【プレビュー】「麻生三郎展 三軒茶屋の頃、そしてベン・シャーン」世田谷美術館で4月22日から

麻生三郎《子供》1948年 個人蔵

麻生三郎展 三軒茶屋の頃、そしてベン・シャーン
会場:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2
会期:2023年4月22日(土)〜6月18日(日)
休館日:毎週月曜日、ただし5月1日(月・祝)は開館
開館時間:10:00〜18:00(最終入館時間 17:30)
観覧料:一般1,200円、65歳以上1,000円、大高生800円、中小生500円
詳しくは世田谷美術館公式サイトへ。

4月22日に世田谷美術館で開幕する「麻生三郎展 三軒茶屋の頃、そしてベン・シャーン」では、現代の人間像を鋭く見つめ、戦後美術に確かな足跡を残した画家・麻生三郎(1913-2000)が、世田谷区三軒茶屋に住んだ1948年から1972年までの約25年間に焦点を当て、この時期の代表作となる《ひとり》、《赤い空》をはじめ油彩、素描合わせて約110点が展示されます。このほか、同時代の文学者との交流や、自ら蒐集した20世紀アメリカを代表する社会派の画家ベン・シャーン(1898-1969)の作品群なども紹介されます。

麻生三郎《ひとり》1951年 個人蔵
麻生三郎《赤い空》1955年 東京国立近代美術館蔵

戦争末期の空襲で豊島区長崎のアトリエを失った麻生は、1948年に三軒茶屋にアトリエを構えました。この再出発の地で、《ひとり》や1950年代半ばにくり返し描かれた《赤い空》など、戦後復興期の代表作が生まれました。

麻生三郎《人》1958年 神奈川県立近代美術館蔵
麻生三郎《少女像》1960年 茨城県近代美術館蔵

1960年代には、安保闘争やベトナム戦争といった社会問題に、作品を描くことで向き合い、個の尊厳をきびしく問います。一方、虫や小鳥など、身近なものにも澄んだまなざしを向けました。しかし、首都高速道路や地下鉄の建設工事で制作環境が悪化し、1972年、麻生は川崎市多摩区生田へと転居しました。

麻生三郎《三軒茶屋》1959年 神奈川県立近代美術館蔵
麻生三郎《三軒茶屋》1963年 世田谷美術館蔵

麻生は三軒茶屋について次のような言葉を残しています。

――北側の仕事場の窓をあけると道路があって川が流れていて
その向こうに細い道がずっとすこし登り坂になって見えた。
わたしはこの細い道をその周囲の家をながいあいだ描きつづけてきた。
(麻生三郎「川の向こうの道に住む人たち」『絵そして人、時』中央公論美術出版、1986年より)

――人と家、土、空、川と、

つまりはどこにもある人の住んでくらしている街、
ちいさい路地の一角、石のすきまから出ている雑草のかたまりでもいいのだ。
そのままある自然のかたちで満足して仕事をつづけた。

(麻生三郎「川のある家」『芸術新潮』1976年10月号より)

麻生三郎 椎名麟三著「永遠なる序章」『日本の文学 68 椎名麟三、梅崎春生』(中央公論社、1968年)挿絵原画 神奈川県立近代美術館蔵
『お手帳』(蓬莱屋印刷所、左上から1957年~59年、1962~63年、1966~69年、1972~74年) 表紙画:麻生三郎 神奈川県立近代美術館蔵

野間宏、椎名麟三など同時代の文学者たちとの交流を示す挿絵や装丁の仕事のほか、あたたかみのあるユーモラスなタッチで干支を描いた手帳の表紙など、油彩とは一味違った作品も残しました。

また、麻生が蒐集した20世紀アメリカを代表する社会派の画家ベン・シャーン(1898-1969)の作品群や、1950年に雑誌『美術手帖』の特集で写真家・土門拳が撮影した麻生のアトリエ写真が、初公開となる未掲載カットも含めて紹介されます。

アトリエの麻生三郎 1967年

麻生の生誕110年にあたる今年。現実と対峙しつつ自らの内面を深く見つめ、そこから浮かび上がる人間のいる風景を一貫して描いた画家の多彩な仕事を改めて振り返ってみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ編集班)