【レビュー】「応挙と蘆雪、そして古九谷様式」東京黎明アートルームで5月5日まで 屈指の江戸絵画とやきものを堪能

新宿から数キロ離れた閑静な住宅街の中にある、まるで隠れ家のような美術館「東京黎明アートルーム」。2015年にリニューアルオープンして以来、日本美術や東洋陶磁などを中心に年に数回の展覧会を開催しています。
3月18日に始まった「応挙と蘆雪、そして古九谷様式」(5月5日(祝・金)まで)は、江戸絵画のスター画家と古九谷様式の名品を合わせて展観した、力の入った内容でした。
応挙と蘆雪 師弟をセットで

東京黎明アートルームの展示室は、1F、2F、地下1Fと3つのフロアに分かれていますが、どの展示室から鑑賞してもOK。筆者は、18世紀の京都で活躍した絵師、円山応挙と長沢蘆雪の師弟をセットで特集した地下1Fの第4展示室から鑑賞をスタートしました。
第4展示室内に入ると、両サイドのガラスケースに応挙、蘆雪が4点ずつ並んでいました。まずは応挙から見ていきましょう。

まず目を惹かれたのが、ボタンやコブシ(または木蓮)といった春の花々が散りばめられ、そこに5羽の鳥が群がる《花鳥図》です。花びらなどに精緻に表現されたグラデーションや、鮮やかな群青の鳥の姿に目を奪われました。18世紀京都画壇で不動の人気を誇った応挙の実力が遺憾なく発揮された名品です。

かと思えば、肩の力を抜いてさらっと仕上げた《行水美人図》など、水墨画の小品も並んでいます。多彩な画技の引き出しを持つ応挙の才能に唸らされました。
続いては反対側の展示ケースに並ぶ蘆雪を見ていきます。師・応挙から受け継いだ写実的なスタイルはそのままに、様々な水墨技法を駆使した作品が並んでいました。


特に注目していただきたいのは、蘆雪が筆ひとつで表現したしっとりとした空気感や、うずまくような生気です。水墨の濃淡やにじみ、ぼかしを巧みに操る蘆雪の天才的な画技がたっぷりと堪能できました。

もう1点見逃せないのが、蘆雪《柳双狗図》で描かれた子犬です。応挙は生まれたばかりの子犬を可愛く描く名手でしたが、この様式は一門の弟子にもしっかりと受け継がれています。個人的には、蘆雪の描く子犬のかわいさは師匠・応挙を越えていると思っています。ぜひ、日本の萌え文化の源流とも言えるワンコを楽しんでみてください。
古九谷様式の逸品がずらり

1Fの展示室では、同館が所蔵する古九谷様式の名品があわせて紹介されているのですが、こちらも非常にハイレベルな逸品揃いでした。
本展では、古九谷様式とは1640年代から日本でもつくられるようになった色絵磁器のうち、初期のものを指します。かつては加賀九谷村(現・石川県加賀市)で焼かれたと考えられ「古九谷」と呼ばれてきましたが、その後の発掘調査の進展によって、これらは肥前・有田(現・佐賀県有田町周辺)でつくられてきたことがわかっています。

古九谷様式の特徴は、なんといっても鮮やかな色彩と大胆な構図。青・黄・赤・紫・紺青の5色の絵具を使い分け、のびやかなデザインの中に、素朴さも残る深い味わいが特徴です。かなり特徴的な作風なので、慣れてくると一目で「あっ、これは古九谷様式だな」と見分けられるようになります。

展示室内には、カラフルな文様や花鳥画が目を引く大皿から、状態の良い揃いものの小皿まで、ハイレベルな作品がズラリ。一度でいいから、こんな風格のあるお皿で食事をしてみたいものです。
大皿などは見やすいので、ぜひ上から覗き込んだり、真横から鑑賞したり、様々な角度から見てみましょう。見込み(うつわの内側)部分だけでなく、胴(外側側面)や高台(脚の部分)などにもくまなく絵柄があしらわれ、古九谷様式独特の濃い色彩が楽しめます。


山元春挙の大作も
また、1F展示室の最奥部に展示された六曲一双の大作《藤花小禽図屏風》も見逃せません。明治~昭和初期に活躍した京都画壇の巨匠・山元春挙が描いた名品です。


見どころは、複雑にねじれて絡まり合う藤の幹です。ほとばしるように速く大胆な筆さばきで、枝ぶりがリアルに表現されています。まさに圧巻。

また、春の暖かな空気感を金砂子で上品に表現し、太陽の光を受けて輝く藤の葉を、金泥を用いて表現するという細やかな工夫にも瞠目しました。余白をたっぷりと取った叙情的な構図も素晴らしいです。応挙や蘆雪のDNAを引き継いだ円山・四条派の巨匠の作品に、心ゆくまで没入してみてください。
工夫を凝らした解説パネルにも注目

筆者が同館を訪問するのは数年ぶりでしたが、今回、もう1点印象的だったことがありました。それが、工夫が凝らされた「キャプション」や「解説パネル」です。
すべての作品に丁寧な解説が用意されており、日本美術ややきものに対する事前知識がない人でもしっかり楽しめるように配慮されていました。
これに加えて、遊び心もたっぷりと加えられていました。たとえば、上で紹介した長沢蘆雪《柳双犬図》の解説文には、“きゅんきゅん”。“モフモフ”といった、カジュアルな単語が使われており、思わずクスリとさせられました。

また、ところどころで穴埋めクイズが設けられていたり、架空のキャラクターを用いたイラスト付きの作品解説なども面白い試みです。

ともすると難解なイメージをもたれがちな日本美術や東洋陶磁の世界に対して、少しでもなじんでもらいたいと工夫を重ねる同館の取り組みに感銘を受けました。
鑑賞に少し疲れたら、2021年秋に地下1Fに新たにオープンしたカフェ「SUZU COFFEE」もオススメ。同館が収集している六田知弘氏の写真作品を楽しみながら、自然農法で栽培した豆や茶葉を使用したコーヒー、紅茶をいただけます。
「応挙と蘆雪、そして古九谷様式」は5月5日(祝・金)まで。江戸絵画や陶磁器が好きな方はもちろん、アート初心者でも安心して楽しめます。
(ライター・齋藤久嗣)
応挙と蘆雪、そして古九谷様式 |
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会期:3/18(土)~5/5(祝) |
会場:東京黎明アートルーム (東京都中野区東中野2-10-13) |
開室時間:10:00~16:00 ※最終入室は15:30 |
観覧料:一般 600円 / 20歳未満は無料 ※障害者手帳をお持ちの方及び介護者の方は300円引き |
休 室 日:4/3(月)、4/16(日)、5/3(祝・水) |
アクセス:JR 東中野駅 西口より 徒歩7分 都営大江戸線 東中野駅 A3出口より 徒歩約7分 東京メトロ 東西線 落合駅 A1出口より 徒歩約14分 東京メトロ 丸の内線 中野坂上駅 2番出口より 徒歩約13分 |
詳しくは同館の展覧会HPへ。 |