【毒展レビュー】特別展「毒」大阪市立自然史博物館ネイチャーホールで5月28日まで まるで毒のテーマパークや!

ハブ(約30倍)拡大模型の近影。牙から毒が滴るという芸の細かさ

背徳感がある響きで、何やらドキドキする言葉「毒」。実は私たちの身近に驚くほどたくさんあると知り、腰を抜かしました。2022年に東京の国立科学博物館で約30万人もの来場者を記録した注目の特別展「毒」が5月28日まで大阪市立自然史博物館ネイチャーホールへ巡回中です。(ライター いずみゆか)

総展示“毒”数は約250点、全5章にわたって動物学、植物学、地学、人類学、理工学の研究者が総力をあげて掘り下げ、ポップ&クレイジーなテイストで、私たちにとって「毒とは一体何なのか?」をテーマパークのように楽しみながら考える内容です。

一見、グロテスクに感じる有毒両生類のホルマリン漬けもポップな蛍光ピンクやグリーンの壁紙で展示されると、あら不思議

大阪展の会場が約50年の歴史を誇る「長居植物園」を有する大阪市立自然史博物館とあって、本記事では、地球上の数ある毒の中でも、地味ながらジワジワと味わい深い「植物の毒」に注目しながらご紹介します。
本展の全容については、プレビュー記事や「ハカセとNARIのときめくアート」、東京展のレビュー記事もご覧ください

まるで毒のテーマパーク!どの年代でも楽しめる

「秘密結社 鷹の爪」でお馴染みの「鷹の爪団」とコラボ

本展の特徴は、子どもから大人まで様々な年代が楽しみながら、展覧会に込められたメッセージについて自然と考える工夫が随所になされている点。NHK Eテレ『ビットワールド』内で放映された「秘密結社 鷹の爪」でお馴染みの「鷹の爪団」とコラボし、メンバーが世界征服に使えそうな毒を探すついでに!?会場内のあちこちでナビゲートしてくれます。

その他にも、東大発の知識集団QuizKnock(クイズノック)から出題される様々な毒クイズや大人気小説『薬屋のひとりごと』(著:日向夏 イラスト:しのとうこ 主婦の友インフォス刊)とのコラボなど様々なクリエイターが参加。

「オオスズメバチに襲われている時の体勢を再現しているので、目が合うのです」と解説する長谷川学芸員

さらには、本展の本丸とも言える第2章「毒の博物館」の入り口からオオスズメバチ(約40倍)やハブ(約30倍)などの拡大模型がお出迎え。ここは“腐海”か!?という気分に‥‥‥。そのリアルさと迫力に恐れおののきます。さながら、毒のテーマパークと言っても過言ではないほど、エンターテインメント性に溢れているのです。

ほんまにこの世は毒だらけ

本展担当の長谷川学芸員が「博物館として、ほこりの展示はたぶん初!」と語る激レア展示。国立科学博物館のハウスダストは、美術品専用運送車で丁寧に運ばれてきたとのこと

興味深いのは、一般的にイメージする毒キノコや毒蛇、フグなど、基本的に人を含む生物に害を与える物質として理解されている毒が“薬”の効能を持っているところ。
他にも、埃(ハウスダスト)やピーナッツ、小麦粉などアレルギー反応を引き起こす物質や近年、海洋生態系への影響が懸念されているマイクロプラスチックなど私たち人間が作り出した物質も毒に分類される点です。

人が作り出した毒「マイクロプラスチック」の展示解説
大阪展のみの展示。生きたアカクラゲ

普段よく口にする玉ねぎやブドウ、チョコレートなども毒を持つ物質として紹介されているので、驚きです。自然界にも人間界にも数多の種類の毒があふれている‥‥‥。

展示風景

毒について、本展の図録では、「「生物に何らかの作用を与える物質」のうち、人間にプラスに働くものを薬、マイナスに働くものを毒と呼び、多様で複雑な自然界を理解し、利用するために人間が作り出した概念」と説明。薬と毒は紙一重なのですね。

植物はほぼすべて毒を持っている!?

