【BOOKS】『もっと知りたい牧野富太郎』芸術的な写生画をたっぷりと紹介するアートファンにおすすめの一冊!

NHKの朝の連続ドラマ「らんまん」に登場する主人公のモデルとなったことで注目が高まる中、植物学者・牧野富太郎の生涯を紹介する書籍が相次いで発売されています。なかでもアートファンにおすすめしたい一冊が、牧野の”アーティスト”としての一面をクローズアップした池田博、田中純子著『もっと知りたい牧野富太郎』(東京美術)です。
アーティストを特集する「もっと知りたい」シリーズに、なぜ植物学者が取り上げられるのか、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、一度本書を手にとって見ると、牧野富太郎の驚くほど卓越した画力に驚かされます。彼が描いた植物のいきいきとした写生や精緻な解剖図は、プロの描いた作品にしか見えません。


さらに驚くことに、牧野はこうした植物の知識や写生画のスキルを、すべて独力で身につけていました。植物は「天然の教場」で学んだと語るように、彼は幼少時から地元・高知県の山里で植物を見つけては、丹念に観察記録をつけていました。絵については、参考書を片手に試行錯誤しながら学んだようです。牧野富太郎は、いわば画家と学者の二刀流文化人だったのです。

牧野は、こだわったことに対しては、とことん自分自身の力でやり遂げることを好みました。生涯を通じて次々と植物図鑑のシリーズを上梓していくのですが、文章はもちろん、挿絵も自分で手掛けます。圧巻なのは、処女作となる図鑑『日本植物志図篇』第12集を出版しようとした際のエピソードです。やむを得ない事情で東京を離れ、故郷の高知に帰らなければならなくなった牧野は、郷里でも出版を続けられるよう、高価な石版画印刷機を自ら購入。さらに石版印刷の技法もマスターし、自費出版の実現に執念を燃やしたのです。
また、本書では、牧野が命名し、日本人によって初めて学名がつけられた「ヤマトグサ」、詳細なスケッチが欧米でも評判となった食虫植物「ムジナモ」など、牧野の発見の中でも特に重要な植物を掘り下げて解説。発見に至る詳細なエピソードとともに、牧野が心血を注いだリアルな写生画が楽しめます。

生涯を植物に捧げた牧野富太郎の人生を、「アーティスト」としての側面を掘り下げながら、興味深いエピソードとともに明快なビジュアルで解説した良書です。定価は2,200円。購入は書店や東京美術のHPから各オンライン書店で。
(ライター・齋藤久嗣)