【亀蔵 meets】①三菱一号館美術館「芳幾・芳年展」その2-「最初に記憶に残っているのは、『モナ・リザ』です」

「最初に記憶に残っている絵は、あの『モナ・リザ』」という片岡亀蔵さん

歌舞伎役者・片岡亀蔵さんが三菱一号館美術館を訪れた「亀蔵 meets」の1回目、「芳幾・芳年」展。亀蔵さんはどうして美術館巡りを始めたのか。どんなふうにアートを見ているのか――、シリーズのスタートにあたって、亀蔵さんの「ポリシー」を聞いてみた。

(事業局専門委員 田中聡)

「子どもの頃から映画が好きだった」という亀蔵さん。『若大将シリーズ』の頃から始まった映画館通いは現在も続いており、「今でも年間100回は映画館に行く」という。オールタイム・ベストの作品は『ゴッドファーザー』だが、「ゾンビ」好きでも有名だ。『大江戸りびんぐでっど』という新作歌舞伎に出た時には、記者会見で「ゾンビになりたい」とまで言ったほど。その映画好きの亀蔵さんがどうして美術館通いを始めたのか。

20年ほど前からかな。有り難いことに俳優として仕事が増えてきたんですよ」と亀蔵さんはいう。

「それで、なかなか自分の時間が自由にならなくなってきた。映画館に行こうにも、上映時間と空き時間がなかなか一致しない。喫茶店で煙草をふかしているのもどうかなあ、と考えた時、『これなら』と思いついたのが美術展に行くことだったんです」

振り返って見れば、子どもの頃、「ルーブル美術館展」に行って「モナ・リザ」を見たのが、「アートとの最初の出会いだった」という。「その後も、ルネ・マグリットとかダリとか、どちらかというと不条理な絵を好んで見ていましたね」。この辺りは、ホラー好きと共通する感覚だろうか。役者の家で育ったこともあり、芸術に親しむきっかけは一般家庭よりも豊富にあった。「舞台でご一緒した先輩俳優の米倉斉加年さんに『君もアートなんかを見た方がいい』と勧められたこともきっかけになりました」。美術館ならば、自分の好きな時に行くことができる。観覧時間も自分の都合で調整できる。美術館通いは、そうやって始まった。

「最初はアンディー・ウォーホルとかキース・ヘリングとかの現代美術を中心に見ていたんですが、だんだん他のジャンルにも興味が出てきて・・・・・・。展覧会の図録や美術史の本を読んでいくうちに、いろいろ分かってくるじゃないですか。そうやっていくうちに、アートを見ること、美術館に通うことが、どんどん面白くなっていったんです」

「芳幾・芳年」展の図録を眺める亀蔵さん

今では年に50回程度、美術館を訪れる。現代美術、日本画、浮世絵、近代絵画――ジャンルは問わない。「仙厓の禅画なんかをボーッと見ているのもいい」という。ポリシーは「自分の目で作品を見て、自分の感覚で鑑賞する」ことだ。

「だから、申し訳ないけど、イヤホンガイドなどは余り使いませんね。『これは何だろう』という疑問が浮かんだとき、聞くことができる人が隣にいて、質問できるのならばいいんですけど、自分の意志と関係なく情報が流れてくる、というのは好きではない。だから、今回みたいに、学芸員さんが隣にいて、質問に答えてくれるという環境は『ベスト』でした」

亀蔵さんは、三菱一号館美術館の上席学芸員・野口玲一さん(左)に様々な質問を投げかけた

ひとりの作家をフィーチャーした回顧展などでは、展示の流れを見ながら、「このアーティストは何を考えて、このような作品を作っていったのか」と考えていく。そのうちに、「その人の人生が見え隠れしてくる」という。「若い時、急に凄い絵を描く人もいれば、晩年になって熟成される人もいる。ひとつひとつの展覧会に、ひとつひとつ別の人生がある」。人生の機微が垣間見える。だが、その本質が何なのかは、分かるようで分からない。そんなことを感じ、考えることも美術館巡りの醍醐味のひとつ、と思っている。

「ひとつの展覧会で、ひとつ心に残る作品に出会えれば、それは『いい展覧会だった』とボクは思っています」

有名無名は関係ない。歴史的にどのような評価があるかも、あまり意味はない。その作品がどのようなインパクトを自分に与えるか。それが重要なのだ。

「ある意味、東京で生まれ育ったことに感謝しています。わざわざ遠くまで出かけなくても、バッと思いついた時に気軽に見に行ける。考えてみれば、映画もそう。ボクがそういう趣味を持つようになったのは、東京生まれ、という環境が大きいのかもしれません」

今回の「芳幾・芳年展」は、「ひとつのシリーズを長い陳列ケースに並べて見るなど、『攻めてる』感じがした」そうだ。では、「心に残る作品」はあったのか--。その答えは、最終回で改めてお伝えしよう。

(つづく)

作者不詳「芳年福禄寿揮毫の図」 明治15年頃 悳コレクション
「芳幾・芳年-国芳門下の2大ライバル」展
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
会期:2023年2月25日(土)~4月9日(日)
休館日:3月6、13、20日は休館、会期中一部展示替えあり
アクセス:JR東京駅(丸の内南口)から約5分、有楽町駅(国際フォーラム口)から約6分、東京メトロ千代田線二重橋駅(1番出口)から徒歩約3分、丸の内線東京駅(地下道直結)から約6分、有楽町線有楽町駅(D3/D5出口)から徒歩約6分、都営三田線日比谷駅(B7出口)から徒歩約3分
観覧料:一般1900円、高校生・大学生1000円、小、中学生無料
※詳細情報は公式サイト(https://mimt.jp/ex/yoshiyoshi/)で確認を