【レビュー】奈良国立博物館特集展示「新たに修理された文化財」3月19日まで 修復された文化財を鑑賞するポイントとは?

特集展示「新たに修理された文化財」 |
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会場:会場:奈良国立博物館 西新館 |
会期:2023年2月21日(火)~3月19日(日) |
開館時間:9時30分~17時(土曜日は20時まで)※入館は閉館の30分前まで 東大寺二月堂お水取り(修二会)期間(3月1日~14日)中、3月12日(籠松明の日)は19時まで、土曜日以外は18時まで |
入館料:一般700円/大学生350円 |
詳しくは館のホームページへ |
私達が今、博物館や社寺などで文化財を目にすることができるのは、各時代で“誰かが”その文化財を「後世へ残そう」と意志を持って、保存修理をおこなったからに他なりません。奈良国立博物館で近年修理された収蔵品を紹介する特集展示「新たに修理された文化財」が3月19日まで開催されています。この恒例展示を担当した奈良博保存修理指導室室長の荒木臣紀さんに「文化財の保存修理で大切なこと」を聞きました。
一見修理されていないように見える「現状維持の原則」

実際に展示を観ると、なかには「修理されたはずなのになぜ?」と疑問に思う文化財もあります。例えば朝護孫子寺(奈良県平群町信貴山)の「毘沙門天王三尊懸仏」中央の毘沙門天の手をご覧ください。
手先の部分が欠損しています。なぜ修復しなかったの?と思うかもしれませんが、「今ある状態のものをそのまま(後世へ)伝えることが重要なので、新たな意匠を加えないよう補作はしないのです」と荒木さん。文化財の修復理念のひとつとして、本物としての価値を損なわないため「現状維持の原則」があるのです。
一方で、蓮の花を固定している部位は補作しています。荒木さんは、「そのままだと蓮の花が仏様に当たってしまう恐れがありました。構造上や保存上で必要な場合は補うこともします。しかし、作品の表現上の部分は、足すことはありません」と現状維持の意味について説明してくれました。
作品にもよりますが、仏像などの彫刻類は、クリーニングをして汚れを除去し、漆箔や彩色がある場合は「剥落止め」、接合部分の補強、虫食い箇所の補強、部材位置の修正などがおこなわれています。
あえて修理した箇所が分かるように

こちらの掛軸(聖徳太子絵伝)は、構造上の不具合を解消するため、解体され本格修理がおこなわれました。昔の修理では、傷を目立たなくする効果があるものの、絵自体が見えにくくなる墨裏という裏打ちが施されていましたが、今回の修理ではそれが剥がされ、新調した裏打紙を4層にわたって貼り込みしています。墨裏されていたときよりも傷は目立ちますが、クリーニングや補彩などで彩度と明度を変えることにより、「ここが修理したところですよと主張はするけれど、鑑賞上は目立たない」(荒木さん)と絶妙なバランスの修理が行われました。
実は、修理には、文化財を傷める原因となる「水」や「光」を用いることが避けられないため、多少の負荷がかかることは免れないそうです。しかし、人間の手術と同じで、保存修理をおこなうことで「延命」できるのです。
「信仰上や鑑賞上必要かどうかで過去の修復箇所を残すか判断しますが、基本的に保存上良くないものはすべて取り除きます。これ以上、劣化しないように将来を考えることが大切です」と荒木さんは言います。


このように現代の文化財の修理は、新たな意匠を加えない、後世にどこを修理したかを伝える、修理した部分の取り外しもできる――など、オリジナルを尊重しながら行われていることが分かりました。
(ライター・いずみゆか)