【レビュー】奈良時代から途切れず続く「東大寺二月堂のお水取り(修二会)」を奈良国立博物館の恒例展示で知る

修二会画帖 杉本健吉筆 昭和32年(1957) 東大寺蔵 

特別陳列「お水取り」
会場:奈良国立博物館 東新館
会期:2023年2月4日(土)~3月19日(日)
開館時間:9時30分~17時(土曜日は20時まで)※入館は閉館の30分前まで
東大寺二月堂修二会(お水取り)期間(3月1日~14日)は18時まで、3月12日(籠松明の日)は19時まで、土曜日は20時まで
入館料:一般700円/大学生 350円
詳しくは館の公式サイト

奈良に春を告げる伝統行事として知られる東大寺二月堂のお水取りは、暗闇の中、巨大な松明たいまつが燃え盛り、ダイナミックにお堂の欄干から火の粉が舞う様子をニュースで見たことがある方も多いのではないでしょうか。

展示パネルより

お水取りの正式名称は「修二会しゅにえ」と言い、二月堂の絶対秘仏の本尊である十一面観音に対して、悔過法要する儀式です。天平勝宝4年(752年)に東大寺の実忠和尚じっちゅうかしょうが初めておこなって以来、1200年以上、一度も途絶えることがなく続けられてきました。そのため、「不退行法ふたいのぎょうぼう」と呼ばれています。

奈良国立博物館では、修二会(お水取り)の期間(3月1~14日)にあわせた、毎年恒例の特別陳列「お水取り」を今年も3月19日まで開催しています。

    修二会は奈良県内の他の寺院でも行われていますが、東大寺二月堂の修二会(お水取り)は、奈良時代から続いているため古様の行法を残しており、東大寺の僧侶でも何のために行うのか分からないほど、不思議な行法が多いそうです。特別陳列では、この神秘的な仏教法会の世界を、実際に用いられた法具や歴史的な絵画、古文書、出土品から知ることができます。

    二月堂の「絶対秘仏」

    修二会(お水取り)が行われる二月堂は、「大観音おおがんのん」と「小観音こがんのん」と呼ばれる「絶対秘仏」の大小2体の十一面観音像が本尊です。絶対秘仏と呼ばれるからには、その姿を目にすることはできません。一体どんな姿なのか? 特別陳列を担当する奈良博の伊藤旭人さんは「奈良博の研究員でも実際に目にしたことは無いですが、その姿を伝える作品があります」と説明します。

    重要文化財 類秘抄 十一面 一巻 奈良国立博物館蔵
    重要文化財 覚禅鈔 巻第四十四 十一面上 一巻 高野山山内寺院蔵

    鎌倉時代に編纂された図像集で重要文化財「類秘抄るいひしょう」(承久2年=1220年)と重要文化財「覚禅鈔かくぜんしょう」(元亨4年=1324年)には、頭部が特徴的な小観音が描かれた図があります。「絵図として現在知られているのはこの2例のみで、どちらも鎌倉時代のものです」と伊藤さん。

    大観音については、江戸時代(寛文7年=1667年)の火災で像の一部と光背こうはい(重要文化財、奈良博「なら仏像館」に陳列)が二月堂外に出されているため、そこから大きさなどが推測できるそうです。

    二月堂本尊光背(身光)拓本(原品は8世紀) 東大寺蔵

    古い形式の法具類

    南都焼き討ち、太平洋戦争、コロナ禍……どんな災禍が起きても、一度も途切れることなく続けられてきたお水取りでかつて使用された法具類が展示されています。

    左 重要文化財「三鈷鐃(堂司鈴)」鎌倉時代 弘安8年(1285)東大寺蔵

    写真の左の重要文化財「三鈷鐃さんこにょう(堂司鈴)」は鎌倉時代のものですが、奈良時代の法具の特徴を継承しています。本体には弘安8年(1285年)に作られたことを記す銘が刻まれています。

    鉢 奈良時代(8世紀) 東大寺蔵

    こちらの2口の鉢は奈良時代のもので、なんと昭和19年(1944年)まで実際に使われていました。「もしかしたら、正倉院宝物の「仲間」かもしれませんね」と伊藤さんは話します。

    なぜ「お水取り」と呼ばれているのか

    ところで、炎がキーワードとも言える修二会がなぜ「お水取り」と呼ばれているのでしょうか?

    二月堂縁起 室町時代 天文14年(1545年) 東大寺蔵

    それは12日目に「お水取り」の儀式が執り行われていることにちなみます。お水取りの創始や二月堂観音のご利益りやくにかかわる説話を表した絵巻「二月堂縁起」には、魚を採っていて二月堂の行法に遅れた若狭国(福井県)の遠敷明神おにゅうみょうじんが二月堂のほとりに清水を涌き出ださせ、観音さまに奉ったというエピソードがあります。

    朱漆塗担台 室町時代(15世紀) 東大寺蔵。二月堂修二会の「水取り」行事で、井戸(若狭井)で汲んだ香水(こうずい)を二月堂に運ぶのに用いられる道具

    知れば知るほどに、その不思議な世界に魅了される「お水取り」。奈良博だけでなく、東大寺ミュージアム(奈良市)でも特集展示「二月堂修二会 ―受け継がれる誓い―」が3月22日まで開催中です。今年のお松明の拝観は3月1日~14日まで二月堂周辺で人数制限を行ったうえで見学可(3月11日、12日は見学不可)ですが、拝観の前には東大寺の公式サイトで詳細を確認してください。
    (ライター いずみゆか)