「スイス プチ・パレ美術館展」ルノワール、ロージェ、ユトリロ 北九州市立美術館学芸員がオススメの3点を解説

福岡県の北九州市立美術館本館で6月18日まで開催されている「スイス プチ・パレ美術館展」に展示されている名画の中から、同館学芸員の長峰真奈美さんにオススメの3点を解説してもらいました。
生命感と描くことの喜び

豊かでみずみずしい肌の上で、つややかなドレスが華やかに輝き、たおやかなほほ笑みは幸福に満ちています。薄く重ねられた滑らかな筆致は光沢があり、装飾的な背景と響き合い、実に優美です。
ルノワールは多様な手法を経て、古典主義的な線と印象主義的な色彩の融合を試み、明るく透明感のある画風を生み出しました。
晩年はリウマチの悪化により車椅子での生活を余儀なくされました。詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハから本作の依頼を受けた時は難色を示していましたが、彼女の美しい姿に魅せられて制作に向かったと言われています。痛みのなか描き上げた生命感あふれる作品から、描くことの喜びが感じられます。
点描で微細な光の変化表現

摘みたての花が花瓶からあふれこぼれ落ちています。テーブルに差し込む柔らかな光から静ひつな空気が伝わってきます。一枚一枚細密に描かれた花弁には無数の細かいタッチが刻まれ、鮮やかな色に白を組み合わせた見事な陰影描写となっています。
アシール・ロージェは、科学的な理論を描画に取り入れた新印象派の一人です。彼は特に、新印象派が重視した補色対比の原則を忠実に再現するために点描を用い、より微細な光の変化を表現しようとしました。
転換期のパリでは印象派誕生以降、多くの画家たちが実験的な表現方法を探究。わずか半世紀の間に次々と新しい芸術の運動が起こり、様式が生まれました。
建物の量感 独自の感受性

薄曇りの空に、抑えた色調で描かれた壮麗な大聖堂と小さな人影に寂りょう感が映し出されています。ユトリロはありふれたパリの街並みを憂いのある哀愁漂う情景として描き出し、絶賛されました。この時期は一貫して直線が用いられ、濃い輪郭の縁取りによる建物の量感に、洗練された独自の感受性をみることができます。
ユトリロは画家のシュザンヌ・ヴァラドンの息子として生まれました。祖母に預けられた彼は少年時代に飲酒を覚え、依存症の治療と母の勧めもあって画家を志します。やがて才能が開花し、強烈な個性の画家たちが集ったエコール・ド・パリを代表する人気画家となりました。
本展覧会は母と息子の作品が並ぶ希少な機会でもあります。
※画像は全てASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE
「スイス プチ・パレ美術館展 ルノワール、ユトリロから藤田嗣治まで」 |
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会場:北九州市立美術館 本館(北九州市戸畑区西鞘ヶ谷町21番1号) |
会期:2023年4月22日(土)~6月18日(日) |
開館時間:9:30~17:30(入館は17:00まで) |
休館日:月曜日 |
観覧料:一般1,500円/高大生1,000円/小中生 800円 美術展ナビチケットアプリでも購入可 |
※詳しくは館の公式サイトで |