【開幕】「いにしえが、好きっ!-近世好古図録の文化誌-」国立歴史民俗博物館で5月7日まで

手前)国宝「線刻釈迦三尊等鏡像」平安時代 公益財団法人泉屋博古館蔵 奥)『聆涛閣集古帖』鏡 江戸後期 国立歴史民俗博物館蔵

企画展示「いにしえが、好きっ!-近世好古図録の文化誌-」
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
会期:2023年3月7日(火)~5月7日(日)
休館日:月曜日 ※5月1日(月) は開館
開館時間:9時30分~17時00分(入館は16時30分まで)
入館料:一般1000円、大学生500円
詳しくは(https://www.rekihaku.ac.jp/)へ。

開幕前日の内覧会を取材

国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)で企画展示「いにしえが、好きっ!-近世好古図録の文化誌-」が3月7日から始まりました。江戸時代のアンティーク好きコレクターが約2400のお宝を絵で記録した図録を現代の研究者らが調べていったところ、記載されたものが全国各地で次々と”発見”されました。その中には国宝も!

図録は『聆涛閣集古帖れいとうかくしゅうこちょう』(歴博蔵)という名称で、江戸後期に神戸の豪商吉田家が3代に渡って、自分が所蔵するコレクションを中心に古器物を模写するなどしたものです。

こちらのガラスの白瑠璃碗(重要文化財)は、東京国立博物館の考古コーナーでを見たことがあるという人もいるのでは?

『聆涛閣集古帖』に描かれた絵
重要文化財 白瑠璃碗 古墳時代 東京国立博物館蔵

松浦武四郎が見学したときは無くなっていた埴輪

図録に描かれた、古墳時代の馬の埴輪と樽のような須恵器は、「北海道」の名付け親として有名な松浦武四郎が明治時代に吉田家を訪れ「あの馬の埴輪を見せてほしい」と頼んだところ、「ある人に貸したらそのまま返ってこないのです…」。今回の調査で二つが久しぶりの”再会”を果たしました。

コレクター吉田道可

灘の清酒で豪商となった吉田道可という人物は、研究者でもこれまでほとんど無名だったそうですが、実は「寛政の改革」の老中松平定信とアンティーク好きな趣味友(好古家)でした。文化や趣味を愛する人たちの身分を超越したネットワークがあったことに驚きました。

現代も文化のネットワークは健在

2400もの古器物を、絵と短い文だけで、どうやって現在の所在を探し当てたのでしょうか?

2017年度からの歴博の共同研究「『聆涛閣集古帖』の総合資料学的研究」と本展の展示プロジェクトには、組織を超えて研究者たちが集結しました。彼らが集古帖をひもとき、載っている画像の一つひとつを追っていったのです。共同研究代表で東京大学史料編纂所教授の藤原重雄さんは「吉田家のコレクションは散逸しており、答えがあるのかすら分からないパズルを解くような状態でした」と振り返ります。

記事の冒頭に載せた国宝の鏡「線刻釈迦三尊等鏡像」は泉屋博古館が所蔵しています。しかし、江戸時代に吉田家が所蔵していたことは、知られていませんでした。

この鏡は集古帖では拓本が載っていました。下の写真の左側では表の鏡面に線刻された図像をうっすらと読み解くことができます。展示プロジェクト委員の東京国立博物館の清水健さんは「線刻された古鏡は、確認されているもので100面くらい。気長に順番にあたっていこうかと考えていましたが、思いがけず上のほうの候補である国宝と合致しました」と話します。

奥)国宝「線刻釈迦三尊等鏡像」平安時代 公益財団法人泉屋博古館蔵 手前)『聆涛閣集古帖』 江戸後期 国立歴史民俗博物館蔵

ほかにも絵とぴったり同じものがたくさん並んでいます。

左)三鈷杵 奈良時代か 関西大学博物館蔵
左)重要文化財 大円山形星兜 鎌倉時代 淡島神社蔵 右)『聆涛閣集古帖』 江戸後期 国立歴史民俗博物館蔵
馬具 金剛輪寺出土 古墳時代 公益財団法人白鶴美術館蔵

本展図録(2420円)に載っていた協力者数の多さ(下の写真の右ページ)をご覧ください。江戸時代とは違う形ですが令和の日本にも、美術館・博物館・資料館・図書館・大学・寺社など文化を愛するネットワークが息づいていることを実感しました。

グッズも豊富

この知的謎解きを追体験できそうなシークレットマグネット(6種類、330円)や250ページ以上ある図録も余裕で入る大型のトートバッグ(2530円)などオリジナルグッズも充実していました。

最新の研究成果が展示に生かされている、実に歴博らしい企画展示です。(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班 岡本公樹)