【レビュー】特別展「東福寺」東京国立博物館で5月7日まで 高僧たちの生き様をゆっくり味わう

東京国立博物館で5月7日(日)まで開催中の特別展「東福寺」(10月7日から京都国立博物館で開催)。「京都五山」の禅宗寺院として古くから栄えた東福寺の史上初めての大規模展覧会です。
すでに美術展ナビでは迫力ある仏像や、通天橋から臨む絶景を再現した展示風景などを取材した内覧会レポートやグッズ開封記事が公開されています。そこで今回は、少し角度を変えて鑑賞ポイントを1つ掘り下げて紹介します。
「教えの系譜」に注目

本展のように一つのお寺を丸ごと特集した総合展は、そのお寺が成立した時代や宗派によって、展示に特徴が表われます。たとえば、奈良時代以前に創建された古刹の展覧会なら古い仏像や経典、壁画や出土品などが注目ポイントになりやすいでしょう。あるいは、最澄や空海など平安密教の教えを受け継ぐ寺院なら、密教法具や曼荼羅図などの名品が揃います。
では、東福寺のような禅宗寺院はどうでしょうか?
筆者なら、まずそのお寺の創建に関わった高僧や、その後継者たちにちなんだ寺宝を真っ先にチェックしたいです。というのも禅宗寺院では、師から弟子へと仏法が引き継がれる系譜を「法脈」と呼んで大切にしており、そのお寺に関わった歴代の著名な高僧たちを讃えるレアな文物や寺宝が充実しているからです。

特に、法要の際などに掲げられる肖像画「頂相」や、死に臨む際に遺す辞世の詩句「遺偈」は必見。こうした絵や書には各高僧の人となりが色濃く反映され、徳の高い聖人たちも、非常にバラエティ豊かな個性を持っていたことがわかるからです。
本展でも、様々な寺宝を通して歴代の高僧たちが紹介されていますが、まず覚えたいのは、東福寺の開山として招かれた円爾と、彼が中国(宋)で6年間修業した際に学んだ師・無準師範の二人です。
東福寺の開山となった円爾

まずは、東福寺の開山(寺院を開いた僧)・円爾の頂相を見てみましょう。展覧会入り口では、等身大に近い巨大な円爾像が出迎えてくれました。日本に数多く残る頂相のなかでも最大級の大きさを誇る名品です。円爾の頂相は、会期全体を通してのべ7点出品されます。ちなみに、円爾が51歳のときに右目を病んだことから、左側から描かれる頂相が多いようです。

右:重要文化財《円爾号》無準師範筆 中国・南宋時代 13世紀 東福寺蔵
【展示期間:ともに3/7~4/2】
円爾は日本の文化史にも名前を刻んでいます。帰国する際、まんじゅうやうどんの作り方を日本に伝えたとされ、また、南宋から帰港した博多で病魔退散の祈祷を行ったことが、博多祇園山笠の起源となったとも言われています。

【展示期間:4/4~5/7】
展覧会では円爾の貴重な遺偈も出品されます。こちらは弘安3年(1280年)10月17日、円爾が亡くなったまさにその当日、最後の力を振り絞って円爾が遺した悟りの言葉です。展覧会公式図録(308ページ)では、「衆生の利益を念じて精進した七十九年。仏道の心理を知ろうとしても、それは仏も祖師も伝えず、自ら体得するものである」と記したと解説されています。

【通期展示】
また、円爾は天皇家からの信頼も篤く、後嵯峨天皇・後深草天皇・亀山天皇がそれぞれ円爾から受戒しました。「聖一国師」という名前は、円爾没後に花園天皇から贈られたもの。本展では、花園天皇自ら筆をとったと伝わる《勅諡聖一国師号》も出品されます。
中国禅宗界のレジェンド 無準師範
さて、次に円爾の師匠・無準師範についても見てみましょう。無準師範は南宋時代に中国五山・径山万寿寺の第34世住職を務めた高僧。円爾をはじめ、数多くの日本の禅僧たちが無準師範のもとに留学し、無準師範が日本の臨済宗に与えた影響は多大なものでした。
東福寺には、直筆の書跡や頂相など、無準師範ゆかりの文物が多数伝わっており、本展でたっぷりと紹介されています。

【展示期間:3/7~4/2】
数ある頂相のなかでも、必ず見ておきたいのが、南宋で描かれ日本へと伝来した国宝《無準師範像》です。円爾の求めに応じて描かれ、悟りを得たことを承認する「法脈継承」の証として与えられました。画面上部には無準師範が自筆で賛を書いています。柔らかいほほえみをたたえた無準師範が、精緻な線で写実的に描かれた傑作。国宝指定を受けるのも納得です。

