「おもかげのうつろひ 佐藤壮馬」資生堂ギャラリー 大雨で倒れたご神木を3Dデータで“再現” 生命の循環と再生を表現 5月21日まで

第16回 shiseido art egg「おもかげのうつろひ 佐藤壮馬」 |
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会期:4月18日(火)~ 5月21日(日) |
会場:資生堂ギャラリー( 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階) |
開館時間:火~土 11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00 |
入場料:無料 |
休館日:毎週月曜休(月曜日が祝祭日にあたる場合も休館) |
アクセス:地下鉄銀座駅 A2出口から徒歩4分 地下鉄新橋駅 1番出口から徒歩4分 JR新橋駅 銀座口から徒歩5分 |
詳しくは展覧会HPへ。 |
「shiseido art egg」は、オープン以来100年以上の歴史を誇る資生堂ギャラリーが、新進アーティストに門戸を開く公募制のプログラムです。第16回は岡ともみ、YU SORA(ゆ そら)、佐藤壮馬の3氏が入選し、それぞれの個展が1月から開催されました。今展は締めくくりの佐藤氏の個展です。生命の神秘や自然と人間との関係など、見る人に様々な思いを募らせる神秘的なインスタレーションです。

中山道の宿場町を見守っていたご神木
気鋭のアーティスト、佐藤さんがモチーフにしたのは、岐阜県瑞浪市の神明神社の境内にあったご神木です。中山道47番目の宿場町として栄えた大湫(おおくて)宿のシンボルで、高さ40㍍、根元部分の周りの長さは11㍍という巨木でした。2020年7月11日、大雨の夜に倒木しました。幸い、周囲の民家を避けるように倒れ、ケガ人などはありませんでした。大見出しで伝える地元紙も展示されており、地域に与えた衝撃の大きさを伺わせます。

佐藤さんは留学先のロンドン大学で建築を学び、古い建造物を3Dに記録するプロジェクトなどに携わりました。現在は複製技術を用いてアーカイブされたものを制作に取り入れるなど、モノや空間が持つ時間の流れや関係性を表現することを試みています。ご神木が倒れた、というニュースに触れて、「運命的なものを感じました」と佐藤さんは振り返ります。

佐藤さんは何回も現地を訪問し、地域の人たちと人間関係を作りながらご神木にまつわる思い出なども収集しつつ、3Dスキャンと写真によるデータを取りました。今回の作品はそのデータを元に制作されています。
ギリギリまでそぎ落とされた造形の妙
空間を埋めることは敢えてせず、木の表面の断片が辛うじて「これは木だな」、と想像できる形で配置されています。ギリギリまで削ぎ落された造形が、見る人に自由なイメージを与えてくれます。アーティストのセンスを感じます。

倒れたご神木を映した写真や3Dデータなども展示されています。ご神木は地域の人たちにとってどんな存在だったのか、どんな歴史を見てきたのだろうか、と想像力をかきたてられます。
佐藤さんは倒れたご神木の一部を許可を得て持ち帰りました。そのさい、樹木医の人から、木が傷口などを覆うように成長する「カルス」という作用について教えてもらったそうです。小展示室では、その木片を使った展示を見ることができます。「カルス」を意識することで一層、自然の力やその不思議を感じることができそうです。
自然のエネルギーを感じる場に
木の中に入り込むように見ることもできます。時間の経過とともに、空白の多い空間に、ご神木の太い幹やその中を滔々と流れるエネルギーを感じられるようになるかもしれません。

展覧会のタイトルは、風土に根差した信仰対象が記録され、複製されることでうつろうおもかげ、というイメージが込められています。残されたデータのすき間に、地域の人々の記憶や慣習といった目に見えないものが流れ込み、この空間は、それらと私たちの間で新しい関係性が結ばれる場になります。
佐藤さんは「古代の人が神の存在に感じたものと、同じような感覚がご神木にはあると思います。木の上に立った時、母親に抱きかかえられるような感覚もありました。ご神木が倒れる前と倒れた後を追うことで、見えてくる循環と再生、その背後にある人々の営みを感じてもらえれば」と話していました。
ご神木が倒れたことに、気候変動や地球温暖化を連想することも当然、できるでしょう。それぞれの想像力で、様々な受け止め方のできる「うつろひ」を見にきてみてはいかがでしょう。
佐藤 壮馬プロフィール
1985年北海道生まれ、北海道在住
2011‐12年 ロンドン大学UCL 人文科学ファンデーションコース 近代西洋文学及び芸術史・人文地理学・批判理論 専攻
2012-15年 ロンドン大学UCL バーレット校建築学部建築学科(中途退学)
2020年 第23回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品
2022年 KYOTO STEAM 2022(京都市京セラ美術館、京都)参加
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)