【プレビュー】「生誕110年 佐藤太清展 水の心象」4月29日から、板橋区立美術館で

花鳥画と風景画を融合させた独自の「花鳥風景画」を確立した日本画家の佐藤太清(1913~2004年)が描いた<水>に焦点をあて、作風の移り変わりなどをたどる展覧会が、板橋区立美術館(東京)で4月29日(土、祝)から始まります。その後は、7月1日(土)~8月20日(日)に八幡浜市美術館(愛媛)、9月10日(日)~10月22日(日)に福知山市佐藤太清記念美術館(京都)へ巡回します。
生誕110年 佐藤太清展 水の心象 |
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会場:板橋区立美術館(東京都板橋区赤塚5-34-27) |
会期:2023年4月29日(土、祝)~6月4日(日) |
開館時間:9:30~17:00(入場は16:30まで) |
休館日:月曜日 |
入館料:一般650円、高校・大学生450円、小中学生200円 |
詳しくは、同館HP |
◆佐藤太清について
佐藤太清の故郷である京都府福知山市に流れる由良川は、豊かな恵みをもたらす一方、深刻な水害を発生させる暴れ川としても知られています。絵の道を志し18歳で上京した佐藤太清は、児玉希望の内弟子として日本画の修行を始めますが、後に独自の画風を形成する土台には、このような自然との関わりが影響したと考えられています。
佐藤太清の作品は、花鳥風月を静止した状態で絵画化するという従来の日本画の概念から脱却したものでした。1960年代には、波や夕立、台風など自然の持つ強大なエネルギーを動的に表現しつつ、花や鳥を画面に登場させるなど、その作品群には動と静、生と死など対極のテーマが存在します。
1980年から10年にわたって制作した「旅シリーズ」は気品ある風景の中に生命感あふれる動植物を描いた作品群であり、それらは、従来区分されていた花鳥画と風景画を融合させた新分野の「花鳥風景画」と評価され、1992年に文化勲章を受章します。
最晩年の81歳で描いた大作《雪つばき》(日本芸術院蔵)には、優しい情感をともなった清浄な雪と、その雪の重みに耐えるように咲く大輪の椿が描かれ、今もなお多くの人々の心に残っています。
◆展示構成
第1章 模索の時代
最初期の水の表現は、まださりげなく、雪や海の存在は、群れて騒ぐ鳥や海辺で暮らす人々の生活といった主題を物語るための背景ともいえました。

30歳で新文展へ初入選した《かすみ網》(1943年)には、死にゆく鳥と平穏な空という対極の世界が描かれています。佐藤太清の生涯におけるテーマといえる<水>の様相と<対極>のイメージは、すでにこの時代から現れていました。
第2章 抽象への転換
この時期は、感性や想像力を働かせ、対象を形や色などの造形的に解釈して絵画を制作しました。水辺に映り込んだ光景が、多くの画題に取り上げられています。

《雨の日》(1952年)、《樹》(1956年)、《水芭蕉》(1963年)では、水に映る光景と共にその場に漂う空気の状態を濃厚に表現しています。そこに漂う空気を表現するため、対象物の写実的な描写を極限までそぎ落としました。光景と空気に対する表現の比重を大胆に変化させつつ、実験的な画面構築を行いました。
第3章 自然への呼応

造形的な作品制作を終え、創作の転換期に描かれた作品は、自然の破壊的なエネルギーを題材にしました。《潮騒》(1965年)、《風騒》(1966年)、《洪》(1968年)は、光と闇を効果的に使い、波濤・夕立・台風といった自然界における水の様相を表象しています。

その後《暎》(1969年)、《昏》(1974年)では、水面の光景を多くの色彩を薄く何層にも重ね、豊潤かつ心象的な作品に仕上げました。
《風騒》(1966年)、《緑雨》(1970年)、《雨の天壇》(1979年)では、前章までは克明に描かれていた雨粒が描かれなくなりました。降り具合や寒暖など、自らが体感した現象を色彩に変換して見る側に感知させ、雨粒を描かないで雨の情景を描いたのです。対象物から不必要と思える要素を極限まで除いた、前章での実験的な成果がここに発揮されました。
第4章 水の心象

昭和55年(1980)より開始された〈旅シリーズ〉以降、《旅途》(1988年)、《雨あがり》(1991年)をはじめとし、佐藤太清が研究を重ねた<水>に対する表現手法の結実をここに見ることができます。

なかでも雪に対する表現は、前章の《東大寺暮雪》(1975年)の制作から高く評価され「雪の名手」と称されるに至りました。日展への最後の出品作となった《雪つばき》(1994年)は、真綿のような雪をまとった椿に精神性を与え、雪景色でありながら温かい情動を想起させます。
雪・水・植物・動物。それらを写真であるかのようにそのまま描くのではなく、自分の目指す絵画にとって不要な要素を除き、描きたいと決めた心象を映し込む。写実的な花鳥と心象的な風景という分野の異なる絵画を独自の表象手法で融合させて完成した「花鳥風景画」と、そこに至るまでの過程を、生誕110年という節目の年にたどってみてはいかがでしょうか。(読売新聞美術展ナビ編集班)