【レビュー】「生誕100年 山下清展―100年目の大回想」佐川美術館で6月11日まで 放浪の画家が見た世界を堪能

「山下清」と聞けば多くの人がその名前は知っているでしょう。ドラマ「裸の大将放浪記」や映画のモデルにもなり、白いランニングシャツとおにぎりのイメージが強く記憶に残っているのではないかと思います。しかし、それはあくまでフィクション。実際とは違っています。では、彼はどのような人生を歩み、どんな作品を残したのでしょうか。それがよくわかるのが、佐川美術館(滋賀県守山市)で開催中の「生誕100年 山下清展―100年目の大回想」展です。

本展では190点に及ぶ作品が展示されています。その膨大な作品を通して画家の人生をたどり、画家が見た世界や感じていたことを追体験できるようになっています。等身大の、画家山下清に迫る美術展です。
生誕100年 山下清展 -百年目の大回想 |
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会場:佐川美術館(滋賀県守山市水保町北川2891) |
会期:2023年4月8日(土)~6月11日(日) |
開館時間:9時30分~17時 (最終入館は16時30分まで) |
休館日:月曜日(祝日に当たる場合はその翌日) |
入館料:一般 1,200円、高大生 800円、中学生以下無料(要保護者同伴) 美術館の入館にはWEBでの事前登録が必要 |
詳しくは、館の公式サイト |
「放浪はくせ」旅の途中でみた景色

子どもの頃、昆虫を観察しては貼り絵を作っていた山下清。吃音をからかわれ、いじめを受けていて昆虫は友達のような存在だったとか。本展ではそんな子どもの頃の作品も展示されていますが、その描写のリアルさには驚かされます。山下清には瞬間記憶能力があり、見たものを完全に記憶して描いていたのだそうです。

また、山下清が青年になる頃は日本が戦争に進んでいった時代と重なり、徴兵検査を受けなければなりませんでした。ところが「戦争というものは一番こわいもので一番大事なものは命で」(山下清)という通りに、兵役から逃げるために放浪の旅に出ます。
とはいえ、それは許されない時代。母は許してくれず徴兵検査に連れて行かれますが、「不合格」となります。戦時中の絵もいくつか展示されていますが、その作品からは現代を生きる我々にも強く訴えかけてくるものがあります。

その後も放浪を繰り返し、そこで見た景色を目に焼き付けては絵を描いています。本人も「放浪はくせか病気」(山下清)というように、放浪せずにはいられなかったのかもしれません。作品を見ていると一緒に放浪しているような気分になるから不思議です。
見入ってしまう細やかな表現

山下清の作品で特筆すべきは、細やかさによる表現です。名作《長岡の花火》では、山下清自身が考案したとも言われる「こより」を使って花火の線を表現しています。
その花火が川面に写っている様子や、花火を見る群衆も一人一人細かく描かれ、絵の前で動けなくなるほどに見入ってしまいます。
また、山下清は大の花火好きで花火を題材にした作品が数多くあります。49歳で亡くなる際の最期の言葉は「今年の花火見物はどこに行こうかな」だったと伝わっています。山下清の純粋な気持ちが伝わってくる作品です。

1961年、山下清は40日間のヨーロッパ旅行に出かけます。ヨーロッパを描いた作品は日本を旅した作品と違い、どこか力強い印象を受けます。《パリの凱旋門》は見た瞬間、思わず息を呑んでしまうほどの作品。
こちらはペン画ですが、点描と呼ばれる技法で陰影や壁の質感を表しています。この繊細さ、緻密さこそ山下清の真骨頂でしょう。初めて外国に赴き、山下清自身も大きなインスピレーションを受けていたことが窺えます。
自分に正直に生きた人生

山下清は生涯を通して、ちぎり絵、油絵、鉛筆画、ペン画、陶器への絵付など幅広いジャンルの作品を多く残しました。それらに加えて、文章も残しています。物事の本質を見抜いた飾らない文章を読むと、自分の気持ちに正直に生き、自分の周りの人や自然に優しい眼差しを向けていた人だということがわかります。

本展では絵に添える形で山下清の言葉を紹介しています。絵と言葉で山下清が日本中を旅して見た風景やその時の思いが伝わります。生誕100年の今年、ぜひ、会場で山下清の世界をじっくりとご堪能ください。
(ライター・若林佐恵里)