時事映画、教育映画、観光映画、産業映画―― 戦前の貴重な歴史映像87作品をウェブで配信・公開 国立映画アーカイブ「フィルムは記録する」がスタート

国立映画アーカイブ(東京・京橋)は、同館が所蔵する文化・記録映画などの映画作品を配信するウェブサイト「フィルムは記録する ―国立映画アーカイブ歴史映像ポータル―」を3月31日、発足させました。国立情報学研究所との共同で構築・開設しました。以下から見られます。
約 8万 6 千本にのぼる同館の所蔵フィルムのうち、劇映画ではない実写作品である文化・記録映画やニュース映画は、日本映画だけで 5 万本近くに及びます。本サイトでは、これまでは上映の機会や放送・パッケージでの普及が限られてきた、こうした歴史映像群を全篇視聴可能な状態で公開します。
ウェブサイトを通じて、激動の日本の近現代社会の諸相と、そこで生きてきた人々の記録を広く共有することを目指しています。同館の所蔵コレクションの配信としては、「日本アニメーション映画クラシックス」(2017 年)、「映像でみる明治の日本」(2019 年)、「関東大震災映像デジタルアーカイブ」(2021 年)に続く 4 つ目のウェブ サイトです。
初回公開は87作品 日露戦争やスポーツ、観光など多彩
今回公開されたのは87作品。日露戦争の記録を初め、文部省が推進した科学やスポーツ、観光などを扱う教育映画、行政や企業による産業や地方振興の PR 映画、皇室行事や軍事演習の記録など、題材も撮影場所も多彩です。今後も随時公開作品を増やしていく予定です。
サイトでは作品や素材に関する詳細情報を掲載するとともに、全文検索や、ジャンル、撮影場所(都道府県)、年代による絞り込み機能も備えています。注目の映像作品を以下に紹介します。

1924 年 1 月 26 日に結婚した皇太子殿下(後の昭和天皇)と妃殿下がその報告のため、同年 2 月 23 日より 27 日にかけ、伊勢神宮 (三重・豊受大神宮、皇大神宮)、神武天皇陵(奈良・畝傍)、 明治天皇・昭憲皇后陵(京都・桃山)に参拝した際の記録。地元 の奉迎ぶりのみならず、沿線の住民たちが大挙してお召列車を迎える 様子も収められている。

東京帝国大学運動場や東京女子師範学校校庭などで撮影された、陸上競技、球技、水泳、マスゲームなど、女子による運動が網羅的に紹介されている。時折挿入されるスローモーション撮影では、アスリートのダイナミックな動きが捉えられている。スイマーや観客で溢れかえった井之頭恩賜公園の東京市プールの光景など興味深い。

明治製菓の製菓工場(川崎)におけるチョコレートの製造工程、牧場(茅ヶ崎)と製乳工場(両国)の様子を描写し、同社による主要製品を紹介する PR 映画。完全版と思われる。

日本三景の一つである宮城県松島を紹介する作品。学校教育や社会教育において参考となるよう、東京美術学校写真科畑保之教授の指導のもと、1925 年 2 月に撮影が行われた。航行する船上から撮った島嶼や奇岩などの景勝が美しい。

現・千葉県松戸市に所在し、教育総監の管轄下で工兵関連の教育・調査・試験を行った陸軍工兵学校による敵前渡河の訓練風景。煙幕のなかを幾艘もの船が進むところには、スケールの大きさを感じる。演習は江戸川架橋場で行われたものと思われ、遠くに映る橋梁は1911 年に架橋された木造の葛飾橋と見られる。

日本軍第三軍に従軍した英国アーバン社のジェゼフ・ローゼンタールが撮影した Port Arthur Siege and Surrender を基に、教育勅語や皇統図のカットなどを付け加えて再編集した作品。英語タイトル「PORT ARTHUR SIEGE AND SURRENDER URBANORA」は、この作品にしか残されていない。
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)