【レビュー】「重要文化財の秘密」東京国立近代美術館で5月14日まで 近代美術の価値はいかにして更新されてきたのか?

東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」が開催中です。なんと史上初、展示作品全てが重要文化財という、とても稀有な内容となっています。そう聞くと、同じく国宝で構成されていた「国宝展(「国宝 東京国立博物館のすべて」)」(2022年 東京国立博物館)を連想しますが、どうやらこちらは少し異なる趣旨のよう。展示内容とともに、その背景にある意義について紹介します。
重要文化財についておさらい

ここで一度、重要文化財についておさらいをしてみましょう。
重要文化財とは、1950年に制定された文化財保護法に基づいたもので、建物、絵画、彫刻、工芸品などのうち「各時代の遺品の中で、制作優秀かつ我が国の文化史上貴重なもの」を指し、その中でも特に重要なものが国宝として指定されます。
ちなみに2023年3月現在、建造物も含め、国内で登録されている重要文化財は13,377件(※国宝の件数含む)。しかしその中で明治以降に制作された絵画・彫刻・工芸はわずか68件です。さらに戦後生まれの作家の作品となると、なんと0件に。
これは近代美術が重要文化財に指定されるにあたり、作られてからあまり時間が経過していないため、価値の見極めが難しいことが理由とされています。
本展覧会の狙いとは?
さて、上で「重要文化財は文化史上貴重なものであり、近代美術は(経年が短いため)価値の見極めが難しい」と書きました。では、そもそも重要文化財の価値はどのように決められるのでしょうか?
実はここが本展の狙い目。会場には本展に出ていない作品も含め、明治以降に制作され、重要文化財に指定された作品68件を、指定順に掲載した年表が用意されています。
ここから浮かび上がってくるのは、ずばり評価の変遷。会場では作品そのものの魅力を堪能するだけでなく、重要文化財の評価の移り変わり、つまり貴重とされる価値の基準がどのように変わっていったかを実物を見ながら確認できるようになっているのです。
「問題作」が「傑作」になるまで 近代美術のあゆみを見る

1952年、日本初の国立美術館として、東京国立近代美術館が京橋に誕生しました。その2年前に文化財保護法が制定されているので、同館は指定制度と並行するかたちで日本の近代美術史を形成してきたと言えるでしょう。
また、明治以降の作品が最初に重要文化財に指定されたのが1955年ですから、近代美術に対する評価の大きな転換期であったとも考えられます。当然従来の評価基準だけでは作品の価値を計れなくなってきたため、その価値観のアップデートも必要とされました。そこで、本展のキャッチコピーである〈「問題作」が「傑作」になるまで〉が活きてくるのです。
今でこそ確固たる地位を築いた表現方法も、発表当時は斬新であるがゆえに低く見られることがありました。横山大観らが試みた「朦朧体(輪郭線を用いず空気や光を表現する描法)」もそのひとつ。しかし研究や議論が進むにつれて価値観が変化していくと、作品が再評価されるようになります。このあたりはヨーロッパにおける印象派のエピソードと似ていますね。

中には同じ作家による異なる作風の作品が、時代を超えて全く違う評価の下に重要文化財に指定されることもありました。
総展示数51点! 近代美術の重要文化財、奇跡の集結

上でも紹介したとおり、明治以降に作られ、重要文化財に指定された作品は68件。本展ではそのうち51点の作品が展示されます(展示替え含む)。51点と聞くと少ないように感じるかもしれませんが、重要文化財は年間で展示できる期間が決まっていることもあり、借用のハードルが高く、これだけの数を集められたのは奇跡に近いのだそう。
閉幕直前の6日間(5月9日~5月14日)には、修復を間近にした菱田春草の《黒き猫》(永青文庫蔵 熊本県立美術館寄託)も登場するとのこと。わずか5日間で仕上げられた名作は当時どのような評価を得たのか、実物を見ながら確認したいですね。
未来の重要文化財に会いに行こう

このように価値は時代とともに刷新されていきます。今は物議をかもしている作品も、いつか重要文化財や国宝に指定される日が来ないとも限りません。
コレクションが充実していることでも知られている、東京国立近代美術館。「重要文化財の秘密」を見た後は、ぜひ所蔵作品展にも足を運んでみてください。今目の前にある作品が、未来の重要文化財になる可能性も十分にあります。その時、美術史に刻まれる「価値」はどう変化しているのか──そう意識しながら鑑賞するのも面白いかもしれませんね。
また、同館ではコレクションによる小企画「修復の秘密」も開催中です(~5月14日)。美術館の重要な仕事のひとつである修復は、「作品を未来につなげる」ほかに、「制作当初の姿をできるかぎり鑑賞者に伝える」という役割も持っています。日頃なかなか知ることのできない修復の詳細な内容とともに、修復家の声に触れるチャンスです。

名作を味わうだけでなく、さまざまな視点と文脈から楽しめるのがこの展覧会の特徴です。これを機に、一歩踏み込んだ鑑賞にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
(ライター・虹)
東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」 |
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会場:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園) |
会期:2023年3月17日(金)~5月14日(日) 展示替えあり |
休館日:月曜日(5月1日、5月8日は開館) |
開館時間:午前9時30分~午後5時、金曜・土曜は午後8時まで(入館は閉館30分前まで) |
観覧料:一般1,800円、大学生1,200円、高校生700円 |
アクセス:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口から徒歩3分 |
詳しくは展覧会公式サイトで:https://jubun2023.jp/ 公式ツイッター@jubun_2023 |
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