特別展「コレクションの20世紀」から横山大観、三岸好太郎など3点を名古屋市美術館の学芸員が紹介

開館35周年を迎えた名古屋市美術館(名古屋市中区)の収蔵品から選んだ約100点の作品を通して、日本および世界の20世紀という時代とその美術を再検証する特別展「コレクションの20世紀」が、6月4日まで同館で開かれています。同館の学芸員3人に3点の作品を紹介してもらいました。
輪郭線を用いず 光や空気を表現

横山大観(1868~1958年)は、20世紀を代表する日本画家です。《日月》では、水平線に上半分を見せる太陽と、雲に霞む月が描かれています。輪郭線を用いず、色の濃淡・ぼかしによって、光や空気の表現を試みています。
《日月》が描かれた時期の大観は、岡倉天心の下、日本美術院で研究を重ねていました。しかし、当時の評価は芳しいものではありませんでした。日本美術院は徐々に衰退し、1906年には茨城の五浦に移転、活動を大幅に縮小しました。
1913年に天心が亡くなると、大観は下村観山らと日本美術院を再興し、以降は同院主催の院展を中心に活動を続けました。作品への肯定的な評価も1910年頃から高まっていき、1937年には第1回の文化勲章を受章するなど、日本画家として確固たる地位を築きました。(名古屋市美術館学芸員・近藤将人さん)
晩年のモチーフ 詩的で不可思議

三岸好太郎(1903~34年)は札幌出身ですが、妻・節子が愛知県一宮市の出身であることや、好太郎自身が旅の途中に名古屋で客死していることなどから、実はこの地方と関わりの深い画家と言えます。
青空の下、浜辺に散らばる貝殻を描いたこの作品は、三岸が31歳で亡くなる1934年に制作されたもの。晩年の三岸は、貝殻と蝶という特異なモチーフを集中的に描きました。なぜ、貝殻と蝶なのか、明確な理由は不明ですが、まだ誰も描いたことがない、詩的で不可思議な世界を表現してみせたのです。
写実的な貝殻に比べて、均質で平明な浜辺の描写には、現実離れした雰囲気が漂います。短い生涯の間に様々な画風を展開し、常に前衛であり続けた三岸は、後進の画家たちにも大きな影響を与えました。(同学芸員・森本陽香さん)
あざやかな色彩 神生みの話想起

勢いのある形とあざやかな色彩。芥川(間所)紗織(1924~66年)は、現在の愛知県豊橋市出身の画家で、ろうけつ染めと呼ばれる染色技法を用いて、想像力ゆたかな作品を生み出しました。
《神話より》は、青い光を放ちながら、赤い人物から黄色の人物が飛び出ているように見えます。これは『古事記』の神生みの話をイメージさせますが、実際にどの神話を取り上げたものかははっきりと分かっていません。
芥川は、1955年頃から神話や民話をテーマにした作品を多くてがけるようになりましたが、メキシコ美術展(1955年、東京国立博物館)を見て、自国の歴史や文化を取り上げているメキシコの画家たちに影響を受けたとされています。(同学芸員・久保田舞美さん)
特別展「コレクションの20世紀」 |
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会場:名古屋市美術館(名古屋市中区栄2-17-25 芸術と科学の杜・白川公園内) |
会期:2023年4月15日(土)~6月4日(日) |
開館時間:午前9時30分~午後5時、金曜日は午後8時まで (※いずれも入館は閉館30分前まで) |
休館日:月曜日 |
入場料:一般800円/高大生600円/中学生以下無料 |
詳しくは、美術館のホームページへ |
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