東急歌舞伎町タワーは丸ごと先端アートコレクションの美術館! 今ここにある日本の現代文化を生で体験

国内最大級の超高層複合施設 日本最大の繁華街に
歌舞伎町のど真ん中から天に向かって水が吹き上げてそのままビルになってしまったような、巨大ビルが完成しました。ビルの名は「東急歌舞伎町タワー」。地上48階・地下5階・塔屋1階、高さ約225mの国内最大級(※)の超高層複合施設で、4月14日に開業しました。このビルには、2種類のホテルおよび映画館・劇場・ライブホール、レストランやバーなどから構成されていて、1日外に出なくても日本最新のエンターテインメントを満喫できるほどの充実ぶりです。
※=高さ 200m 以上で、ホテルとエンタメ施設(映画館、劇場、ライブホールなど)を含む複合施設における日本国内主要観光都市調査 調査期間:2022 年 3 月((株)ESP 総研 調べ)
そしてこのタワーには、他の複合施設から一線を画す大きな特徴があります。それは、このタワー内で、新宿・歌舞伎町が紡いできた歴史や文化を体験できるアートプロジェクトを展開していることです。参加しているのは全26組の作家で、写真、映像を含む現代アート、音楽、ファッション、書など、多様なカルチャー領域で活躍している方々です。
大半がオリジナルの195作品! 街の歴史を紡ぐ
なんとその作品数は195点!地下から最上階まであらゆるフロアに設置してあるのですが、そのほとんどがコミッションワークだと聞いて驚きました。要するに、このアートプロジェクトのために依頼されたアーティストたちが、オリジナルの作品を制作したのです。建物と一体化した作品には、アーティストたちが今ここで感じた新宿・歌舞伎町のエネルギーや、街の過去・現在・未来の姿がギュギュッと詰まっています。
今回は、この「東急歌舞伎町タワー」の体験を、アート作品を中心にご紹介します。1階と地下フロアから、高層階へと上がっていきます。
エントランスから歌舞伎町らしいエネルギーの炸裂 1F
1階エントランスで出迎えてくれるのは、金地に紫や緑が華やかな横幅10mにも及ぶ絵画です。遠目には琳派の燕子花図を彷彿とさせるのですが、近づくにつれて、激しく叩きつけられた絵の具で描かれたことが分かります。篠原有司男さんが絵筆の代わりにグローブに絵の具を浸しキャンバスをヒットして描いた作品でした。歌舞伎町で制作されたこの作品は町のエネルギーを取り込みながら一気呵成に描きあげられたとのこと。
そして篠原さんは、1960年代に「新宿ホワイトハウス」を拠点に活動した前衛芸術グループのメンバーであったことを知りました。

同じフロアには、森山大道さんの写真がずらり。

半世紀以上にわたり新宿という街に魅せられてきた森山大道さんがとらえた、わい雑と混沌に満ちたエネルギッシュな街、新宿の夜を撮影した作品です。昔も、今も、未来も、歌舞伎町に存在し続けるであろう普遍的な空気感が彼の写真の中に息づいているように感じます。
「土」が語る街の歩み B2F
ちょっと地下2階に位置するバーラウンジに立ち寄ってみました。すると壁一面に描かれていたのは、淺井裕介さんによる泥絵です。


淺井さんが集めてきた日本各地の土に加えて東急歌舞伎町タワーの建設現場や新宿界隈の神社や公園などから採取した土を用い、音楽と地層、水脈をテーマに、生命が育まれ、リズムを持って躍動するイメージが描き出されたとのこと。地層を楽譜に見立てて、土の中にいるアメーバや菌類が音符となって音楽を奏でると言う発想がユニーク。ほろ酔い加減で微生物たちとの対話が始まり、彼らが分解・再生している生命の循環と、その奇跡に改めて思いを馳せるきっかけになるかもしれません。
舞台さながら 床の造形 6~7F
ここからは地上階へと登って行きます。6~7階の劇場フロアにやってくると、ホワイエがすでに劇場状態。床全体が、巨大な手や足跡、鍵などの絵柄が削り出されたSIDECOREの作品です。特に巨大な掌は指紋に重ねて東京の地図やドローイングがコラージュされていて、巨大な地図の上を歩きまわるように作品を鑑賞することができます。作品の床を歩き回る人々が、舞台の登場人物のようでした。

あの「ミラノ座」もモチーフに 銀幕の記憶を語る 9~10F
9~10階は、全席プレミアムシートの豪華な映画館。そして10階には、6500円のクラスSシートで鑑賞すると利用できるPremium Lounge「OVERTURE」があります。映像用35mmフィルムを素材とし、かつてこの地にあった映画館・ミラノ座で使われていたアイテムや、昔の歌舞伎町の記録写真をモチーフにした竹中美幸さんの作品がノスタルジックな想像をかき立てます。新宿の街を展望できるこのラウンジで、ドリンクなどをいただきながら今見たばかりの映画について語り合いたい!デートにもってこいなシチュエーションです。

