【開幕レビュー】「青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション」(第1期)群馬・原美術館ARCで、9月3日まで

群馬県渋川市の「原美術館 ARC」で3月24日に開幕した「青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション」のプレスツアーに参加しました。

原美術館ARCは、現代美術の専門館である原美術館(東京・品川、 1979-2021)と、別館ハラ ミュージアム アーク(群馬・渋川、1988年開館)が、 2021年4月に集約された美術館です。伊香保グリーン牧場に隣接する自然に恵まれた広大な敷地に建てられています。設計は、昨年末に亡くなられた磯崎新で、現代美術を展示する三つのギャラリーは、ピラミッド型の屋根から自然光が降り注いでいました。
まずは坪内雅美学芸部長のご案内で、原美術館が集めた1950年代以降の世界の現代アートから鑑賞しました。本展のキーワードは「 青空は、太陽の反対側にある 」です。輝く太陽の周りは少し白っぽく、太陽から離れるにつれて青さが増していきます。思い描く理想の青い空は太陽の反対側にあることから、自身の理想を求めて当時の流行りや多数派に流されずに、誰も見たことがないオリジナリティーを追求してきた国内外のアーティストの作品が集まりました。

最初のギャラリーAは「希望を保つ」がテーマです。やなぎみわの《案内嬢の部屋1F》は2枚組の写真。ショーウインドーに閉じ込められたり、エスカレーターに押し込められるように横たわったりする案内嬢たちは、社会からこうあるべきだと強制される女性の生きづらさなどを表しています。
これと反対に、女性がこうなりたいという姿を描いた作品もありますので、対比してみると興味深いのではないでしょうか。

奈良美智の《Fountain of Life》は2004年に品川にあった原美術館の個展で展示された作品です。その時は子供たちが目から涙を流す噴水だったそうですが、今は流していません。涙を流していないと、悲しいだけではなく、心穏やかな表情にも見えたりと、人によって見方が変わってきます。

ギャラリーBのテーマは「行動」。ありふれた商品やマリリン・モンローの写真を基にした作品の印象が強いアンディ・ウォーホルですが、本展では自らが撮影した写真4枚を、ミシンで縫った「縫合シリーズ」が7点飾られています。ウォーホル自身が撮影したものが分かるのは興味深いですね。「ポップでクールなウォーホルらしくない、記憶を縫いつけておきたいという感情が晩年に表れたのでしょうか」と坪内学芸部長は想像します。

デュッセルドルフ芸術アカデミーで教鞭をとっていたヨーゼフ・ボイスをオマージュした作品群は見ごたえがあります。定員による制限で、多くの志願者がアカデミーへの入学を拒否されたのに抗議し、ボイスは事務所を静かに占拠しました。《民主主義はいいもんだ》は1972年に解雇通告を受けたボイスの様子を捉えた写真に、タイトルの文字をペン書きした版画作品です。
政治的行動を芸術作品に転化させ、芸術を技巧から解放して、反芸術にも芸術の領域を広げました。

最後のギャラリーCは「抗う」がテーマ。背景に戦火の煙が上がる奈良美智の《Eve of Deastruction》は戦争への抗いと同時に、「明日なき世界」に大人になることに抗う子供を描いています。また、ロイ・リヒテンシュタインの《静物》は、アメリカンコミックのような表現方法で、17世紀のオランダの静物画など、写実性の高い絵画と対立しています。


特別展示室「觀海庵」では、明治の 実業家・原六郎(1842−1933)が収集した 近世日本絵画、工芸、中国美術 などをの優品が見られます。今回の目玉は、国宝の《青磁下蕪花瓶》と、《青磁袴腰香炉》です。どちらも通常は東京国立博物館に寄託していますが、今回は一時里帰りしています(展示期間: 3月 24日~4月 26日)。どちらも爽やかな 青空色 が美しい名品です。
さらに「光悦本」 と呼ばれる希少な古活字本である《謡本》は帖を替えながら 通年展示。 記録に残る限りでは《青磁袴腰香炉》は 、明治45(1912)年に東京帝室博物館(現・東京国立博物館)開催の特別展覧会 「和漢青磁器」 展以来の一般公開 、《謡本》は初公開 となるそうです。


広々とした敷地には、ウォーホルの《キャンベルズ トマト スープ》や、大きなハートなど「映える」屋外アートもいっぱいあります。標高が高いので、ソメイヨシノの見どころは4月第1週から第2週ぐらいで、4月第3週ぐらいには八重桜の木々がピンクに染まるそうです。東京の桜が終わった後は、花見も兼ねて、現代美術と東洋古美術の逸品を観賞しに、渋川までお出かけになってはいかがでしょうか。(美術展ナビ編集班・若水浩)
青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション |
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会場:原美術館ARC(群馬県渋川市金井2855‐1) |
会期:第1期 2023年3月24日(金)~9月3日(日) 第2期 2023年9月9日(土)~2024年1月8日(月・祝) |
休館日:木曜日(12月28日、1月4日、祝日を除く)、1月1日。※8月は無休 |
開館時間:9:30–16:30(入館は16:00まで) |
入場料:一般 1,800円、大高生 1,000円、小中生 800円 |
詳しくは、同館HP |
※第2期は大きく展示作品が変わります。
◆ほかの展示作品などはプレビュー記事もご覧ください