産前産後ケアセンターに流麻二果さんの作品 「生命の躍動とママの安らぎを願い」 武蔵小杉にオープンの新施設

「色彩の画家」で知られる流麻二果さんの新作11点が、新しい命を迎えたばかりのママと家族のサポートを目的に、4月にオープンした産前産後ケアセンター「Vitalité House(ヴィタリテハウス)」(川崎市・武蔵小杉)に展示されました。

JRや東急が乗り入れ、周囲には高層マンションが立ち並ぶ一大ターミナルの武蔵小杉駅から徒歩7分ほど。「Vitalité House」はママと家族が安心して育児のスタートができるよう、住環境や食事にもこだわった宿泊施設です。施設を立ち上げた一般社団法人クレイドル理事、鶴野ゆかさんは「私は高齢出産で、自分自身の出産は幸せな体験だった半面、社会的には産後の心身の不安定やストレスが原因で様々なトラブルが起きていることに胸を痛めていました。そこでクオリティの高い環境とサービスを提供する空間を作りたいと考えました」と設立の動機を語ります。



もともとニューヨークや東京を拠点にギャラリストとして活動していた鶴野さんは「居心地の良い空間作りにはアートが不可欠」と考え、長年仕事で協働してきたアーティストの流さんに新作の制作を依頼しました。
流さんは「展覧会に出品する作品であれば、色々な反応があって当然という気持ちで制作に取り組みますが、こうした性格の施設ですから、やはりママたちみんなにホッとしてもらえるものにしたい、とかなり考えました。赤ちゃんはもちろん記憶には残らないですが、赤ちゃんが初めて接するアートにもなるわけですから、そういう意味でも責任の大きい仕事でした」と言います。

エントランスに設置。優しい色遣いのバランスに心休まります

エントランスから進んだ突き当りに。力強い印象を残す一作。赤ちゃんの元気いっぱいの泣き声が聞こえてきそう

ママたちが食事をしたり寛いだりできるリビングルームに設置
施設のパブリックスペースには『育む』『トツ』『ニクヅキ』の3作。流さんは「『育』という文字の形は、頭を下にして生まれてくる子どもの姿『トツ』と、肉付きよく育つという意味の月『ニクヅキ』が由来になっています。その2つの形と意味が合わさった『育』は、子どもが無事に生まれ、肥立ちよく育つことを意味します」と作品の狙いを説明してくれました。
施設の立地も作品作りの方向性に影響を与えています。この「Vitalité House」の横には、江戸時代に農業用水として作られた「二ヶ領用水」が今も流れています。Vitalité Houseが入る複合施設「KOSUGI iHUG」には野菜や果物を育てるスペースもあり、この土地の歴史を呼び起こす役割も与えられています。

流さんは「もともと豊かな農業が栄えた場所で、新しい命が集うことになります。誕生の躍動が集合する、という文脈も今回制作した作品にはあります」と話してくれました。
流さんの作品はこのほか7つの各居室とクリニックにも一つずつ、計8作品が展示されています。



『寝る』『見る』『掴む』『笑う』『座る』『立つ』『歩く』『話す』というタイトルが付けられています。赤ちゃんが育っていく過程で得る新しい経験が、一つ一つの絵になっています。
鶴野さんは「流さんの作品を前提に、施設の構想を考えたほどだったので、センターを生命力(Vitalité )にあふれる美しい空間に仕上げてくださった流さんには心から感謝しています」と感無量の様子。一方、流さんは「この場でアートに触れたことがきっかけになって、家族で展覧会に来ていただけるようになったら素晴らしいですね。こういう条件が与えられると、かえって普段の自分では出て来ないようなアイデアが沸き上がってくることもあり、アーティスト活動の上でもよい刺激になりました」と振り返っていました。
【施設概要】
施設名:Vitalité House(ヴィタリテハウス)
住所:〒211-0063 川崎市中原区小杉町3-24-10
KOSUHI iHUG ウエルネスリビング棟2F
ホームページ:https://vitalitehouse.com/
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)
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