【レビュー】「京都 細見美術館の名品 -琳派、若冲、ときめきの日本美術-」日本橋高島屋で5月15日まで 細見家3代の審美眼を東京で味わう

左:《糸瓜群虫図》 伊藤若冲 江戸中期 右:《雪中雄鶏図》伊藤若冲 江戸中期

開館25周年記念展 京都 細見美術館の名品 -琳派、若冲、ときめきの日本美術-
会場:日本橋髙島屋S.C. 本館8階ホール(東京都中央区日本橋2-4-1)
会期:2023年4月26日(水)~5月15日(月)
入場時間:10:30~19:00(閉場19:30)
※最終日は17:30まで(閉場18:00)
アクセス:地下鉄銀座線・東西線「日本橋駅」直結
入場料:一般1,200円/大学・高校生1,000円 中学生以下無料
詳しくは髙島屋のHPへ。
◇巡回予定◇
ジェイアール名古屋タカシマヤ:2023年12月23日(土)~2024年1月7日(日) 静岡市美術館:2024年4月13日(土)~5月26日(日)

細見家3代の確かな審美眼で蒐集した名品のコレクション

京都・細見美術館の開館25周年を記念した展覧会が日本橋高島屋で開催されています。昭和の実業家・細見良(初代古香庵、190179年)に始まる細見家3代が、確かな審美眼を持って80年近くを費やして蒐集した名品の数々が京都からやってきました。国内外から高い評価を受け、「日本美術史の教科書的なコレクション」と言われるほど、幅広い時代とジャンルを総覧する細見家のコレクションが紹介されています。※作品はすべて細見美術館蔵

琳派の始まりにときめく

細見美術館は素晴らしい琳派のコレクションを所有しており、過去22回「琳派展」を開催し、今年6月10日からは「琳派展23」が開催される予定です。本阿弥光悦に始まり、近代の神坂雪佳まで幅広く20人を超える琳派絵師の作品を蒐集しています。

左:《月梅下絵和歌書扇面》 本阿弥光悦 書/俵屋宗達 下絵 江戸前期 右:《忍草下絵和歌色紙「郭公」》本阿弥光悦 書/俵屋宗達 下絵 江戸前期

俵屋宗達が下絵を描き、本阿弥光悦が和歌を書いた《月梅下絵和歌書扇面》と《忍草下絵和歌色紙「郭公」》が並びます。この二人の出会いから琳派が始まりました。
宗達はもともと絵屋を営んでおり、初期に光悦の書の下絵となる料紙を多く描きました。左の《月梅下絵和歌書扇面》は金地と銀地に分割された片身替わりで、そこに光悦が「新古今和歌集」からの和歌を絶妙のバランスで書いています。なんとも味わい深い作品です。右の《忍草下絵和歌色紙「郭公」》も宗達の忍草の下絵と光悦の書の調和が素晴らしいです。

このバランス感覚はのちに宗達が《風神雷神図屏風》や《舞楽図屏風》などの大作を描く上での素地になったと思われます。まさに琳派の創成期の作品と言えます。

抱一の色彩にときめく

酒井抱一の作品が5点出展されていますが、あらためて色彩の美しさに目を見張りました。特に心惹かれたのは《白蓮図》です。一見水墨画のように見えるのですが、めしべにはほんのり金が、蕾にはほんのり緑が使われています。その淡く繊細な色遣いに見惚れました。

左:《白蓮図》 酒井抱一 江戸後期、右:《桜に小禽図》 酒井抱一 江戸後期 大瑠璃鳥の青と桜の花弁の透けるような白が美しい

酒井抱一は姫路藩主酒井家の次男に生まれました。裕福ですから、顔料は特に上等のものを使ったと聞きます。通常顔料は重ね塗りしないと発色しませんが、《白蓮図》の蕾の色はさっとはいただけで発色しています。花と葉、茎も繊細に描かれています。上等な絹に上等の顔料で描いた結果、滲みもなく美しく淡い色合いに仕上がっています。

同じく抱一の《鹿楓図団扇》は金箔地の団扇の表に鹿と萩が、裏に楓が描かれています。こちらは大変色鮮やかでなんと贅沢な団扇でしょうか。鹿の鼻先や萩の花が繊細に描かれています。

《鹿楓図団扇》 酒井抱一 江戸後期

他にも鈴木一や中村芳中、池田孤邨、神坂雪佳など琳派の魅力的な作品が並びます。琳派の数々の作品に会場でときめいてください。

左:《金魚玉図》神坂雪佳 明治末期 中央:《月に萩鹿図》中村芳中 江戸後期 右:《朝顔図》中村芳中 江戸後期
《四季草花流水図屛風》 池田孤邨 江戸後期

若冲作品は細見美術館所蔵の全19件を展示

細見家では、伊藤若冲が現在のように人気が出る前から作品を蒐集していました。細見良行館長は「若冲はうちのコレクションをすべて持ってきていますので」と話されていました。今回の出展作品は、初期の著色画2枚と屛風3双を含む19件もあり、ずらりと並ぶさまは壮観です。若冲は《動植綵絵》が有名なため著色画のイメージが強いかもしれませんが、著色画を描いたのは主に40代前後の10年あまりで、実は墨絵を多く描いています。

《瓢箪・牡丹図》 伊藤若冲 江戸中期

細見家の若冲コレクションは2代古香庵がこの《瓢箪・牡丹図》に衝撃を受けたことに始まりました。
右幅は瓢箪、左幅は牡丹と岩を描く双幅です。長い瓢箪の実は線描で、葉や花は濃淡の墨色と動きのある線で描かれています。牡丹の花は筋目描き(滲みやすい画箋紙の特徴を活かし、墨が滲む時に残る白い境界を線として活用する方法)で表現され、花弁の先には濃い点が描かれています。葉も黒々と描かれ、濃淡が味わい深いです。

《花鳥図押絵貼図屛風》 伊藤若冲 江戸中期

《花鳥図押絵貼図屛風》は、61双の計12面に梅、牡丹に蝶、鶏に竹、鶏に松などが描かれています。画題、配置、描き方など大変よく考えられています。こちらは40代前半の制作とされ、今回出展のほかの2双よりも墨の色が大変鮮やかで大変よい墨を使って描いたと考えられています。

左:《菊花図押絵貼屛風》 伊藤若冲 寛政7年(1795年)頃 右:《宝珠に小槌図》伊藤若冲 寛政12年(1800年)頃
伊藤若冲の展示を眺める筆者

伊藤若冲のコレクターとして知られ、先日亡くなられたジョー・プライス氏とも親交のあった細見家。細見館長は、「彼は1日中ずっと絵を観ていた。落款などで判断するのではなく、自分の感覚で絵を観なさいと教えられた」と想い出を語ってくれました。

仏画、茶道具、工芸品など多岐にわたるコレクション

琳派と若冲以外も、仏画や荘厳具、茶の湯の美術、七宝や蒔絵などの工芸品、風俗画など時代もジャンルも多岐にわたる細見家のコレクションが展示されています。コレクションの奥深さを実感する展覧会です。

右:《藤蒔絵提重》  江戸後期

なかなか京都までは出かけられないという方も、日本橋で日本美術にときめくために出かけてみませんか?

(ライター akemi

◇akemi きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。
展覧会に合わせたコーディネート。水墨画のイメージで黒字に白の絞りの着物に琳派菊(光琳菊)文様の帯。着物は30年以上前に母が買ってくれたものですが、今でも着ています。