「没後10年 映画監督 大島渚」 巨匠の苛烈かつ誠実な歩みを追体験 国立映画アーカイブで8月6日まで

没後10年 映画監督 大島渚 |
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会期:2023年4月11日(火)〜8月6日(日) |
会場:国立映画アーカイブ展示室(7階)(東京都中央区京橋3-7-6) |
アクセス:東京メトロ銀座線京橋駅出口1から昭和通り方向へ徒歩1分 都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から中央通り方向へ徒歩1分 東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅出口7より徒歩5分 JR東京駅下車、八重洲南口より徒歩10分 |
開室時間:午前11時-午後6時30分(入室は午後6時まで) *4月28日、5月26日、6月30日、7月28日の金曜日は開室時間を午後8時まで延長。(入室は午後7時30分まで) |
休室日:月曜日および5月30日(火)~6月1日(木) |
観覧料:一般250円/大学生130円/65歳以上、高校生以下および18歳未満、障害者(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズは無料 |
主催:国立映画アーカイブ |
特別協力:㈱大島渚プロダクション |
監修:樋口尚文 |
詳細は国立映画アーカイブホームページへ |
世界的映画監督、大島渚(1932‐2013)の没後10年を記念する展覧会です。その作品は絶えず社会を刺激し、問題を提起し、常識を破り続けました。大島監督が自ら遺した膨大な資料を明るみにした大著『大島渚全映画秘蔵資料集成』(2021年)の編著者、樋口尚文氏が監修にあたり、監督の歩みが分かりやすく整理されて紹介されています。
語録の数々
大島監督といえば、テレビ番組のコメンテーターとして歯に衣着せぬ発言で話題になり、この方面の活躍で記憶している方も少なくないでしょう。会場には様々な発言や著述からの引用が掲示され、鋭い知性と社会や権力に媚びることとない苛烈なキャラクターが思い起こされます。


『愛のコリーダ』の舞台裏で
日本はもとより、世界にセンセーションを巻き起こした『愛のコリーダ』(1976)は大島監督の代表作のひとつ。赤裸々な性描写で論争を巻き起こしました。

詳細な帳簿や資料が残されています。捜査当局による摘発を念頭に置いて当初から制作に入っており、別件で司直の手にかかることのないよう、契約や金銭管理は厳重に行っていたそうです。豪快なようでいて、常に緻密に作品作りを進めていたことが伺わせます。

フランスで行われた編集作業でカットされたフィルムが、箱一杯に収められています。警察の摘発を予想した監督は、押収されることを防ぐためこの箱ごとある知人に託したそうです。
『戦場のメリークリスマス』様々に
故デヴィッド・ボウイ氏、ビートたけし氏、そして先日なくなった坂本龍一氏らが出演、大いに話題を呼んだ『戦場のメリークリスマス』(1983年)。この作品の資料も豊富です。

大島監督が全幅の信頼を置いていたのが美術監督の戸田重昌氏(1928‐1987)。『戦場のメリークリスマス』のあの独特な捕虜収容所など、大島監督の求める作品世界を巧みにリアル化しました。ほとんどこれまで仕事ぶりが明らかにされたことがない戸田氏の資料も注目です。

会場ではロケ地や和気あいあいとした出演者たちの表情を収めたスナップなども展示しています。また同作は幅広い世代から受け入れられ、「戦メリ少女」というネーミングも生まれるほど熱心な若い女性ファンを生み出しました。大島監督はそうした若い世代からのファンレターも大切に保管しており、文面を読むこともできます。ファンに対して誠実に向き合っていた監督の人柄に触れた気がしました。
世界的な名声、生涯通じた創作の歩み
懐かしい作品のポスターもたくさん見られます。海外で上映された際のポスターもあり、大島監督作品の受容の広がりを実感できます。一方で、その手掛けた映画作品は27作(監督作品)と、意外と少ないように見えます。

『日本の黒幕(フィクサー)』、『ハリウッド・ゼン』など頓挫した大型企画の数々も紹介されています。資金面などで苦闘、1996年には脳出血を患い、その後のカムバック作『御法度』(1999年)が遺作になりました。晩年まで衰えることのなかった監督の創作への意欲も実感できます。
大島作品を一挙上映
同展とあわせて、国立映画アーカイブ小ホールでは企画上映「没後10年 映画監督 大島渚」も開催中。5月28日(日)まで。『青春残酷物語』(1960)、『日本の夜と霧』(1960)、『絞死刑』(1968)、『少年』(1969)、『儀式』(1971)といった問題作。そして『愛のコリーダ』、『戦場のメリークリスマス』といった大作や、長篇デビュー以前に松竹撮影所で手がけた短篇『明日の太陽』、脚本を担当した『月見草』や『どんと行こうぜ』(いずれも1959年)も取り上げます。また唯一の連続テレビドラマ『アジアの曙』(1964~1965)も紹介されます。詳しくは同アーカイブのホームページ(https://www.nfaj.go.jp/exhibition/oshima202303/)をご覧ください。

(美術展ナビ編集班 岡部匡志)