【プレビュー】「発掘・植竹邦良 ニッポンの戦後を映す夢想空間」5月20日から府中市美術館で

戦後日本の政治、社会などの世相を映しながら、虚無僧、破裂したザクロなどの奇妙なモチーフを細密描写した画家・植竹邦良(1928-2013)の全貌を初めて紹介する展覧会が、制作を続けた地元の東京・府中市で行われます。

焼跡からはじまる
植竹は1928(昭和3)年、東京・品川に生まれ、赤羽で育ちます。1945年に東京工専印刷科(現・千葉大学)に入学するも、学徒動員や空襲に脅かされる青年期を送りました。戦後は工場実習として米軍管理下の印刷工場で働きながら、東京工専の教師だった画家・赤穴宏の手引で絵を学び始め、猪熊弦一郎主宰の田園調布純粋美術研究所に通いました。
1950 年代初頭は、米ソ冷戦が顕在化して朝鮮戦争が始まり、反戦平和運動や様々な社会運動が熱を帯びていました。若い画家たちも、差し迫った危機感を抱き、何を描くべきか、どのように芸術が社会と関わるべきか、熱い議論を交わしていました。
若き日の植竹もこれらの運動に接近し「ニッポン展」などに出品を重ねます。残念ながらこの時期の作品はほとんど残されていませんが、スケッチなどに、焼跡から画家を目指し出発した画家の歩みを見ることができます。
闘争から深める幻想
1960 年代以降に植竹が展開するのは、様々なモチーフが入り乱れ、反復しながらつながっていく夢想的空間の構成です。それらは政治や社会問題から切り離されたものではなく、戦時下の記憶や、安保闘争・学園紛争といった社会状況が複雑に編み込まれています。世相を象徴するモチーフと、自身の私的な記憶や執着を混ぜ合わせながら、絵画のなかに無限につづく夢想空間を展開していきました。





地形と都市のダイナミズム
植竹の作品は、現実ではありえない空想の空間を描きながらも、そのなかに奇妙な実在感を備えています。その構成要素の一つに、現実の地形や建築、都市の細部にわたる描写があります。


幼い頃から地層や地形に興味を持っていた植竹は、1970 年代後半以降、角度や光を変えて地形模型を写真におさめ、それを自身の作品の中に取り込んでいきます。地形模型を介して描写される世界は、現実と非現実の境にあるような不思議な感覚を呼び起こします。また、植竹は都市風景のスケッチを晩年まで継続しています。高度経済成長下で増殖していく巨大構造物を取り込んで、植竹絵画はますますダイナミックに展開していきます。
1960年前後の「前衛」
植竹は1950 年代から前衛美術会周辺の画家たちと接点を持ち、社会性の強い題材と私的なイメージの距離感を模索していた彼らの作品から多くを吸収します。
中村宏、池田龍雄、尾藤豊、桂川寛の4作家の特集展示により、当時の社会と「前衛」の状況を窺います。

発掘・植竹邦良 ニッポンの戦後を映す夢想空間 |
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会場:府中市美術館2階企画展示室(東京都府中市浅間町1-3) |
会期:2023年5月20日(土)~7月9日(日) |
開館時間:午前10時~午後5時(入場は午後4時30分まで) |
休館日:月曜日 |
入館料:一般700円、高校生・大学生350円、小学生・中学生150円 |
詳しくは、同展HP |