【亀蔵 meets】①三菱一号館美術館「芳幾・芳年展」その3-亀蔵さんが見た「心に残る作品」とは――

月岡芳年「藤原保昌月下弄笛図」 明治16年 北九州市立美術館蔵

歌舞伎役者・片岡亀蔵さんがアートの現場を訪れる「亀蔵 meets」。1回目の「芳幾・芳年」展で、亀蔵さんが出会った「心に残る作品」とは――。芳幾と芳年の作品についての感想も聞いた。

(事業局専門委員 田中聡)

「ひとつでも『心に残る作品』があれば、その美術展はボクにとっていい美術展」という亀蔵さん。では、「芳幾・芳年」展では、心に残る作品があったのか--。

「月岡芳年の作品では、このシリーズの1回目で挙げた『平相國清盛』もいいのですが、もっとも心に響いたのは、藤原保昌が月夜の夜、笛を吹いている絵です」と亀蔵さんはいう。

「保昌の後ろで、盗賊・袴垂がスキを付いて斬りつけようとしているんですが、どうしても間合いに入れない。オーラがあるんですね。その感じがよく表現されている。考えてみると、このオーラは役者にも共通するモノなんですよ。自然体でいるように見えて、他人を魅了してしまう。『ああ、自分もこうありたいなあ』と素直に思いましたね」

芳年の絵は、「人物が横を向いていたり、背中を向けていたり、飛んでいたりするような、動きのある絵が面白い」と感じたそうだ。「正面向いて、『誰々でござい』という絵からはあまり魅力を感じない。『何かをしている』ところを描いた絵が面白いですね」ともいう。言われてみれば「平相國清盛」も清盛が横を向いている絵である。歌舞伎でいう「見得」をしている感じなのだろうか。

落合芳幾「萬国男女人物図絵」文久元年 浅井コレクション

一方の落合芳幾で印象に残ったのは、「萬国男女人物図絵」。「『萬国』といっておきながら、実在する外国人だけでなく、『穿胸国人』など荒唐無稽なモノが混じっている。何かインチキな感じですよね。でも、その感じがちょっと面白い」

ある意味、この2つの絵は、芳年と芳幾の違いを象徴しているといえそうだ。「最後の浮世絵師」と言われた芳年は、「絵を描くこと」に集中した人生だった。神経衰弱を煩いながらも絵を描き続け、水野年方、山中古洞、金木年景らの弟子を育てた。水野の弟子が鏑木清方である。一方の芳幾は、明治に入って東京日日新聞の発起人となり、「新聞錦絵」で一世を風靡、歌舞伎の雑誌にも深く関わった。当時の「メディアの最先端」で活躍したのである。ある意味、好対照の2人なのだった。

落合芳幾「東京日々新聞 百十一号」 明治7年10月 毎日新聞社新屋文庫

「だからですかね。作品だけを見ると、どうしても芳年の方に目が向きます」と亀蔵さんは言う。

「芳幾の作品には『器用で何でもできちゃう』感じがあるけど『飛び抜けて凄い』と思わせてはくれないんです。逆に、例えば『宿場女郎図』で描かれる女性の肩の生々しさを見ても、芳年の絵は年を経るにつれて、どんどん深くなっているように見える。でも、時流に乗って、たくさんの人に親しまれる作品を量産した芳幾みたいな人は、どんな時代、どこの地域にもいたはず。そういうタイプの制作者は、後の時代の評価では、損をしていると思います。そんな事を考えると、あえて芳幾にスポットライトを当てた企画の意図も理解できます」

月岡芳年「宿場女郎図」明治10-13年 全生庵蔵

芳幾と芳年は江戸末期、「英名二十八衆句」というシリーズで競作した。歌舞伎芝居などの残虐な場面をリアルに描き、「血みどろ絵」として有名な作品群だ。ただ、ホラーマニアである亀蔵さんは、「『そういうものが描きたい』というよりも、『そういうものが見たい』という『お客さん』へのサービスのような感じもありますね」と感想を話す。江戸幕府が揺れていた時代、不安な空気を反映していたということだろうか。実際、「上野の戦争」で人の死を間近に見た後の芳年のタッチは抑え気味になっていき、晩年の「月百姿」では、静謐な雰囲気さえも漂わせている。

「本当の戦場を知った後、芳年がそうなっていったというのは、何だか分かる気がしますね。ホラーファンといっても、ボクは日本の、いわゆる『Jホラー』は苦手なんですよ。あまりにも生々しくて『マジで怖い』と思ってしまう。『ゾンビ』ぐらい日常生活と離れた作品がちょうどいい。『血みどろ絵』もそういう感覚で見られたものだったのかもしれません」

バーチャルな世界での恐怖、残酷体験。それを受容し、求める感覚。ある意味それは、『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』など、現代のアニメにも通じるものなのかもしれない。

(おわり)

月岡芳年「英名二十八衆句 高倉屋助七」 慶應3年 西井コレクション
「芳幾・芳年-国芳門下の2大ライバル」展
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
会期:2023年2月25日(土)~4月9日(日)
休館日:3月6、13、20日は休館、会期中一部展示替えあり
アクセス:JR東京駅(丸の内南口)から約5分、有楽町駅(国際フォーラム口)から約6分、東京メトロ千代田線二重橋駅(1番出口)から徒歩約3分、丸の内線東京駅(地下道直結)から約6分、有楽町線有楽町駅(D3/D5出口)から徒歩約6分、都営三田線日比谷駅(B7出口)から徒歩約3分
観覧料:一般1900円、高校生・大学生1000円、小、中学生無料
※詳細情報は公式サイト(https://mimt.jp/ex/yoshiyoshi/)で確認を