【プレビュー】「『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容ー瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄」6月3日(土)から富山県美術館で

富山県美術館で6月3日に開幕する「『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容ー瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄」展では、富山県出身の詩人で美術評論家の瀧口修造(1903-79)の思想を受け、脈々と引き継がれた前衛写真の精神とその魅力を、4 人の作品や資料を中心に、マン・レイ、ウジェーヌ・アジェら関連作家の作品を加えて紹介されます。


日本における前衛写真は、シュルレアリスムと抽象主義の影響を受け、1930 年代に台頭してきました。瀧口は、その推進に大きく寄与しましたが、写真の記録性を重視し、故意に実在を破壊、加工する技巧的表現に偏重しつつあった傾向に早くから警鐘を鳴らしました。画面構成についての演出や、ぼかしや合成といった技巧を用いることなく、見たままあるがままの風景や人物などを撮影した「ストレートフォトグラフィ」でもシュルレアリスム的な表現が可能であると主張しました。

瀧口とともに 1938 年に「前衛写真協会」を立ち上げた阿部展也(1913-71)は、ともに『フォトタイムス』誌などに作品や評論を発表し、精力的な活動を展開しました。この表紙に写っている物は、造られたのか拾ってきたのか、意図も用途も分からない不思議な物です。こうした「オブジェ」の精神を表現するのに写真が最適であるとした瀧口の主張を、阿部は強烈なインパクトの写真で見事に体現しました。

その頃中学生だった大辻清司(1923-2001)は、瀧口や阿部に多大な影響を受けて写真家を志します。そして、50 年代から造型的な写真を発表しますが、やがてオートマティスムの手法を採用したスナップショット的な「なんでもない写真」へと変化していきました。

その大辻に見出され、写真の才能を見事に開花させたのが、牛腸茂雄(1946-83)です。牛腸は日常における「自己と他者」をみつめ、技巧に凝らず誇張なしに撮影した「コンポラ写真」の代表的な 1 人として注目されました。

こちらの写真は、こわばった顔をした双子の姉妹から見つめられているような、不思議な感覚に魂が揺さぶられます。カメラの手前の牛腸と、向こう側にいる姉妹の感情の交叉を想像すると、「自己と他者」というテーマが強烈に迫ってきます。何気ない日常を、誇張や強調をせずありのままの姿で撮る「コンポラ写真」の代表的存在の 1 人とされる牛腸の代表作の ひとつです。
瀧口修造に連なる「前衛写真」の歴史を振り返ることができる貴重な機会となりそうです。(美術展ナビ編集班)
富山新聞創刊 100 年記念 『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容 ―瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄 |
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会場:富山県美術館(富山市木場町3-20) |
会期:2023年6月3日 (土)~ 7月17日 (月・祝) ※前期は6月27日(火)まで、後期は6月29日(木)から。前期と後期で展示替えあり |
休館日:毎週水曜日 |
開館時間:9:30-18:00(入館は17:30まで) |
観覧料:一般 900円(前売り一般700円、販売は6月2日まで) 、大学生 450円、中高生以下無料 |
詳しくは同館HP |