【学芸員に聞く・後編】「ブルターニュの光と風 -画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉」ブルターニュの魅力や注目の画家を紹介 SOMPO美術館で3月25日から

リュシアン・レヴィ゠デュルメール《パンマールの聖母》1896年 油彩/カンヴァス 41×33cm カンペール美術館 Collection du musée des beaux-arts de Quimper, France

SOMPO美術館で、2023年3月25日(土)から6月11日(日)まで「ブルターニュの光と風 -画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉」が開催されます。

前編に引き続き、本展を担当した同館の学芸員・岡坂桜子さんに、ブルターニュの魅力や本展で注目したい作家を聞きました。

(ライター・齋藤久嗣)

都会の人々や画家を惹きつけたブルターニュ

「ブルターニュの光と風」プレスリリースより引用

――ブルターニュは、首都パリからほど遠い「辺境の地」にあります。本展の舞台である19世紀、ブルターニュはフランスの人々にとってどんな地域だったのでしょう。

19世紀になると、フランスは首都パリを政治・経済・文化の中心として近代化していきます。そういった中で、ブルターニュは特殊な地域であり続けました。政治的にも宗教的にも保守的な人が多く、田舎なので電気もガスも通っていない場所が多いでしょうし、中世を思わせる伝統的な生活を続けていたからです。

だからこそ、都会の人々はブルターニュの風景や風俗に関心を持ち始めます。ブルターニュにノスタルジックな魅力、ある種の異国情緒を感じていたのかもしれません。

――画家たちがブルターニュに足を運ぶようになったきっかけは?

実は、画家たちの前に、文学者たちが先にブルターニュに足を運んでいます。ブルターニュでは、イギリスから移住してきたケルト人の末裔が多く住んでいたので、フランス語ではなく、伝統的にブルトン語ということばが話されていました。文学者たちは、現地の言葉で語られる伝承や伝説などを文字に書き起こしたり、旅先で見聞きしたものを紀行文として出版したりしました。すると、パリである種の「ブルターニュブーム」が起こり、そこから刺激を受けた画家たちも1830年代からブルターニュを訪れるようになります。

――画家は、ブルターニュという地に何を求めていたのでしょう。

この時代、芸術家たちは、イタリアを範にした地中海沿岸地域の古典的なラテン世界とは違う価値観を求めて、そこからインスピレーションを得て作品を制作しました。今まで大事にしていた古典的な価値観とは違うものを見てみたい、というモチベーションの先にあったもののひとつが、ブルターニュという独自の文化や伝統が残る地域だったのです。

――最初はどんな画家がブルターニュを描いたのですか?

国からの依頼で描かれた大作。藁葺屋根の広がる景色や、人々の服装にも要注目。アドルフ・ルルー《ブルターニュの婚礼》1863年 油彩/カンヴァス  138×203cm カンペール美術館 Collection du musée des beaux-arts de Quimper, France

たとえば、本展に出品される《ブルターニュの婚礼》を描いたアドルフ・ルルー。彼自身はパリ出身だったのですが、生涯にわたってブルターニュを描きサロンに出品し続けています。1838年に初めてブルターニュを描いた作品をサロンで発表したことが、フランスの中央画壇でブルターニュブームが起こったきっかけでした。それ以後、彼は「ブルターニュのルルー」とあだ名されるほど有名になりました。

――ブルターニュ出身で、注目したい画家は?

アルフレッド・ギユ《さらば!》1892年 油彩/カンヴァス 170×245cm
カンペール美術館 Collection du musée des beaux-arts de Quimper, France

ブルターニュにあるコンカルノー出身のアルフレッド・ギユですね。コンカルノーは漁村。アルフレッド・ギユは、漁師など海とともに生きる人々の生活や風俗などを描いています。また、ポン=タヴァンに滞在したゴーギャンの周辺に芸術家コロニーができたように、コンカルノーでもこの人を中心に芸術家が集まっています。

ブルターニュを拠点とした画家集団「バンド・ノワール」

シャルル・コッテ《嵐から逃げる漁師たち》1903年頃 油彩/厚紙 54×75cm
カンペール美術館 Collection du musée des beaux-arts de Quimper, France

――第3章では、「バンド・ノワール」という、聞き慣れない集団も集中的に取り上げています。

「バンド・ノワール」とは、ブルターニュを拠点とした画家の一派で、日本語に訳すと「黒い一団」という意味になります。同時代に活躍したゴーギャンやナビ派の画家たちが、総合主義のもとにはっきりした明るい色彩を使っているのに対して、バンド・ノワールは、ギュスターヴ・クールベのレアリスムや、オランダ絵画などの影響を受け、暗い画面の絵を描きました。とはいえ、実際のところ様式やスタイルは様々で、明るい色彩を使った画家もいました。

――バンド・ノワールの作品から、注目作をひとつ挙げるとしたら?

リュシアン・シモン《じゃがいもの収穫》です。シモンはバンド・ノワールのなかでも、明るい色彩が特長で、画面のなかに赤や青などの色彩を散りばめて構成しています。芋を掘る人、集める人、運ぶ人が、すべてひとつの画面のなかに収まっています。

リュシアン・シモン《じゃがいもの収穫》1907年 油彩/カンヴァス 102×137cm カンペール美術館 Collection du musée des beaux-arts de Quimper, France

シモンは印象派を経験している世代の画家ですが、印象派の画家たちが用いた明るい色彩の方向には行かず、レアリスムに回帰しました。重厚感があって、彩度は高いけれど重々しい筆触が見どころとなっています。ぜひ本展で、リュシアン・シモンと「バンド・ノワール」を覚えていただければと考えています。

――最後に、アートファンに向けてメッセージをお願いいたします。

リュシアン・レヴィ゠デュルメール《パンマールの聖母》1896年 油彩/カンヴァス 41×33cm カンペール美術館 Collection du musée des beaux-arts de Quimper, France

サブタイトルに「画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉」と掲げたとおり、ブルターニュはフランスの辺境でありながらも、数多くの画家たちを惹きつけた、魅力あふれる場所です。19世紀フランス絵画史の中で見ると、ブルターニュは決して辺境ではなく、芸術的な中心地となっていた時代もありました。

本展で登場する45名の画家たちは、それぞれの関心に基づいていろいろなブルターニュの姿を切り取り、解釈して描いています。ぜひ、本展出品作を通して、いろいろなブルターニュの側面を知っていただきたいと思います。

ブルターニュの光と風 -画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉
会場:SOMPO美術館(東京・西新宿)
会期:3月25日(土)~ 6月11日(日)
開館時間:午前10時~午後6時(最終入館は午後5時30分まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般 1,600円、大学生1,100円、高校生以下無料
アクセス:新宿駅西口より徒歩5分
詳しくは、美術館のホームページ
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)