【プレビュー】大阪歴史博物館 特別企画展「異界彷徨―怪異・祈り・生と死―」 異界にまつわる約200点の資料を紹介 6月26日まで

特別企画展「異界彷徨―怪異・祈り・生と死―」
会場:大阪歴史博物館 6 階特別展示室
会期:令和5年4月28日(金)~6月26日(月)
開館時間:9 時30分~17 時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日 ※5月2 日(火)は開館
常設展示観覧料で観覧可能
大人 600 円(540 円)、高校生・大学生 400 円(360 円)
※( )内は 20 名以上の団体割引料金
※中学生以下・大阪市内在住の 65 歳以上(要証明証提示)、障がい者手帳等をお持ちの方
(介護者 1 名を含む)は無料
詳しくは、公式サイト

大阪歴史博物館(大阪府大阪市)の 6 階特別展示室で、4 月 28 日から特別企画展「異界彷徨―怪異・祈り・生と死―」が開幕します。古代から人々は、「自分たちのいるところとは異なる世界」すなわち「異界」を意識してきました。天変地異や災厄の原因など、人知の及ばない現象を異界の住人が引き起こすものと畏怖し、我が身に降りかかる災いは、他界に属する神や仏への祈りによって退けようとしてきたのです。そして、生命の誕生を喜び、成長を祝い、死者を手厚く弔う際にも、様々な儀礼を行ってきました。「異界」とは、私たちの生活を基層で支える概念とも言えます。

『願懸重宝記』 文化 13 年(1816) 大阪歴史博物館蔵

本展は、館蔵品を中心に、民間信仰にかかわる器物や祈願品などの民俗資料をはじめ、祭祀具や副葬品といった考古資料、他界観や神仏、妖怪などをあらわした絵画資料や歴史資料など、「異界」にまつわるあらゆるジャンルの資料(約 200 件)を紹介。様々な視点を交え、私たちが「異界」をどのように捉え、交渉し、対応してきたのかを考える内容です。

天狗と鍾馗

天狗像 江戸時代後期~明治時代 大阪歴史博物館蔵(中尾堅一郎氏寄贈)

天狗は、中国では凶兆を示す流星です。日本においては、仏敵であり、飛行能力をもつ有翼の障魔となりました。さらに、山中での怪異や山神信仰、修験道における山伏などの性格が習合し、中世以降、様々な天狗が生まれました。

朱鍾馗図 丹羽桃渓筆 文化 8 年(1811) 大阪歴史博物館蔵(松村恭一氏寄贈)

鍾馗(しょうき)は、病魔を祓うとされる神。病に苦しむ唐の皇帝・玄宗の夢中にあらわれて疫鬼を食い殺したとされ、玄宗が目覚めると病は癒え、以降その姿を描くようになったとの故事に由来します。
日本にもこの習俗が伝わり、厄除けとして鍾馗図が飾られました。「朱鍾馗」は、退魔の呪力をはらむ赤で鍾馗を描く画題。後ろを振り返る鍾馗の左手には小鬼が捕らえられ、叫ぶかのように大口を開けています。右下に「辛未端午」とあるため、この絵は端午の節句で飾られたと考えられます。

庶民の現世利益信仰

『願懸重宝記』 文化13 年(1816)大阪歴史博物館蔵

濱松歌国(1776~1827)の著書『願懸重宝記(がんかけちょうほうき)』は、大坂や周辺地域の病気平癒や諸願成就に霊験ある神仏と祈念の方法などをまとめた本です。

同書の「十二 目神八幡宮立願の事」の項の挿絵では、右の男性が「目が痛む」と悩んでいると、左の男性が「私は平癒したお礼参りだ」と返し、その手には鳩の土人形が握られている姿が描かれています。「御礼には土の鳩を献ず」とあり、鳩は八幡神の神使とされるので、報恩のために献上したと考えられます。

他にも、同書には、疱瘡や痔疾の平癒、厄除け、商売繁盛などの霊験が記載されており、
近世大坂における庶民の現世利益信仰を今に伝えます。

守刀・守袋 江戸時代後期~明治時代 大阪歴史博物館蔵(鴻池善右衞門氏寄贈)

大坂の豪商・鴻池家に伝来した婚礼道具のうち、刀掛けである「守掛」一式に含まれていた守刀と守袋は、魔除けのためのもので、結婚の際に花嫁に持たせる風習があります。鉄が持つ霊力と刃の切断力を呪力の根幹として、古くから、刀剣には退魔の力があると信じられてきました。

護符を入れる小型の守袋は、災害や病気などを避けるためのもの。宮参りの際、赤ん坊に降りかかる災いを避けるべく、守刀に守袋を下げて携行し、両者は取り合わせて用いられる機会が多いものでした。

冥界と地獄

地こく変(部分) 菅楯彦筆 明治41年(1908)大阪歴史博物館蔵

地獄図は、重い罪を犯した者が死後、地獄道に堕とされ永遠に責め苦を味わう恐怖を描いたもの。悪行を戒め、善行に励むよう諭す意味合いもあり、人々は、冥界への想像を掻きたてられました。『地こく変(地獄変)』は、近代大阪で活躍した画家・菅楯彦(1878~1963)が明治41年に高野山を訪ねた折に描いた作品です。箱書きに「同行の二童子に戯に書き与へるものなり」とあり、獄卒が連れてきた亡者を閻魔王が身を乗り出し喝破している姿など、全体的に戯曲的でユーモラスに描いています。

期間中には、同展担当の俵和馬学芸員によるスライドトーク(4月29日(土・祝)、5月27日(土)、6月10日(土)、6月24日(土))がおこなわれる予定です。

(美術展ナビ編集班)