特別展「東福寺」音声ガイドの木村多江さん「想像以上にポップ まるで「背負い投げ」をされた気分」

特別展「東福寺」で音声ガイドを担当する女優の木村多江さんが、開幕後の東京国立博物館の会場を訪れました。
木村さんは「禅宗なのでもっと硬いかなと思っていましたが、想像以上にポップでした。解説に4コママンガがあるのもそうですが、まるで『背負い投げ』をされた気分です(笑)。年齢を問わず楽しめるので、禅宗だからとかしこまらず、ぜひ見に来てください」と話していました。
「後ろから囁くように語ります」開幕前のインタビュー(再掲)
3月7日(火)に東京国立博物館で開幕する特別展「東福寺」で、音声ガイドを担当する女優、木村多江さんにインタビューしました。美術番組のナレーションを長く担当するなど、普段からアートに親しんでいる木村さん。音声ガイドでは「後ろから囁くように語る」ことを心掛けたそうです。そのココロは?
伝統と革新の京都、そして東福寺
Q 京都や東福寺についてどんなイメージをお持ちですか。
A 京都は伝統の街である一方、革新の街でもあると思います。伝統を守らなればいけないけれど、先人たちを尊重しつつ、新しいものを生む力のとても強い街。東福寺も例えばお庭はとてもモダンです。枯山水などの思想を感じさせつつ、現代の私たちが見ても楽しめます。京都のお寺ならではの、伝統と革新の両方の精神があると思います。
Q 東福寺に最近、足を運んだことはありますか。
A 一昨年の冬に伺いました。新緑や紅葉の季節が人気のお寺さんですが、冬だったらどうなんだろうとふと思い、閉まる寸前に駆け込みました。人影がなく、寒くて、お庭にも厳しい雰囲気があり、自分の中で筋が通るような気持ちになりました。身の引き締まる思いがして、冬もよかったです。
今回の展覧会でも住職の方が描いた作品が出品されます。冬の東福寺を経験したので、きっと底冷えする床のうえで、光もあまり入らないような場所で制作したのだろうなあ、と当時の人たちの気持ちを想像しました。
モノの背景にある「人」を想像することに醍醐味
Q 古い文化財にどんな魅力を感じますか。
A NHKBSプレミアム「美の壺」のナレーションのお仕事で、日本では時間をかけて、手間暇をかけて、丁寧にものを生み出している人がたくさんいることを知りました。その背景を理解することによって、モノがモノを超えていく美しさというか、モノはモノなんだけど、その裏側にいるたくさんの人たちへの思いみたいなものが生まれてきました。作品の背景を想像できるようになったことで、経年変化していったものの楽しさも分かってきた気がします。
自分の気持ちを押し付けないガイド
Q 展覧会はよく足を運びますか。
A 時間に余裕がなくてそれほど頻繁には行けないのですが、「今、美術館ではなにやっているのかなあ」とよく情報収集しています。料理本を見て料理を作っているような気になるのと同じです(笑)。そういう時間も楽しいです。
Q 今回の収録で気を付けたことは?
A お客様が、その作品をみてどう感じるかが一番大切なので、その感じる心を邪魔しないよう、後ろから囁くように語ることを心掛けました。展覧会に行って、友達相手なら「この作品、圧巻だよね!」と言えますが、ガイドで「圧巻ですよね!」という私の気持ちを入れてしまうと、その方の心の動きを邪魔してしまうと思います。普通のナレーションならもう少し抑揚を入れるのですが、押し付けないよう、自我を出さないように、こっそり「圧巻ですよね…」と伝える感じでしょうか(笑)。
「お顔」にぜひ注目を!スケールも大きい
Q 展覧会を楽しみにしているファンにおすすめは。
A 今回の出展作では、描かれているお顔にとてもヴァリエーションがあって、写実的なものもあるのですが、「あれ、この人近所に住んでない?」というような方も多いのです。ユーモラスで、性格まで見えるようなたくさんのお顔に出会えます。そして五百羅漢図はやはり圧巻です。東福寺さんそのものも大きく、すべてのスケールが大きい。ダイナミズムもたっぷり味わえます。
(聞き手・美術展ナビ編集班 岡部匡志、撮影・青山謙太郎)
<木村多江さん>
1971年生まれ、96年ドラマデビュー。以降、ドラマ、映画、CM、教養番組など多方面で活躍し、幅広い世代に注目される。
代表作にドラマ「大奥」、映画「東京島」、NHKよるドラ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」、Eテレ「木村多江のいまさらですが・・・」など。
2014年からナレーションを務めるNHKBSプレミアム「美の壺」では、さまざまな伝統・芸能文化に触れ、その魅力を発信し続けている。