ディオールやシャネルから文楽人形、難民らの報道写真まで――「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023」でたどるボーダレスな世界

京都市中京区の二条城二の丸御殿で

今年のテーマは「BORDER」 境界を越えた世界観に焦点

国際的に活躍する写真家の作品や世界観を楽しめる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023」が、新緑の美しい初夏の京都で開催されている。シャネルやディオールなど海外の一流ブランドが支援するプログラムも多く、みずみずしい感性が伝わってくるアーティスティックな作品からジャーナリスティックな報道記録まで、写真を通じて多彩なテーマに触れることができる。5月14日まで。

二条城、美術館、お寺、町家など古都をめぐる19会場

2012 年から毎年初夏に開催されており、第 11 回となる今年のテーマは「BORDER」。国境、人種、文化、時代、生と死など、さまざまなボーダーを超えた世界観を体感できる趣向になっている。会場は世界遺産・二条城をはじめ、美術館、寺院、町家など市内 19か所に分散しており、各会場ごとにテーマが設定され、好きな順番で巡ったり、個々に鑑賞したりと、自由なペースで楽しむことができる。

いかにも京都らしい、帯匠の町家も展覧会場に

難民のストーリーを丹念に

花街・祇園にあるギャラリースペース「Sfera」で開かれている「Passengers」。2016 年にリビア沖に漂流するゴムボートから救助された難民 118 人のポートレートを救助船の中で撮影し、彼らの「その後」を追い続けているスペイン出身のフォトジャーナリスト、セザール・デスフリ氏の作品を展示している。

「同じタイミングでヨーロッパにたどり着きながら、なぜここまで異なる人生を歩むことになるのか」という自らの疑問を解き明かすため、Facebookなどを頼りに彼らの足跡をたどり、うち105人に取材を重ねたというデスフリ氏。労働許可を得てスペイン最大のビール工場につとめて趣味のサッカーにいそしむ男性、フランス政府に亡命申請を拒否されホームレス生活を続ける男性、故郷のセネガルに置いてきた母親を思い続ける男性など、厳しい現実を生きる難民ひとりひとりの物語が写真を通して綴られている。

印象的なのは、救助船の上で射貫くような厳しいまなざしを向けていた彼らが、今では柔和ではにかんだような笑みを浮かべている二種類のポートレート。そして、リビアで受けた拷問の跡が生々しく残る裸の写真だ。会場では映像作品も上映されており、正式な難民申請が許可されず、不法入国者として逮捕される恐怖におびえる男性の表情からは、この問題の深刻さや複雑さがダイレクトに伝わってくる。

民族衣装とハイファッションを同時に ディオール提供

写真祭では、世界の一流ブランドやその関連団体が提供する展示会場も。中京区の二条城の二の丸御殿台所・御清所では、「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展(2022年12月21日〜23年5月28日、東京都現代美術館)にも出展していた高木由利子氏による「PARALLEL WORLD」が開催されている。提供はディオール。民族衣装を日常的に着るイランやインドの人々を記録したシリーズ「THREADS OF BEAUTY」と、ブランドの最新ファッションに身を包むモデルらを撮影した作品が交互に配置され、それぞれの作品が放つメッセージや空気感を比較しながら鑑賞できる。

民族のアイデンティティでもある民族衣装と、クライアントと作り手の情熱が込められたオートクチュールに共通の愛を感じたという高木氏。「このPARALLEL WORLDに入ったり出たりする事で、人と服の関係を通して、衣服を纏(まと)う人間という存在、人間にとっての幸福感について改めて気づくことがあるのでは」と語っている。

水と海をテーマに シャネル提供

シャネルが提供するのは、キューバの現代美術家マベル・ポブレット氏が手掛ける「WHERE OCEANS MEET」(京都文化博物館別館)だ。写真にとどまらず鏡の破片を吊るしたオブジェなどの大型の立体展示もあり、生命を育む水、旅、あるいは海に散った人々への祈りといった、水と海をテーマにした世界観に没入できる。

伝統芸能、ジェンダー、ブランド…幅広い問題意識

そのほか、文楽人形遣いの吉田簑紫郎氏による「INHERITー青い記憶ー」写真展(八竹庵)、京都に住む若者の姿を生き生きと捉えたココ・カピタン氏の「OOKINI」(ASPHODEL、大西清右衛門美術館、東福寺塔頭光明院)、女性をテーマにした世界報道写真展(京都芸術センター)などが開催されている。ケリングやロエベの関連団体もそれぞれ展覧会を提供しており、ファッション好きも楽しめそうだ。

東山区のASPHODEL

パスポートチケットは一般6000円、単館チケットは800円〜1200円。ガイドツアーや無料のレンタサイクルなどのサービスもある。詳細は公式サイト(https://www.kyotographie.jp/)まで。(ライター・ミライ、写真も)