陰鬱なエレガンスが紡ぐ世界「エドワード・ゴーリーを巡る旅」 渋谷区立松濤美術館で6月11日まで

渋谷区立松濤美術館で「エドワード・ゴーリーを巡る旅」がスタートしました。
本展は日本初公開と言われる幼少期の作品から、晩年過ごしたケープコッドでの暮らしまで、作品のみならずゴーリーの人物像にも迫った展覧会となっています。
エドワード・ゴーリーを巡る旅 |
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会場:渋谷区立松濤美術館 |
会期:2023年4月8日(土)~6月11日(日) |
休館日:月曜休館 |
開館時間:午前10時~午後6時(金曜のみ午後8時まで) ※最終入館は閉館30分前まで |
アクセス:JR・東急電鉄・東京メトロ 渋谷駅下車、徒歩15分 京王井の頭線 神泉駅下車、徒歩5分 |
入館料:一般1,000円、大学生800円、高校生・60歳以上500円、小中学生100円 |
※リピーター割引あり。詳細は公式サイトにてご確認ください。 公式サイト:https://shoto-museum.jp/ |
不幸で理不尽。でもなぜか惹かれる、大人のための絵本とは?

エドワード・ゴーリーは、1925年にアメリカのイリノイ州シカゴで生まれた絵本作家です──と言っても、一般的にイメージされる「絵本」とは一味違うのがゴーリーの作品。
絵本に求められがちな道徳や教訓を度外視したストーリーは、その多くが「不幸が不幸のまま終わる」ものや「オチらしいオチがない」ものばかりです。それでも多くの人々をとりこにするのは、彼の描く世界が魅力的であるからに他なりません。
そのひとつとして挙げられるのが、緻密な線で表現された陰鬱でエレガンスな画風でしょう。不穏の中にも個性が光る人物描写や丹念に描き込まれた背景は、物語でなく1枚の絵として見ても完成されています。

ゴーリーの絵本の日本語版が出版されたのは意外にも最近で、彼の没年である2000年でした。柴田元幸氏による翻訳で『ギャシュリークラムのちびっ子たち』が出版されて以来、「大人のための絵本」と称され人気を博し、続々と翻訳されるようになったのです。
会場では、2023年4月に新たに出版された『薄紫のレオタード』の原画と日本語訳も展示されています。

終の棲家で開催された展覧会を日本版に再編成

本展はゴーリーが終の棲家として暮らし、現在は記念館の役割を果たしているケープコッドの「エドワード・ゴーリーハウス」で開催された企画展から、彼の芸術を考えるうえで軸となる「子供」「不思議な生き物」「舞台芸術」などの主要なテーマを、およそ250点の作品で再編。初期の活動から順に追っていく回顧展とは少し異なる切り口は、各章コンパクトではあるものの、ゴーリー作品のエッセンスが効果的に伝わる構成となっています。

また、生前彼と交流のあった人々にインタビューしたドキュメンタリー映像などを通じて、作家の人物像を浮き彫りにするさまざまなエピソードを紹介。驚異的な読書家であったことや、ゴーリー流の絵本の作り方など、作品の裏側にも焦点を当てた内容は見応えがあります。

中でも印象的なのは、20代の頃から通いつめていたというニューヨーク・シティバレエとの関係です。ゴーリーは振付師のジョージ・バランシンの才能に惚れ込み、ほぼすべての公演を鑑賞したと言われています。バレエの世界は彼の作品にも多大な影響を与え、またバレエをモチーフにした絵本も制作されました。
そんなある日、彼のもとにミュージカルの総合デザインの仕事が舞い込みます。それは幼いころから愛してやまない『ドラキュラ』の物語でした。不気味で陰鬱、けれどとてもエレガントな世界は、彼の美意識と見事に融合します。このミュージカルはブロード・ウェイでも上演され、ついにゴーリーはアメリカ演劇界の最高峰と言われる、トニー賞の衣装デザイン賞を受賞するという栄誉に輝いたのです。
このように、絵本という手元で味わう小さな世界から舞台美術まで、幅広いスケールで活躍した作家の仕事を通覧できるのも本展の醍醐味です。
松濤美術館で味わう暗くてまばゆいゴーリーの世界

本展は巡回展となっているため、会場ごとに作品から受け取る印象が異なるのも魅力のひとつと言えるでしょう。東京会場である松濤美術館は、白井晟一による印象的な建築でも知られています。邸宅のような内装は照明を落としたつくりになっていることも相まって、ゴーリー作品の世界を彷彿とさせます。

また、第2会場となる「サロンミューゼ」では、白井が自ら買い付けたソファに座って、ゴーリーの絵本を読むことができます。ゴーリーファンも、初めて彼の作品に触れる方も、松濤美術館でしか味わえない雰囲気とともにその世界に入り込んでみてはいかがでしょうか。
(ライター・虹)