【レビュー】「建物公開2023 邸宅の記憶」東京都庭園美術館で6月4日まで アール・デコの邸宅は朝香宮ご夫妻こだわりの結晶

アール・デコの粋を集めた大客室

建物公開2023 邸宅の記憶
会場:東京都庭園美術館(港区白金台5-21-9)
会期:2023年4月1日(土)~6月4日(日)
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
アクセス:JR山手線「目黒駅」東口/東急目黒線「目黒駅」正面口より徒歩7分
都営三田線・東京メトロ南北線「白金台駅」1番出口より徒歩6分
入館料:一般 1,000円/大学生800円/中・高校生および65歳以上500円
問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)
オンラインによる日時指定制。
詳しくは(https://www.teien-art-museum.ne.jp/

アール・デコ様式の重要文化財の旧朝香宮家本邸

現在、東京都庭園美術館として使用されている本館の建物は、朝香宮家本邸として1933年(昭和8年)に竣工しました。戦後、朝香宮家の皇室離脱にともない政府に借り上げられ、吉田茂外相・首相の公邸などとして使われ、1983年に東京都庭園美術館として一般公開が始まりました。建物はアール・デコ様式の貴重な建築として、国内外から高く評価され、2015年には国の重要文化財に指定されています。

庭園から見た本館

恒例の年に一度の建物公開展、今回は朝香宮家の人々に焦点を当て、当時の家具や調度を展示し、残された写真や工芸品、調度品、衣装など当時の生活が垣間見える展示となっています。

朝香宮ご夫妻の芸術への熱意

アール・デコとは、フランス語のアール・デコラティフ「装飾美術」という言葉に由来します。主として建築と工芸とファッションのスタイルを指し、ジグザグ線や放射線、流線形、円弧模様の組み合わせとをメインに、幾何学的かつ対照的な模様が特徴とされています。

朝香宮ご夫妻がパリ滞在中(1923~1925年)はアール・デコの全盛期で、ご夫妻は1925年に開催されたアール・デコ博覧会も訪れています。その様式美に魅せられ、帰国後に、ここ白金台の地に新邸を建築する際に、フランス人芸術家アンリ・ラパンに主要な部屋の設計を依頼、ルネ・ラリックやレイモン・シュブの作品も採用するなど、アール・デコを積極的に取り入れました。

また、建築を担当した宮内省内匠寮たくみりょうの技師、権藤要吉も西洋の近代建築を熱心に研究して取り組み、朝香宮邸(現・東京都庭園美術館本館)は、朝香宮ご夫妻の熱意と、日仏のデザイナー、技師、職人が総力を挙げて作り上げた芸術作品の建築物となったのです。

正面玄関を入ると、ルネ・ラリックのガラスレリーフ扉が迎えてくれます。こちらは朝香宮邸のためにデザインされた一点もので、非常に貴重な作品です。その周りの壁は大理石、床は天然石のモザイクと宮邸にふさわしく優雅で高貴な雰囲気を醸し出しています。

小袖 紅縮緬地菊尾長鳥の丸文様刺繍 明治時代 青梅きもの博物館蔵

玄関を入ると、大広間です。40個の天井照明にウォールナット材の壁面、宮家のお客様をお迎えするのにふさわしく落ち着いた雰囲気です。正面に朝香宮允子のぶこ妃が結婚前に着用した夏物の小袖が展示されています。小袖は普段着的なものですが、允子妃は明治天皇の第8皇女ですので、大変手の込んだ立派なものです。透け感のある生地の地紋はなでしこ(夏の代表的な模様)、尾長鳥に菊や藤など手の込んだ刺繍が鮮やかです。夏着物ですから裏地はついていませんが、刺繍の裏側の処理が大変きれいで感嘆しました。

大客室から次室の香水塔を見る

大広間の左手に大客室、大食堂、次室などがあります。次室には庭園美術館の象徴とも言えるアンリ・ラパンがデザインし、フランス国立セーブル製陶所が制作した「香水塔」が置かれています。続く大客室と大食堂には南面に庭園を望み、邸内で最もアール・デコの粋が集められています。

大食堂

大客室のシャンデリアはルネ・ラリック、壁面上部の壁画はアンリ・ラパン、扉のエッチング・ガラスはマックス・アングラン作です。大食堂の照明もルネ・ラリックの《パイナップルとザクロ》、壁のレリーフはレオン・ブランショがデザインしたものです。部屋の中央にこのレプリカが置かれ自由に触れます。南面は円形に張り出す窓で大変明るく開放的な空間です。暖炉も凝ったものですので是非ご注目を。

大食堂の暖炉の上の壁面はアンリ・ラパンの油彩

またラジエーターカバーと照明は部屋ごとに異なりますので、ぜひじっくりとご覧ください。

ラジエーターカバー
一つひとつが芸術品のような照明

2階は落ち着きのあるプライベート・スペース

趣のあるアール・デコ調の階段を上ると、宮家の人々の居間や寝室、書斎、ベランダとプライベートな空間となっています。

殿下の書斎

殿下の書斎の机と椅子、妃殿下の居間の暖炉とその上の大きな鏡、姫宮居間の家具などどれをとっても細工が細かくハイセンスなもので、両殿下の建築時の想いの深さを感じます。

姫宮の居間

残念なことに允子妃殿下は、朝香宮邸竣工直後に体調を崩し半年ほどで亡くなりました。庭園美術館になった今でも、妃殿下の想いはこの邸内にずっと生き続けているように感じました。

妃殿下のアルバムや絵葉書

普段閉まっているカーテンが開けられ、庭園の新緑とアール・デコの内装の調和が大変美しいです。

また、3階のウィンターガーデンも期間限定で公開されています。朝香宮ご一家の当時の生活を偲びながら、館内を鑑賞するのはとてもノスタルジックなひとときになるでしょう。そして、館内どこをとってもパーツ一つに至るまで非常にこだわり抜いたものであることに感動します。

新館ではボンボニエールの展示

新館ギャラリー1の展示風景

新館では明治から慶事の際の引き出物として使われ、皇室独自の文化として発展したボンボニエールのコレクション300点以上が展示されています。数の多さとその意匠の素晴らしさに目を見張ります!

上皇陛下御誕生記念の犬張子形のボンボニエール
ずらりと並ぶボンボニエールは圧巻

建物公開の期間中、本館内は写真撮影が可能です。新緑の美しいこの季節、庭園を散策するのも気持ちいいです。ぜひお出かけくださいね。(ライター akemi)

◇参考文献 東京都庭園美術館編『旧朝香宮邸のアール・デコ』(東京都庭園美術館刊、2014年)、東京都庭園美術館編『旧朝香宮邸物語』(アートダイバー刊、2018年)

◇akemi きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。
展覧会に合わせたコーディネート。きものも帯も流水模様ですが、シンプルかつ幾何学的で、アール・デコに通ずるものあります。