【開幕リポート】グランプリは、大阪府在住の吉田桃子さん――SOMPO美術館の「FACE展2023」

FACE展2023 |
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会場:SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1) |
会期:2023年2月18日(金)~3月12日(日) |
休館日:月曜休館 |
アクセス:JR新宿駅西口から徒歩5分 |
観覧料:一般700円、高校生以下無料 |
※詳細、最新情報は、公式サイト(https://www.sompo-museum.org/)で確認を。 |
SOMPO美術館で開催されている「FACE展」(主催:SOMPO美術館、読売新聞社)は、「年齢・所属を問わない新進作家の登竜門」。11回目の今回は、全国1064人の作家から出品があった。グランプリに選ばれたのは、大阪府在住の吉田桃子さんの《Still milky_tune #4》。「単独の作品で公募展に出品するのは初めてなので、受賞はとても嬉しいですね」と吉田さんは話した。

兵庫県出身の吉田さんは、1989年生まれ。京都市立芸術大学の大学院を修了して、作家活動を行っている。既存の音楽をモチーフとして、それに自分なりにミュージック・ビデオを作ったらどうなるかを考えて、そのワンシーンを絵画として切り取るという制作手法を採っている。
受賞作「Still milky_tune #4」では自分自身や自分の親しい人から着想を得て生まれた3人の人物が登場。大学生の時に聞いていたMineralというバンドの「Sadder Star」という曲を題材として、「3人が『もし同じ青春時代を過ごしていたら』というパラレルワールドのような世界観をもとに、この作品を作り上げた」という。
〈吉田桃子の作品は、絵画表現について未だ開拓の余地があるのではと希望を抱かせるものだった。半透明のスクリーンに光をたっぷりと含んだ少年たちの肖像が描かれる。映像を意識したその手法は、絵画の宿命である物質とイリュージョンの相克にもうひとつのページを加えるものだ〉。審査員長の野口玲一・三菱一号館美術館上席学芸員は、「審査講評」で書いている。同じく審査員の大島徹也・多摩美術大学准教授も〈FACE展に新風を吹き込んでくれた〉と賞賛する。


優秀賞は、植田陽貴さんの《whispering》、ヨコミヅコウイチさんの《顕現(仮)》、中嶋弘樹さんの《リビングルーム》の3作品。大島氏が〈記号のような趣のある色とりどりの植木鉢は、どこか音符のようであり、ポップなメロディーが聞こえてくる気がした〉と述べている中嶋さんの作品は、布・紙などを切り貼りする手法を交えて室内の情景を描いた。日本画で使う岩絵の具も使っており、「制作には1か月半ほどかかった」と中嶋さんは話す。読売新聞社賞は橋口元さんの《リズム》。野口氏は〈生活のディテールについて眼を行き届かせながら明るい色彩でまとめた〉と記している。

審査員特別賞は、霧生まどかさんの《13年目の瞼》(野口玲一審査員)、桝澤貴彦さんの《bonfire》(藪前知子審査員)、宮内柚さんの《Work 5-2》(大島徹也審査員)、うえだあやみさんの《視線の指先》(森谷佳永審査員)の4作品。〈異なるイメージが緩やかな関連を持ちながら多重焼き付けされている〉と《bonfire》について述べた藪前氏は、〈強度のあるイメージが、物質性の伴わない視覚的な存在としての印象を強めている。人間の器官と生産のための機関のように、物理的な大きさを攪乱するような複数のイメージを喚起する点も興味を惹かれた〉と評している。
入選は全部で81作品。「ウィズ・コロナの時代を反映してか、内省的な作品が多かった」と美術館ではいう。会期中、観覧者投票による「オーディエンス賞」の選出も行っている。

昨年のFACE展2022