【レビュー】「春の江戸絵画まつり 江戸絵画お絵かき教室」府中市美術館で5月7日まで 「描く」視点で江戸絵画を「見る」 応挙・若冲・蘆雪に挑戦!

春の江戸絵画まつり 江戸絵画お絵かき教室
会場:府中市美術館(東京都府中市浅間町1-3)
会期:2023年3月11日(土)~5月7日(日)
前期:3月11日~4月9日 後期:4月11日~5月7日 ※大幅な展示替えあり
休館日:月曜日(5月1日は開館)
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
観覧料:一般 700円/高校・大学生 350円/小・中学生 150円
詳しくは館の公式サイト

「絵が描けるようになりたい」
そんな風に思ったことはありませんか?
巷には絵を描くための指南書が溢れています。ずらりと並んだテキストの数々に、さて何から手を付けようかと悩むこともしばしば。それではいっそ、江戸絵画に学んでみるのはいかがでしょう?
府中市美術館では、毎年「春の江戸絵画まつり」という企画を開催しています。記念すべき20回目を迎える今回のタイトルは、「江戸絵画お絵かき教室」。見るだけでなく、自分も絵を描いてみたいという人にこそオススメの内容となっています。本展を担当された学芸員の金子信久さんによるコメントを交えながら紹介します。

「江戸絵画お絵かき教室」とは?

明治になり西洋化が進むと、日本の美術教育の基礎分野にも西洋式が採用され、日本画を学ぶときにもデッサンが必要とされるようになりました。ちなみに「日本画」「洋画」という言葉が生まれたのもこの頃です。以来どんなジャンルであれ、絵を描くにはまずデッサンから入ることが基本となりましたが、ここで躊躇してしまう人もいるのではないでしょうか。
「それなら一旦西洋式を忘れて、それまでの日本の絵の歴史の集大成とも言える、江戸時代の絵を教科書にしてみてはどうだろう? そう思ったのです」と金子さん。

長沢蘆雪《唐子遊図屛風》※部分 江戸時代中期(18世紀後半)個人蔵

展覧会は江戸時代に主に描かれていた4大テーマである動物、人、景色、花の描き方から始まり、画材・技法・表具の解説、江戸時代の絵の学び方、そして江戸絵画の中に潜むヒントの紹介と、4つの章で作られています。

応挙のワンコも今日から描ける! 現代の画材で挑戦する江戸絵画

そうは言っても、江戸時代の絵は筆を用い、墨や特殊な絵具を使って絹や和紙に描かれています。金子さん、画材を揃えるだけで大変なのでは?
「そう思って、会場では現代の画材でチャレンジできるような解説を用意してみました。また、江戸絵画に詳しいイラストレーターの長田結花さんに描き方のポイントも紹介してもらっています」

会場風景

そうなんです。第1章では、実際に展示されている作品を描いてみようということで、円山応挙、長沢蘆雪、森狙仙らが描く動物から、鍬形蕙斎、耳鳥斎による略画、さらには曾我蕭白の山水画といった錚々たるメンツの絵に、色鉛筆など身近な画材を使って挑戦できるよう紹介しています。

実際に描いてみるとわかりますが、今まで特に意識しなかった箇所に目が行ったり、画家のこだわりに気づいたりと、鑑賞だけでは開拓できなかった視点に驚きを覚えるはず。「見る」という行動がより能動的になるのを実感します。

付け立て、たらしこみ、筋目描き……江戸絵画の技術・画材集中講座

江戸絵画を鑑賞しているとよく見かける「付け立て」や「たらしこみ」などの専門用語。なんとなく知ってはいるけれど、できれば一度、その描き方をちゃんと理解しておきたいと思う方も多いのでは。他にも墨の濃淡の付け方や綺麗な色の作り方など、「どうやっているのだろう?」と思うこと、ありますよね。

会場風景

第2章は、言うなれば江戸絵画における技術・画材の集中講座です。光がにじむような効果を生みだす「裏彩色」は、なんと支持体(絹)を分解して解説。加えてトレーシングペーパーを使って裏彩色を実践する方法の説明も。
「この章も“実際に描いてみよう”という、体験する視点で解説をしています。例えば若冲で知られる“筋目描き”、難しいと思うでしょう? ぜひやってみてください。意外と描けたりするんです」

さらには江戸絵画に欠かせない、表装の手順をパネルで紹介したコーナーもあります。通常は見ることができない、表具を付け替える際の様子も実物を使って大胆に展示! このエリアだけで知識がぐっと向上すること間違いなしです。

あなたはお手本、アリ派? ナシ派?

江戸時代の画家たちはどうやって絵を学び、自分のスタイルを確立していったのか? その謎に迫るのが第3章と第4章です。
「当時はそれこそ現代のようにまずはデッサン……という共通の基礎はありませんでした。代わりに、とにかくお手本を真似ていた。中国絵画に感銘を受けたら、お手本となる絵を手に入れて日本の風景をそこに落とし込んで描いてみる、といった具合ですね。応挙の画法も、流派を越えて多くの画家が模倣しています」

伝 徽宗《狗子図》 北宋時代(12世紀)か 嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学附属博物館蔵 ※後期展示 こちらは中国伝来のポーズだそう。真似したくなる気持ちがわかる

素晴らしい作品があったら倣って描き方を研究してみる、そうすれば見えてくるものがたくさんある、まさに本展の趣旨と合致します。
けれど真似をしっぱなしでは単なる模作で終わってしまいますから、画家たちはそこから自分流のアレンジを施していきました。斬新なトリミングをしたり、いろいろな視点で描いてみたり、少ない色でカラフルに見せたりと、第4章ではそういった個性豊かなアイデアが紹介されています。

さて。ここまでお手本に倣うことを軸にお伝えしてきましたが、本展は最後にフリーダムな画家たちを紹介しています。その筆頭こそ、我らが徳川家光。その一風変わった作風に思わず目が行きますが、本人は大真面目だったはず。ほかにも仙厓義梵や、画力がありつつ敢えて脱力系も手掛けた長澤蘆雪など、お手本に囚われない作品が並びます。

徳川家光《兎図》(部分) 江戸時代前期(17世紀前半)個人蔵 ※後期展示

「禅の世界では“上手い下手の基準とはなにか”という考え方もありました。また一方で、文人画家たちのように、そつなく描くよりも絵が描きたいという純粋な気持ちが表れた絵こそ尊いとする考え方もありました。こういった視点も、江戸絵画を見る上でとても大切だと思います」
つまり、上手く描けないからといって尻込みしなくてよいということ。なんだか勇気を与えてもらった気がしますね。

今すぐ実践! 江戸絵画を描いてみよう

勇気を与えてもらったところで、熱が冷めないうちに江戸絵画に挑戦してみましょう。
展示室の外にはこのような「お絵かき広場」が作られており、貸し出しされた画材を使って出品作品に挑戦することができます。応挙の仔犬を描くもよし、筋目描きを試してみるもよし。大いに江戸絵画を楽しみましょう。

お絵描き広場

見るだけでなく、自分も真似して描いてみる──そういった視点は、きっと新たな鑑賞につながるはずです。上手くなくても大丈夫。江戸時代の画家たちに背中を押してもらって、絵筆をとってみませんか。
(ライター 虹)