【レビュー】緻密でリアル、時々デザイン的……北斎が描く「鳥」の姿――すみだ北斎美術館で企画展「北斎バードパーク」 5月21日まで

葛飾北斎「杜鵑」すみだ北斎美術館蔵(前期)

企画展「北斎バードパーク」
会場:すみだ北斎美術館(東京都墨田区亀沢2-7-2)
会期:2023年3月14日(火)~5月21日(日)
休館日:月曜休館
アクセス:JR両国駅東口から徒歩9分、都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口から徒歩5分
観覧料:一般1000円、高校生・大学生700円、65歳以上700円、中学生300円、障がい者300円、小学生以下無料
※前期(~4月16日)、後期(4月18日~)で展示替えあり。詳細情報はホームページ(https://hokusai-museum.jp/)で確認を。

中空を舞う杜鵑ほととぎす。後ろに見えるのは、形からすると「二十六夜の月」だろうか。陰暦の1月と7月、夜半過ぎにでる月の光の中に弥陀・観音・勢至の三尊が現れる、といわれた「二十六夜の月」。その前で無心に飛ぶ一羽の鳥。この角度からの杜鵑を北斎は何作か描いている。お気に入りの絵柄だったのだろうか。月と鳥のモチーフ、そこに込められているのは、生命の神秘と力強さ、それに対する畏敬の念だろうか。今回、すみだ北斎美術館では初公開となるこの肉筆画、いろいろな想いを観覧者に抱かせる。

展示風景

北斎とその一門の作品を主に収集するすみだ北斎美術館。「北斎バードパーク」と題された今回の企画展は、北斎とその一門が描く「鳥」がテーマだ。江戸の浮世絵に様々な新風を吹き込んだ北斎だが、実は「花鳥画」もそのひとつなのだという。浮世絵の「王道」は、あくまで美人画と役者絵。鳥や花を描く「花鳥画」はジャンルとしてはあったのだが、あくまでも傍流に過ぎなかった。それを人気の画題にしたのは、北斎の力が大きいのだという。ちなみに北斎とともに「花鳥画」を数多く残したのは、あの歌川広重。浮世絵の世界で「風景画」を確立した2人だが、こちらのジャンルでも競っていたわけだ。そう考えると、北斎・広重の足跡はとても大きなものだったと思えるのである。

葛飾北斎「芙蓉に雀」すみだ北斎美術館蔵(前期)

北斎の「花鳥画」の特徴は、描写がリアルで精緻なこと。上に挙げた「芙蓉に雀」、下に挙げた「鵙  翠雀  虎耳草  蛇苺」を見ていただこう。花弁の一枚一枚、羽毛のひとつひとつまで、きっちり描き込んであるのがよく分かる。「北斎は理系、広重は文系」とはよく言われることだが、サラッときれいに花鳥を描く広重に対して、北斎の花や鳥はまるで博物誌を見ているように細かい。今回の展示では、画題となった鳥とその絵を一枚ずつ対応させて説明しているのだが、北斎の「理系」ぶりがはっきりと浮かんでくる。

それは「絵手本」として出版された「版本」でも同様だ。様々な鳥が並んだ『北斎漫画』の見開きページ。江戸時代は愛鳥家が多かったようで、身分の上下を問わず鳥を飼うのが流行っていたそうだ。ここに描かれている鳥たちを、江戸の人々は「図鑑を見るように」鑑賞していたのだろうか。

葛飾北斎「鵙 翠雀 虎耳草 蛇苺」すみだ北斎美術館蔵(前期)
葛飾北斎『北斎漫画』三編 風鳥 ほか すみだ北斎美術館蔵(通期)

北斎の「鳥好き」は、読本の挿絵の中にも現れている。曲亭馬琴(この人も鳥好きだったという)とコンビを組んだ『椿説弓張月』などでも、挿絵のポイントポイントで鳥の姿が描かれている。下の絵は、「鬼ヶ島」に渡ろうと考えている源為朝を描いたものだが、波のまにまに鳥たちが優雅に飛んでいる。激しく動く人の世とは無関係に営まれる大自然。鳥の姿は、その象徴なのか、とも思う。会場に展示されている《冨嶽三十六景 礫川 雪ノ且》では、雪が降った翌朝、真っ青に晴れた空の中を、小鳥たちが飛んでいる。状況描写を効果的にする「小道具」としても、鳥たちは使われているのである。

展示されている葛飾北斎画『椿説弓張月』後編 一 為朝島めぐりして鬼が島へ渡らんと議す すみだ北斎美術館蔵
葛飾北斎『新形小紋帳』(すみだ北斎美術館蔵)の展示

鳥たちの姿をデザイン化した『新形小紋帳』、弟子たちが描いた鳥たちの「絵手本」やデザイン画……今回の展示、「版本」の割合が多いため、見た目は少し地味なのだが、じっくりと見ていくと相当に面白いのだ。最後の展示は、飯島虚心の『葛飾北斎伝』にでてきたエピソードにまつわるもの。十一代将軍・徳川家斉が鷹狩りの途中で浅草・伝法院に北斎を召し出し、北斎はそこで席画を描くことになったという。御前に出た北斎は、長い紙に太い筆で藍色の帯を描き、その上に足に朱肉をつけたニワトリを放った。足跡が散りばめられた紙をさし、「竜田川の紅葉でございます」と言上、一礼して去ったのだという。果たして、そのような絵が描けるのか。向井大祐氏と勝川ピー氏が実験した様子を映像に収め、出来上がった作品とともに見ることができる。まあ、事の真偽は定かではないが、まるで現代美術のアーティストのようなパフォーマンス。やっぱり北斎は、時代を超えた存在なのだな、と思ったりもするのである。

(「美術展ナビ」取材班)

向井大祐と勝川ピーが制作した「竜田川に紅葉の図」(右、すみだ北斎美術館蔵)。北斎が11代将軍家斉の前で行った「パフォーマンス」を再現、その様子を収めた映像とともに展示されている