植物ってほぼすべて毒があるんです!と語る長谷川学芸員。特に豆科は毒が多いとか

本展を担当する大阪市立自然史博物館・植物研究室の長谷川匡弘学芸員は、「植物について、ぜひ一番知っていただきたいのは、野菜や果物など、私が食べているものにも毒があることです。植物はほぼすべて毒を持っています。人間に有効な毒だけでなく、人に効かなくとも他の生物(哺乳類や昆虫など)に効く毒を持っているのです」と私たちが驚くような内容を説明します。

殺さぬ程度に生かす・・・

展示パネルより。ジャガイモやヤマゴボウ類など、お馴染みの根菜類も食中毒を起こす

「植物にとって、食べた者が死んでしまっては意味がありません。死ぬと食べた者が学習せず、また食べられてしまいます。食べて死なない程度に苦しませると学習して、食べなくなるのです」(長谷川学芸員)
生物(動物・植物・菌類)が持つ毒の多くは、主に狩り(捕食)など「攻めるため」と「身を守るため」にありますが、毒草などのイメージと違い、ほとんどの植物は「強すぎる毒を持たない」とのこと。むしろ、トリカブトなどの強毒な植物は例外に近いそうです。

植物の繫殖生態が専門の長谷川学芸員は、「種子に一番毒があるのは、子孫を残すためです。食べて消化されてしまっては、繁殖できませんからね」と、繁殖にも“毒”が関係していると説明してくれました。

日本3大有毒植物であるオクトリカブト、ドクウツギ、ドクゼリ。「強毒で知られるトリカブトの根の主成分アコニチンですが(矢毒としてアイヌ民族などが利用しているが)、加工すれば漢方生薬「附子(ぶし)」として、亢進作用、強心作用などの効果があります」(長谷川学芸員)

クレイジーな実験から新たな知見まで

ジャスティン・シュミット博士の「シュミット指数」

館内のユニークなコラムの中でも注目なのが、ツイッターで「これはクレイジー!!」と話題になったジャスティン・シュミット博士の「シュミット指数」です。どのハチに刺されるのが一番痛いのか、なんと自ら刺されてみることで数値化し、比較可能にしたもの。

Lv.4の「泡風呂に入浴中、通電しているヘアドライアーを浴槽に投げ込まれて感電したみたいな痛み」など・・・もはや、どれくらいの痛みなのか分からないレベルで超痛かったのだろうなと、思わずクスっと笑える表現力。2015年にイグノーベル賞を受賞しています。

ヤマカガシのホルマリン漬け

他にも、興味深いのは、マムシよりも数倍の猛毒を持つヤマカガシ。口の毒腺(毒牙)と首の辺りの頸腺毒(けいせんどく)の2つの種類が違う毒を持ちます。頸腺毒は、ヒキガエルを捕食することで取り込んだ神経毒なのだとか。かつて毒を持たない蛇と誤解されがちでしたが、絶対に触れてはいけません。毒は、生物の進化にも関わっているのです。

「毒」よりも本当に怖いのは・・・

毒があるけれど、おいしいもの

本展の図録の最後には、「人間は、知恵や技術で毒をうまく使うことを学んだ一方、自然界になかった新たな毒をつくり出してきた。そして、普通の生物にはできない移動手段や物流を編み出し、かつてないスピードと範囲で、世界に移動し、広がり、その結果として毒生物の移動にも関わっている」と記されています。とどめには、「私たちは、毒から逃れることはできないのだ」と言い切っています。

また、私たち人間は、フグやウナギ、コンニャクなど毒があると分かっているにも関わらず、「何とかして食べたい欲」から食べ方を工夫し、さらには、毒を利用して暗殺や大量虐殺を犯してきた歴史を持ちます。

実は、毒そのものよりも人間の方が恐ろしいのでは?と思わせる、ちょっぴり怖くて、おもしろさが尽きない展覧会です。

特別展「毒」
会期:2023年3月18日(土)~5月28日(日)
会場:大阪市立自然史博物館ネイチャーホール(大阪市東住吉区長居公園1‐23)
開館時間:9時30分~17時(入場は16時30分まで)
入場料:大人1,800円/高大生1,500円/小中生700円
美術展ナビチケットアプリでも販売中
休館日:月曜日
詳しくは展覧会公式サイトへ。