【開幕】「TOPコレクション セレンディピティ 日常のなかの予期せぬ素敵な発見」東京都写真美術館で7月9日(日)まで

奈良美智《LA Dog(left);NY Girl (right)》<days 2003-2012>より 作家蔵

東京都写真美術館で4月7日に開幕する「TOPコレクション セレンディピティ 日常のなかの予期せぬ素敵な発見」のプレス内覧会にうかがいました。

セレンディピティとは、英国の文筆家、ホレス・ウォルポールによって作られた言葉で、「偶然と才気によって、探してもいなかったものを発見すること」という意味だそうです。

武内厚子学芸員は、コロナ禍で不要な外出の自粛が呼びかけられたことから、美術館に出かけるのにも<学び>などの目的が求められるような風潮が強まったと言います。しかし、美術館に行くことは、純粋に楽しみや癒しのためであってもいいのです。そんな原点に返って、37,000点以上に及ぶ収蔵作品からセレンディピティをキーワードに作品が選ばれました。

北井一夫《紙屑が3個》<ライカで散歩>より 2008年

入口からすぐのところに飾られた3枚の写真には、何か紙で作った鳥のようなものが写っています。しかし、タイトルを見ると《紙屑が3個》。美術館の壁にかかっているのだから、何か芸術的な素晴らしいものが写っているのだろうという先入観が見事に裏切られます。

相川勝<landscape>より 2019年

こちらは砂浜の写真です。よく見ると遠くの風景が絵のようにも見えます。これはテレビゲームのなかの風景を、プロジェクターの光で投影して印画しているそうです。風景写真なのに家の中で写しているのです。

本城直季《東京 日本 2005》<small planet>より 2005年

本城直季さんのプールの写真は、あちこちがぼやけていて、人もおもちゃのように見えます。ミニチュアを写したように見えますが、建物の上の方からプールを見おろして実際に撮った風景写真だそうです。この2作を比べると、何がリアルで、何がフィクションなのか、その境目が分からなくなり、不思議な感覚に襲われますね。

齋藤陽道《感動》2011年

齋藤陽道さんの《感動》は、写真集の121枚の写真を左上から順に縦に並べました。作品の前には芝生のような空間を作って、座りながらゆっくりと眺められるようになっています。写真集だと多くても見開きの2ページしか目に入りませんが、この展示では写真集の作品全部を一度に見ることもできます。これは美術館という空間でなければ体験できません。

鈴木のぞみ《柿の木荘2階 東の窓》<Other Days, Other Eyes>より 2016年

鈴木のぞみさんの《柿の木荘2階 東の窓》は、古い住宅の窓ガラスに、そこから見えたであろう景色を焼き付けています。ガラスには模様があって、少しぼやけた感じに懐かしさも覚えます。

奈良美智《LA Dog (left);NY Girl (right)》<days 2003-2012>より 作家蔵

画家で彫刻家の奈良美智さんは、写真を撮る理由を「その時感じた気持ちを思い出すための『記憶の栞』」であり「後でそれを見ながら自分の感性チェックをする」ためと言います。被写体も時間も場所も全く違った2枚の写真を並べた作品ですが、どこか共通点も感じられ、奈良さんがどんなことを考えていたのかを想像すると楽しくなります。

美術館ならではの、いくつもの発見と新鮮な刺激に満ちた写真展です。ぜひ足を運んで体験してみてください。(読売新聞美術展ナビ編集班・若水浩)

※所蔵の記載のない作品は、すべて東京都写真美術館蔵

TOPコレクション セレンディピティ 日常のなかの予期せぬ素敵な発見
会場:東京都写真美術館 3F展示室(恵比寿ガーデンプレイス内)
会期:2023年4月7日 (金)~ 2023年7月9日 (日)
休館日:毎週月曜日 (ただし5/1は開館)
開館時間:10:00-18:00(木・金は 20:00まで) 入館は閉館 30分前まで
観覧料:一般 700円 、学生 560円、中高生・ 65歳以上 350円
※オンラインによる日時指定予約推奨
詳しくは(http://www.topmuseum.jp/)へ。

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