工藤春香個展「生活・抵抗」 「相模湖に関する作品」の3作目 「人と人との分断」を自分に関係すること、としてとらえる 5月7日まで

工藤春香個展「生活・抵抗」
会場:PARA神保町2F(東京都千代田区神田神保町2-20-12 第二富士ビル2階)
会期:2023年4月30日(日)~5月7日(日)
開場時間:14:00~19:00
入場料:1,000円
※PARA 各種フリーパス・コース無料適用
※予約不要・現地受付精算・現金のみ・再入場不可
協力:「相模湖・ダムの歴史を記録する会」
代表 橋本登志子・中島友義・田中造雅・尾中正樹・高橋政行
社会福祉法人 青丘社 三浦知人・崔江以子
FUNI
G、X
工藤真衣子
(敬称略)
イベント:飯山由貴映像作品《In-Mates》  上演 + トーク
5月6日(土)19:00~21:00 参加費2,000円
問い合わせ:PARA co.playsandworks@gmail.com
展覧会ウェブサイト:https://paratheater.com/9f36aeaacfdf480aa966b4a87147db6a

相模原市の障害者施設殺傷事件をきっかけに、現場近くに位置する相模湖に関する作品を作ってきた工藤春香さんの3作目。今回はさらに相模湖建設の歴史に踏み入って、そこにあった人と人との分断の実態を明るみにしていきます。(美術展ナビ編集班 岡部匡志)

相模湖は相模川をせき止めてできた人造湖。日中戦争が拡大する中、軍需産業を担う京浜工業地帯の水と電力の不足を補うため、1940年に工事が始まりました。この際、日本全国から集められた人のほか、中国人兵士の捕虜や朝鮮半島から連れてこられた人などを含めて延べ360万人が従事。過酷な労働で80人以上がなくなったといいいます。結局、ダムは戦後の1947年に完成しました。その年、昭和天皇、香淳皇后が完成した相模湖に行幸啓されたことも展示されています。いかに国家的事業であったかが一目瞭然です。

蚕の繭の展示。相模湖ができた周辺はかつて養蚕が盛んで、日本の重要な輸出産業でした。戦争でそうした地域の在り様も変わっていきました

「人を人とも思わぬ」分断の構図

展示ではダム工事で殉職した人の名前の展示、当時の過酷な労働を知る人の証言の断片などが紹介されています。ほとんど満足な食事もとらせず、軍隊式のただのイジメとしか思えない教練を強制するなど、文字通り「人を人とも思わぬ」酷い扱いがまかり通っていたことがじわじわと伝わってきます。あまり直接的な表現がないだけに、むしろ想像がかきたてられる展示です。

展示室のトイレに入ると床にマメが敷いてあり、通ると「シャリシャリ」と音がなります。さらに窓には鎖がしてあります。工藤さんに「あれはどういう意味ですか」と尋ねると、「ダムの工事現場のトイレがそうだった、という証言があるのです。私もどういう意味なんだろう、泥棒避けかな、と不思議だったのですが、実際にやってみると、脱走防止策なんだろうな、ということが想像できるようになってきました。来場した方にも、体験してほしくてああしてみました」と言います。

工藤春香さん

このほかにも「1944年にいた中国人労働者の作ったマントウのレシピで中国人留学生とマントウを作るあいだに話す」という動画など、当時と現在を繋ぐ様々な展示があり、現代に生きる私たちにも、当時の人と人との分断のありようが「自分と関係のあること」として感じられてきます。それは現代社会において、昔話どころか、「昔も今も変わっていないのでは?」という自覚にもつながってきます。

権力によって人と人の間に線が引かれ、線が引かれることによって意識の分断が起きる。普通の人間関係があれば到底できないようなことも、「同じ人間ではない」と思うことで出来るようになってしまう恐ろしさを痛感します。自分自身がそうならないためにも、過去の出来事をリアルに知ることの大切さをかみしめます。

土砂を運ぶ袋を衣服にしていた、という当時の労働者の暮らしぶりを連想させる展示

「生活・抵抗」というタイトルについて、工藤さんは「これが答えです、というような展示にはできないですし、過去に彼らが食べていたものを食べてみるようなことで、『生活』をする人間同士として、引かれた線を無効にしていくきっかけになれば、と思っています」と話していました。

5月5日(金)19時からは「キムチとマントウを食べながら証言集を声に出して読む会」(要予約)という関連イベントもあります。詳しくは(https://paratheater.com/9f36aeaacfdf480aa966b4a87147db6a)をご覧ください。

(おわり)