甲州道中以来、320年の歴史取り込む 17F

17階にある広々としたダイニングバーの吹き抜けの天井を飾るのは、西野逹さんの作品。区役所のスチール棚、紀伊國屋書店で長年使用されていた前川國男デザインのテーブル、二丁目ゲイダンスクラブのキャッシャー台などが、長い間新宿の夜を照らし続けてきた「街灯」によって繋ぎ止められています。新宿で実際に使われていた家具や日常品を使用することにより、江戸時代の宿場開設に始まる約320年前から続く新宿の歴史を取り込んでいるというダイナミックな作品です。海外からもたくさんの人々が集うことになるこのダイニングバーで、国境をまたいだ歴史が紡がれていく予感がします。
ラグジュアリー空間への序幕 18F

17階の賑やかなダイニングバーから階段を上って18階に入ると、そこは粛然としてエレガントなロビーフロア。沢村澄子さんが書いた「いろは歌」の書を背景に、ほっと一息。
客室そのものがアート、そしてその空間を彩るアート 45~47F
お次は、タワー内のラグジュアリーホテル、BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel内にあるアート作品を内覧しました。1泊数十万円から数百万円の客室には、どのようなアートが飾ってあるのでしょうか。
45~47階を占有するペントハウススタイルの客室は、新宿御苑やスカイツリーなどが一望できる天空の豪邸でした。まず目に入ったのは森山大道さんの写真。新宿の夜にそびえ立つ都庁らしき建物から怪しげな都市のエネルギーを感じます。健全なだけではない歌舞伎町の夜の魅力を感じながらこのなペントハウスで過ごすのはどんな方々なのでしょう。


天空に浮いているような丸いバスタブがシュールです。
47階のSPAには、先ほども登場した沢村澄子さんの書が飾ってあり、心がスッと静まります。

ペントハウスの一室からは、新宿の大都会に沈んでいく太陽の神々しい姿がはっきりと見えました。こんな、ハリウッドが作った日本の映画みたいなシーンが自然に展開されるのを見たのは初めてです。

ペントハウスのラウンジは、青木野枝さんの作品が、大きな窓から差し込む光にバリエーションを加えて届けてくれる空間です。さまざまに形を変えるかけがえのない存在である「水」が空近くで昇華し、光と融合するイメージが鉄とガラスで形作られているとのこと。

自然と技巧の絶妙の調和 45F
そして、45階のレストランで展開されていた驚くべき光景はこちら。

「大巻伸嗣さんの作品が天井に宇宙の光景を映し出してる!」と思った瞬間に外へ目を向けると、先ほどペントハウスから見た夕日が大都会の上に漂っていました。作品と自然が阿吽の呼吸でシンクロしているこの光景には思わず息を飲みました。大巻さんの作品は、もともとリズムを持った時間の流れや、空気や重力も含めた空間の存在を感じさせてくれるものですが、ここでは自然の力も借りて、さらにパワーアップしているようです。
「街の音の記憶」もアートに 35F
さて、東急歌舞伎町タワーには、HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotelというもう一つのホテルが入っています。こちらでは、開発好明さん、玉山拓郎さん、鷲尾友公さんがコラボレーションをしたアートルーム「GROOVE ROOM」を公開。3作家×3部屋の全9部屋は、新宿・歌舞伎町の街や文化をテーマにしたコンセプトルームです。
特にインパクトの大きかったアートルームはこちらです。開発好明さんのお部屋ですが、本物のカセットテープで埋め尽くされています。

新宿の街の音などを含む様々な音源のカセットテープ2000本が壁に設置され、ラジカセで音を楽しむ場所。部屋で過去の新宿の音を聞くと、窓からは今の聞こえるという風に、重層的に新宿を体感できるそうです。忘れられない一夜になりそうですね。
「街の人々、歴史を映し出すアートに」
東急歌舞伎町タワーを、アート作品を中心に巡ってみましたが、コレクションの一部をテンポよく見ただけでも1時間半ほどかかりました。新宿・歌舞伎町をテーマに多種多様な作品が深みのあるストーリーと共に展開していく様子は、一流美術館の企画展のように素晴らしいものでした。監修は、愛知県美術館館長の拝戸雅彦さんと現代美術ギャラリーのANOMALYです。
拝戸さんの次のコメントから、やはりこのタワーは「新しいタイプのミュージアム」なのだなと実感しました。
「アート作品を設置するにあたって考えたのは、街に溢れかえる色や光と、アートも含めて時代に敏感で活発的、でも時に感傷的でヒューマニックな人々歴史を映し出したものにする、ということでした。その一方で、地上から天空に向けて舞い上がる鳥のような視点をも体験できるような場所になっています」
タワーを出ると、歌舞伎町はすっかり夜の顔になっていました。
老若男女入り混じり、海外からの客足も戻ってきているようです。
東急歌舞伎町タワーのオープンとともに、新しい歌舞伎町の幕開けを感じました。(ライター・菊池麻衣子)
【施設概要】
名称:東急歌舞伎町タワー
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1-29-11
⽤途:ホテル、劇場、映画館、店舗、駐⾞場など
敷地⾯積:4,603.74㎡
建築⾯積:約3,600㎡
延床⾯積:約87,400㎡
階数:地上48階、地下5階、塔屋1階
⾼さ:約225m
設計者:久⽶設計・東急設計コンサルタント設計共同企業体
外装デザイン:永⼭祐⼦建築設計
企画・プロデュース:株式会社POD
施⼯者:清⽔・東急建設共同企業体
竣⼯:2023年1⽉11⽇
開業:2023年4月14日
公式サイト:https://www.tokyu-kabukicho-tower.jp/