【会期中展示替えあり】
円爾が南宋での修業を終えて日本へ帰国する際、無準師範は禅院内に掲げられる案内板や掲示板のための額字や牌字のお手本を、南宋の能書家である帳即之の書とともに大量に円爾へと贈っています。こうした一連の額字、牌字は大切に保管され、模本などに写し取られ、東福寺だけでなく他の禅宗寺院でもこれらの字体にならって掲げられることになりました。
本展では、こうした無準師範・張即之の書いたお手本が展示されています。力強い筆勢には不思議な魅力が宿っているように感じられました。
ぜひ、今度京都の禅宗寺院を参拝した際は、お寺の門や建物の入り口に掲げられている扁額(建物の内外や門、鳥居などの高いところに掲示される額)をチェックしてみてください。無準師範ゆかりの額字が見られるかもしれません。
円爾の系譜を継ぐ個性豊かな高僧たち
本展では、円爾や無準師範以外にも、円爾の教えを受け継ぐ名僧たちが数多く登場します。そこで、ここからは、個性豊かで魅力的な高僧たちをピックアップして紹介します。

【通期展示】
こちらは東福寺第6世住職を務めた蔵山順空の頂相。肖像画に加え、3次元の立体彫刻としても頂相は造られていました。ふくよかな体型で、穏やかな表情を浮かべるなど、鎌倉期ならではのリアルな人物表現に目を奪われます。

【展示期間:3/7~4/2】
続いては、東福寺第9世住職・癡兀大慧の頂相を見てください。前のめりの姿勢で鋭い眼光を飛ばし、一癖ありそうな雰囲気が漂っていますね。
癡兀大慧は、円爾の名声を聞きつけ、議論を挑みに東福寺へ赴くも、逆に円爾に感化されて弟子入りしたという、面白いエピソードを持っている人物です。勝ち気で議論好きな性格が絵の中の表情で表されているのでしょうか。

右:重要文化財《癡兀大慧像》自賛 鎌倉時代・正安3年(1301)京都・願成寺蔵
両作品とも【展示期間:3/7~4/2】
隣に展示されている癡兀大慧の遺偈にも要注目。正和元年(1312年)11月22日、癡兀大慧が84才でまさに亡くなった当日に書かれました。80歳のときに両目を失明した癡兀が、最後の力を振り絞って遺した渾身の書を見ると、グッと来るものがあるはずです。

【通期展示】
こちらは一風変わった書跡。「虎」という文字が、まるで絵のように書かれています。書いたのは円爾の孫弟子にあたる、東福寺第15世住職・虎関師錬。自分自身の名前から1文字を取って書いたのでしょう。虎関師錬は漢詩や漢文にも優れ、わずか14歳のとき、師匠と仏教議論を行ったとも言われています。

【通期展示】
こちらは、東福寺第43世住職・性海霊見の頂相。なんとこちらの高僧は髭にロン毛という非常に個性的な面持ち。実はこれには理由がありました。
性海霊見は、中国・元で修業を積み、帰国後は虎関師錬に仕え、東福寺の住職を務めたあとは天龍寺、南禅寺の住職を歴任するなど、当時の仏教界でスター的な存在でした。しかし晩年は東福寺の境内塔頭・退耕庵にひとり籠もり、将軍からの呼び出しにも応じることがなかった……というエピソードが残っています。髭や後ろ髪が伸びた頂相は、まさに晩年の性海霊見を再現していたわけですね。
本展では、無準師範、円爾を筆頭に、東福寺ゆかりの高僧たちの人物像が、一人ひとり丹念に掘り下げられていました。
ここで紹介した人物以外にも、まだまだ個性豊かな名僧たちが本展では登場します。ぜひ、解説パネルや音声ガイドの助けなども借りて、残された寺宝や文物から、東福寺に脈々と受け継がれてきた禅宗の系譜を体感していただければと思います。
(ライター・齋藤久嗣)
特別展「東福寺」 |
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東京会場:東京国立博物館 平成館 |
会期:2023年3月7日(火)~5月7日(日) |
開館時間:午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで |
休館日:月曜日 ※ただし、5月1日(月)は開館 |
観覧料:一般2,100円 大学生1,300円 高校生900円 中学生以下無料 |
アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分 |
問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)へ |
京都会場:京都国立博物館 平成知新館 |
会期:2023年10月7日(土)~12月3日(日) |
開館時間:未定 |
観覧料:未定 |
詳しくは、展覧会の公式サイト https://tofukuji2023.jp/ |