紬織の人間国宝・志村ふくみさん、洋子さん母子の作品展「五月のウナ電」 銀座で4月23日まで 草木染の着物や帯、高村光太郎の詩を書にしたコラージュも 来月、京都でも

着物や帯、裂など約60点
紬織の人間国宝・志村ふくみさんと、長女で染織家の洋子さんによる草木染の絹織物の展示会「五月のウナ電」が東京都中央区の銀座大黒屋ギャラリーで4月23日まで開かれています。桜の枝や紫根、藍など様々な植物染料で染め、手織りした着物や帯、ストールなどのほか、これまでに染めた裂(きれ)を掛け軸に仕立てたり、額装したりした作品など計約60点が並んでいます。5月19日~21日には、京都市左京区のギャラリー「ものがら」でも開催予定です。

98歳のふくみさんは、民芸運動を提唱した柳宗悦の勧めで染織の道に進み、農村女性の普段着と言われた紬織を「芸術の域に高めた」と評価され、文化勲章も受章しました。故郷の琵琶湖や古典文学、現代美術などに想を得た格調高い織物作品を手がけ、随筆の名手としても知られています。

光太郎の詩をパネル作品に 「人間への警告」と受け止め
今回の展示の見所の一つは、「五月のウナ電」という高村光太郎の詩を志村さんが筆で和紙にしたため、色とりどりの小裂でコラージュのように飾ったパネル作品です。「ウナ電」とは至急電報のことで、新緑の季節、夜空に現れたヘルクレス座が「アヲバ(青葉)ソロッタカ」「ケヤキハ(葉)ヲダセ」「オタマジャクシハアシ(足)ヲダセ」などと万物の「再生」を促す内容です。

植物染料への感謝の念を「草木の命をいただく」と表現するふくみさんは、長年この詩に愛着を持ってきました。娘の洋子さんは、詩の締めくくりが「ニンゲンカイ(人間界)ニカマフナ」であることに注目します。「道程」「智恵子抄」などの作品で知られる光太郎が「五月のウナ電」を発表した1932年は上海事変が起き、戦争の足音が近づくなか社会不安が高まっていました。ふくみさんと洋子さんは「ウナ電」を人間の慢心に対する警告と受け止め、東日本大震災後の福島第一原発事故や、ロシアとウクライナの戦争による環境破壊にも重ね合わせたといいます。「今の社会のことを考えながら、作品を通じて優しさや美しいものの尊さも伝えていきたい」と洋子さんは話しています。

会場に並んだ着物は、桜の枝で染めた淡いベージュに紫紺や藍の方形を絣であしらった「サンモリッツの風」(ふくみさん作)、様々な色合いの藍の格子に白い絣で真珠を表現した「ブルーパール」(洋子さん作)など計9点。

二人が過去に製作した着物の裂をアーチ型の窓のように額装した作品22点は現代風の趣きになっています。入場無料。(読売新聞東京本社編集委員 古沢由紀子)
【開催概要】
会場:銀座大黒屋ギャラリー(東京都中央区銀座5-7-6、銀座大黒屋ビル6・7階)
会期:2023年4月21日(金)~23日(日)11:00~18:00(最終日のみ16:30まで)
アクセス:地下鉄銀座線・日比谷線「銀座」駅A2出口すぐ
銀座大黒屋HP:http://www.ginza-daikokuya.com/about.html
【京都展示】
会場:ものがら(京都市左京区岡崎円勝寺140番地 ポルト・ド・岡崎1階)
会期:2023年5月19日(金)~21日(日)11:00~18:00(最終日のみ16:30まで)
ものがらHP:https://monogara.jp/
問い合わせ:(株)FUKUMI SHIMURA 075-746-3303(代表)