【プレビュー】「Viva! Agri-Culture!… えだまめとラディッシュ」5月12日から東京・渋谷の(PLACE) by methodで

展示予定の《えだまめとラディッシュ(春夏)》の一部、〈ラディッシュうさぎ〉、2023

「美術展ナビ」で内外の話題を幅広く紹介しているキュレーターの嘉納礼奈さんがキュレートする本田正さん(1979-)の初個展「Viva! Agri-Culture!… えだまめとラディッシュ」が5月12日から、東京・渋谷の(PLACE) by methodで開かれます。

福島でラディッシュを収穫する本田正さん

本田さんは福島県須賀川市生まれ。17 歳でサーフィン、26 歳で絵画に目覚め、以後はサーフィン、アート、生業の農業の3つをライフワークとする作家です。

2011 年の東日本大震災の際、津波後の黒い海を見たショックで鬱病となり、病院では発達障害と診断されました。10 代から20 代にかけては仕事が長続きせず、社会に適応できない生きづらさと悩みを抱えながら生きていましたが、農業を始めてからは、気がつくと野菜や果物の絵を描いていました。

展示予定の《えだまめとラディッシュ(春夏)》の一部、〈ラディッシュうさぎ〉、2023

震災直後の海を見て以来、独自の表現を編み出しました。野菜や果物とともに、土、太陽、月の光、水、サーフィンで親しむ波の形などが描かれています。本展では、作家のライフワークである農業(アグリカルチャ―。カルチャーは「耕す」を意味するラテン語に由来)が文化(カルチャー)の語源であることをテーマとし、中でも代表的なおつまみとして親しまれている枝豆とラディッシュにフォーカスした新作が展示されます。

作家本人による展覧会題字

作家が全国5か所(宮城、福島、東京、奈良、福岡)の人々にラディッシュを育ててもらった記録作品も発表します。また、育ててもらった人とのコミュニケーションから触発され創作した大型絵画も展示されます。

嘉納さんによると、これまで障害のある人たちのアートでは、キュレーターが既存の作品を作家や施設から借りて、作家を交えずコンセプトが作られ展示されるケースが多かったと話します。現代美術の個展では、作家が企画に関わるのは当然のことで、話し合いのもとでコンセプトや企画が決められます。本展では、作家の主体性を大事に、アーティストとともに展覧会をつくり上げる努力を重ねました。

嘉納さんは「この約8か月間、ひたすらコミュニケーションを積み重ねました。話し合って決めたことも、次の日や3日後に確認することが欠かせませんでした。急がずに待ちながら、ひたすら聞く、尋ねるということを粘り強く行い、なんとか本田さんの思考、願望、嗜好を口から引き出すことができました」と振り返ります。

本田さんも個展を作家として開催し、コンセプトに沿った新作を作るという新しいことにチャレンジしました。そのなかで、やりたいと思っても、なかなかスムーズにできるものではないと実感しながらも、作品や素材、展示形式の選択から展示資金集めまでを、試行錯誤しながら初めて体験しました。目的なく作るのもいいが、目的があって作るのも面白いと発見できたそうです。

作家もキュレーターも、新しい挑戦をしながらともにつくり上げた、これまでの障害のある人々のアート展とはひと味違った内容に期待が膨らみます。(美術展ナビ編集班・若水浩)

Viva! Agri-Culture!… えだまめとラディッシュ
会場:(PLACE) by method(東京都渋谷区東1-3-1 カミニート #14)
会期:2023年5月12日(金)〜5月21日(日)
休館日:会期中無休
入場無料
詳しくは、https://soup.ableart.org/news/6520/