【学芸員に聞く・前編】「開館20周年記念展 ジョルジュ・ルオー ― かたち、色、ハーモニー ― 」パナソニック汐留美術館で4月8日から 見どころは? ルオーが目指した表現とは?

パナソニック汐留美術館で4月8日(土)から6月25日(日)まで「開館20周年記念展 ジョルジュ・ルオー ― かたち、色、ハーモニー ―」 が開催されます。

本展を担当した同館学芸員・古賀暁子こがあきこさんに、見どころをインタビューしましたので、前後編2回に分けてお届けします。

(聞き手 ライター・齋藤久嗣)

ルオーの初期から晩年までの秀作が一堂に

――本展は、休館明けに開催される最初の展覧会です。いわば記念碑的な展覧会で、ルオー(1871~1958年)の回顧展を選んだ経緯を教えてください。

学芸員の古賀暁子さん

当館は開館以来、ルオー作品の収集を継続して行っており、2023年3月現在で260点所蔵しています。また、ルオーの遺族が運営する「ルオー財団」とも10年前から提携し、様々なテーマでルオー展を企画・開催してきました。そして今年の4月、当館はちょうど開館20周年を迎えます。その記念展として、大規模なルオー展をやりましょうということで、開館以来2回目の回顧展を企画しました。

――さっそく、本展の見どころを教えてください。

本展では、当館所蔵作品を核として、絵画・資料を含めて国内外の美術館から集まった約70点を展示します。ルオーの初期から晩年までの代表作が集まるなかで、特に注目していただきたいのがポンピドゥー・センターから選りすぐった13点もの傑作が来日することです。なかには日本初公開の作品もあります。

ジョルジュ・ルオー《かわいい魔術使いの女》1949年 油彩 ポンピドゥー・センター、パリ/国立近代美術館 Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Bertrand Prévost / distributed by AMF

また、戦争期に描かれた重要作も本展の見どころです。たとえば《ホモ・ホミニ・ルプス(人は人にとりて狼なり)》は第二次世界大戦中から描き始めて、数年がかりで完成したルオーの代表作のひとつです。

ジョルジュ・ルオー《ホモ・ホミニ・ルプス(人は人にとりて狼なり)》1944-1948年 油彩 ポンピドゥー・センター、パリ/国立近代美術館 Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / image Centre Pompidou, MNAM-CCI / distributed by AMF

ーー戦争から大きく影響を受けて作風が変わる画家は数多くいます。ルオーも同様だったのでしょうか?

ジョルジュ・ルオー《深き淵より》 1946年 油彩 ポンピドゥー・センター、パリ/国立近代美術館 Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / image Centre Pompidou, MNAM-CCI / distributed by AMF 本作は、ルオーが白黒の版画集『ミセレーレ』の第47図を、第二次世界大戦後に再び油絵として描いた作品。

はい。キリスト教徒だったルオーは、戦前はサロンを意識した作品や、サーカスや裁判官など身近なテーマを多く描いていました。しかし、第一次世界大戦で悲惨な状況を目の当たりにして、戦争の苦しみ、悲惨さ、人間の愚かさを描き出すようになります。たとえば、第一次世界大戦を機に描き始めた「ミセレーレ」という版画集は、敢えて白黒の画面を使うことで、感情に訴えかける作品となっています。本展で約10点を展示しますので、ぜひご覧ください。

――ボンピドゥー・センターは、戦争期に描かれた作品をはじめ、ルオーの秀作を多数所蔵しているのですね。

ルオーは生前、戦時期に描いた《ホモ・ホミニ・ルプス(人は人にとりて狼なり)》や「ミセレーレ」の原画版などを国に寄贈し、さらにルオーの死後は、遺族がアトリエに残っていた作品の大部分を国に寄贈しました。その結果、フランスはルオーの作品を多数所蔵することになり、その主要な作品群がフランスで近代以降の作品を所蔵するポンピドゥー・センターのコレクションとなりました。

「かたち、色、ハーモニー」とは?

――サブタイトルの「かたち、色、ハーモニー」には、どんな意味が込められているのでしょう。

実はこれ、ルオー自身の言葉なんです。1924年、新聞のインタビュー記事で初めて登場して以来、自身の著作で繰り返し用いられています。

簡単に言うと、「かたち、色、ハーモニー」とは、彼にとって理想の装飾芸術を目指すうえでのモットーです。ルオーは、伝統的な技法に基づいた写実的な絵画を離れ、独自の芸術スタイルを模索していきます。様式を確立するまで、エコール・デ・ボザール(パリにある国立美術学校)での師匠だったギュスターヴ・モローの教えをベースに、セザンヌの装飾的な画面構成からも大きな影響を受けています。それが顕著にわかるのが、《セザンヌへのオマージュ(ロザンヌの泉)》という作品ですね。

ジョルジュ・ルオー《セザンヌへのオマージュ(セザンヌの泉)》
1938年 油彩 なかた美術館 © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 E5037 
セザンヌへのオマージュとして、画家ゆかりのエクス=アン=プロヴァンスに噴水を建造するプロジェクトに関わったルオーは、噴水のデザインを考案して油絵に描いた。

――ルオーが目指した「装飾芸術」とは、どのような絵画でしょう?

もののかたちを平面的にとらえながら、実際に見えた色彩や解剖学的なデッサンとは少し違う、画家の内面でとらえた色彩や形態、構図で表現した絵画です。そしてルオーは、かたちと色を組み合わせ、調和させることも目指しました。鑑賞する際は、色と色、色とかたちのハーモニーをぜひ楽しんでいただければと思います。

ジョルジュ・ルオー《二人組(二兄弟)》 1948年 油彩 ポンピドゥー・センター、パリ/国立近代美術館 Photo © Centre Pompidou,MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Christian Bahier / Philippe Migeat /distributed by AMF

たとえば、本展のメインビジュアルにも載っている《二人組(二兄弟)》では、ルオーにしては珍しくパステルカラーが使われているのですが、淡いグリーンとピンクが美しく調和しています。他の作品でも、黄色とオレンジの響き合いなど、色彩の調和に着目してみてください。(後編につづく)

開館20周年記念展 ジョルジュ・ルオー ー かたち、色、ハーモニー ー
会期:4月8日(土)~6月25日(日)
会場:パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階)
午前10時より午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
※5月12日(金)、6月2日(金)、6月23日(金)、6月24日(土)は午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで)
観覧料:一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:700円、中学生以下:無料
休館日:水曜日(ただし5月3日(祝)、6月21日(水)は開館)
アクセス:JR新橋駅より徒歩約8分など
詳しくは同館の展覧会HPへ。問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)へ