲート 2011年(5月31日 No.1)》2011年 デイヴィッド・ホックニー財団 Ⓒ David Hockney

80歳代後半にしてなお、今も新しい領域に踏み出す巨匠。今展はその全貌を知る貴重な機会として、見逃せない展覧会になるでしょう。

(美術展ナビ編集班 岡部匡志)